x+2日目
翌日、毎日のようにツイッターを利用しているミオナが、その日の朝に投稿されたのはこのツイートだった。
『今日は風邪をひいちゃったので仕事は休みます』
電車に揺られながらスマホを開いていたアユカは、すぐに心配になり、反射的に返信をしていた。
『大丈夫? 熱があるの?』
『うん 9度以上はある』
『ちゃんと病院に行ってよ』
『分かった』
朝のやり取りはそこで終わったが、お昼休み中にアユカのラインにミオナからのメッセージが届いていた。
『病院に行ったら、インフルエンザだって診断された』
社食で仲のいい同僚たちと話していても、心ここにあらずだったアユカは、すぐにスマホを手に取り、妹からの弱気なメッセージを読んだ。
咄嗟に電話をかけようと思ったが、喉を痛めているのなら声を出すのも大変なのかもしれないと思い、アユカはミオナへの返事を打った。
『大変だね。早く元気になってね』
『ありがとう、お姉ちゃん』
普段は絵文字やスタンプをよく使うミオナだったが、今日は非常にシンプルなメッセージだった。ライン上で「お姉ちゃん」と呼ぶことも珍しい。
インフルエンザで相当参っているミオナの様子に、アユカはこれ以上何も送らなかった。回復したら、彼女の家にラザニアの作り方を習いに行こうと思った。
『犬は中々いうことをきいてくれません しつけは難しいですね』
今夜はソウコの愛犬に関するツイートがあった。しかし、写真は載せていない。
最近は行っていないが、ソウコもアユカと同じマンションでの一人暮らしだった。今までソウコは犬を飼ったことなかったため、苦労しているようだ。
何かアドバイスが出来ればいいのだが、アユカはどちらかというと猫派で、実家で飼っていたのも猫だった。
ソウコのツイートを表示したまま、どう言えばいいのか考えていると、彼女よりも早く返信をした者がいた。
『そんなに言うこときかないの?』
それは、アユカとソウコと高校時代からの友人であるユミエからのものだった。
『全然きいてくれない 今日も入ってはいけない場所に行っちゃってた』
『でもそういう所もかわいいんじゃない?』
ユミエのツイートで、やり取りは一度止まった。
アユカは二人に、『子犬だからねー』と言って加わろうとしたが、その時にソウコからの返事が来た。
『うん かわいいと思うよ』
『そっか 良かった』
それは、ぎこちない会話だった。
ソウコの「かわいいと思う」も引かっかるが、それに対する「良かった」というユミエの答えも可笑しい。
一体二人ともどうしたのだろうと、アユカは一人首を捻る。
確か、高校時代に二人の関係がぎくしゃくしていた時期もあったが、それも過ぎて、三人とも別の大学に進み、全く異なる仕事に就いても友情は続いていた。
私の知らない所で何かあったのかと勘ぐってしまうが、文字の羅列だけではどのような感情がのせられているのかは読み取れない。
その数分後、ぼんやりテレビを眺めていたアユカに、スマホから電話がかかってきた。
画面を見ると、相手はユミエだった。つい先程まで、ユミエとソウコの不可解なやり取りを見ていたので、驚きながらそれを取る。
「もしもし、ユミエ、どうしたの?」
『ねえ、アユカ、明日ヒマ?』
「うん、空いているけれど……」
突然切り出してきたユミエに、アユカは戸惑いながらも素直に頷く。
すると、少しほっと息を吐いたユミエは、その直後も緊張した声で続けた。
『明日、一緒にランチに行かない?』
「いいよ。あ、ソウコも一緒に誘わない?」
『ソウコは呼ばないで、絶対に』
ふと口をついたアユカの提案を、ユミエは今までよりも強い口調で断った。
彼女に圧倒されたアユカは、「わ、分かった」とだけしか返せない。
その後は、普段のように集合時間や場所などを決めて、電話を切った。
しかし、やはりアユカはユミエがソウコを誘わなかったことが気になっていた。
二人は自分が知らない間に喧嘩していたのだろうか。それとも、ユミエはソウコに内緒でサプライズの計画を立てるのだろうか。
理由を色々考えてみるが、ユミエのあの声色はそれらの可能性を完全に打ち消すような強さがあった。
それは明日、ユミエに直接会えば分かるだろうと、その時はアユカものんびりと構えていた。
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