x+1日目
次の夜も、ソウコはツイートをしていた。
『料理に挑戦してみました 今日はラザニアです』
その言葉と一緒に、焦げ目の付いたチーズがおいしそうなラザニアの写真が載せられていた。
丁度夕食を終えたばかりのアユカも、それを見て思わず生唾を呑んだ。すぐに、素直な賞賛を友人に送る。
『とてもおいしそう!』
『ありがとう!!』
『前に料理はあまりやらないって言ったけど普通に上手じゃない』
『これは思ったより簡単だったよ 作り方通りにやれば』
『そっかー 私もチャレンジしてみようかな』
そう呟いた直後に、そういえば最近ラザニアを見たことを思い出した。
アユカの一つ下の妹、ミオナのツイートで、新しい恋人に振る舞っていたのもラザニアだった。
アユカはツイッターのホームからいいねの項目を遡り、四日前のミオナのツイートを見つけた。
『今日は初めて彼がうちに来てくれた! 夕食のラザニアも気に入ってもらってよかった(〃´∪`〃)』
その嬉しそうな言葉と一緒に載せられた写真には、ラザニアが置かれたテーブルに座り、左手にはスプーンを握った男性が写っていた。右手は皿に添えられて、その顔は笑顔のスタンプで隠されていた。
スーツ店で働いているミオナは、休みが不規則で連勤が多かった。この日も朝のツイートでは、五連勤の始まりだとぼやいていたが、夜に彼が遊びに来てくれたために、張り切って料理を作ったようだった。
まだ気恥ずかしさが先立つのか、ミオナは彼のことは詳しく教えてくれなかったが、二人が相思相愛だということは、このツイートだけでも読み取れた。
ミオナの一番新しいツイートを見ると、今日は休みのようで、『今日一日はゆっくりしまーす』とだけ書いてあった。
恋人はサラリーマンのようなので、平日の昼に会うのは難しいらしい。
あまりインスタントや外食に頼るのは良くないと常々考えていたアユカは、料理が得意なミオナにツイートを送ってみた。
『ラザニアって難しい?』
『作り方はシンプルだけどコツがいるかな』
『今度作り方を教えて』
『いいよー』
ミオナからの返事の末尾には、親指を立てた絵文字がついていた。
しかし快諾してくれたのだが、具体的な話は出てこなかった。今は忙しいのかもしれない、恋人ができたばっかりだしと、アユカは一人納得してそれ以上は尋ねなかった。
ツイッターのタイムラインに戻ったアユカは、テレビから流れる音声を片耳に聞きながらそれを古い順から辿っていく。
その途中に、ソウコの呟きが目に留まった。
『ラザニアは失敗しました お手本の味を超えられなかった』
完璧主義なソウコらしい一言に、アユカは彼女が酷く落ち込んでいる様子を思い浮かべていた。
アユカはソウコを慰めようと返信をする。
『初めてだからね これからだよこれから!』
わざとらしいほどテンションを上げてみたが、残念ながらソウコからの返事は無かった。
本当は、ソウコの家に行ったときに彼女の飼い犬を可愛がったり、彼女の作るラザニアを食べたりしたいと言いたかったか、あまり突然なので相手も困るだろうと、その気持ちをぐっとこらえた。
そういえば、今日はソウコから愛犬についての話題が出ないなと思いつつ、アユカは毎週楽しみにしているドラマが始まったので、ツイッターの画面を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます