第33話 巫女。

 「無事でなによりだよ。毛利総理」

 「日本のシェルターは頑丈さにかけては世界一だからね。もっとも地震だけだから助かったけど津波が来ていたら確実に死んでいただろうな」

 ノイズ混じりの画面に映る一郎が、冗談交じりに自身の現状を説明する。

 「それで地球は今どうなっているんだ? 防衛隊本部はごたごたで情報がはっきりしないんだ」

 「大地震と大津波の影響で、それはもう酷い有り様だよ」

 ダルタニウスが、地球を直接攻撃したことによって、世界中で大地震と大津波が引き起こされたのだ。

 「犠牲者はどのくらい出ているんだ?」

 「予想だけでも総人口の半数に上るそうだ。日本ではどのくらいになっているのか検討も付かないよ」

 話している一郎の声に悲しさは感じられず、聞かれたことに答えているだけという淡白なものだった。

 「それは酷いな」

 健は、一郎の返事に対して、怒るでもなく同じように淡々とした口調で言葉を返した。

 犠牲者があまりに多過ぎて、どう捉えていいのか分からなくなった二人は、どちらに合わせるでもなく、日常会話をするように話をしているのだった。

 「各都道府県の防衛隊も大打撃を被っていて復旧の見込みも立っていないから被災地の救助もままならない状況だよ。連合の半分以上の国とは連絡さえ取れていない」

 「そんなんじゃ避難民の受け入れなんてとうてい無理だよな」

 「日本の空港でさえ宇宙へ逃げようとする人間で溢れている上に武器を持ち出した防衛隊員まで介入しての戦闘状態になっているそうだからどうにもならいよ。月はどうだ?」

 「相変わらず市街地や空港では混乱が続いているよ。本部にはハカイオーがあるから攻め込んでは来ないけど。ところであんたは逃げないのか?」

 「今更逃げても仕方ないだろ。各国の首相の中には逃げる準備をしている連中も居るみたいだけどね。そういう君はどうなんだ? ハカイオーならどこにでも逃げられるんじゃないか」

 「俺は最後まで奴等と戦うさ。鋼鉄兵団を全部倒すって決めたからな」

 「わたしも同じだよ。求められる限り職務を全うするつもりだ。なんたって宇宙連合代表だからな」

 少し胸を張るような言い方だった。

 「それじゃあ、お互いにかんばろうぜ」

 「ああ、がんばろう」

 二人は、互いに笑い合って通信を切った。

 小さく息を吐いた後、ブレインポッドのキャノピーを開けた。

 一郎との会話は、ブレインポッドを通して行ってからだ。

 整備をしているハカイオーの側で待機している中、MT《マルチタトゥー》に一郎から秘匿回線で通信が送られてきて、MTではノイズが多く話しづらいので、通信速度を上げる為にブレインポッドに場所を変えて通話をすることにしたのだ。

 秘匿回線だけに傍受されたらまずいのではと質問すると、今の状況下では誰に何を聞かれても構わないと気楽な言葉が返ってきた。

 「班長、何か手伝おうか?」

 作業用ポッドに乗りながらハカイオーの整備をしている班長に声を掛けた。

 「ばっかやろ~! おめえみてえな素人にやれることなんかねえ! 次の戦いの為に少しでも休んでおけ!」

 班長が、作業の手を止めずに怒声を返してくる。

 「班長一人じゃ大変かと思ってさ」

 ハカイオーの整備は、班長と十数機のドローンで行われていたのだ。

 ダルタニウスの攻撃は、災害といった表面的な被害だけでなく、人類全体に大きな絶望感を与え、それによって退職願いを出す隊員が続出し、整備班も班長を除く全員が提出したのである。

 政府は、全隊員の退職願いを受理していた。

 役人自体も大半が自主退職しているので、拒否する者が居なかったからだ。

 「なあ、班長はなんで防衛隊に残っているんだ?」

 「俺は月に骨を埋める覚悟でいるからな。地球に行ってもしかたねえよ」

 「班長、もしかして地球恐怖症なのか?」

 ドクター・オオマツのことを思い出しながら言った。

 「そうじゃねえ、俺は月生まれの月育ちでカミさんも子供も月で得たから腹くくってんだよ」

 「そういうことか」

 「おめえ、もしかして一人でどうにかできるとか考えてねえか?」

 「いや」

 「それならいいんだけどな。世界ってやつは広くてデカいんだ。どんなにあがこうが踏ん張ろうが全部を受け止めきれやしねえのさ。できるとすりゃあ、神様くらいなもんだろうぜ」

 「神妙なこと語るじゃん」

 「爺にもなりゃあ、このくらい語れるさ」

 「年の功ってやつ。だったらあんまり無理するなよ。ここのところろくに休んでいないんだし」

 「小僧に心配されるいわれはねえ! 食堂にでも行って何か食ってきやがれ!」

 「分かったよ」

 健は、降参とばかりに両手を上げて、格納庫から出て行くことにした。

 「そういえば明海はどうしているかな。忙しいとは思うけど、少しなら話せるかな?」

 明海が、今どんな活動をしているのかは十分承知していたが、少しだけ話したい気持ちになったのだ。

 MTを使って連絡を入れてみたが、全く繋がらなかった。

 「やっぱりダメか。直接会いに行くしかないな」

 健は、ブレインポッドに乗り直すと格納庫を出て、専用通路を通ってアルテミスシティに向かった。

 ブレインポッドに乗っていったのは、鋼鉄兵団が来た場合、どこからでもハカイオーに乗れるようにする為である。

 「身元の確認を行いますので顔を見せてください」

 市街地への入場ゲートの前に設置されている機銃を装備した警護用ドローンに身元確認を求められ、言われた通りにキャノピーを開けて顔を見せた。

 警護用ドローンから発射された網膜スキャン用のレーザーが、右目に当てられていった。

 大勢の隊員が居なくなったことで、ゲート管理もドローン任せになっているのだ。

 「確認が取れました。どうぞ、お通りください」

 ドローンの承認を得て、開かれたゲートからアルテミスシティに入り、ブレインポッドを搬入用の大型エレベーターに乗せて、地下施設へ降りていった。

 

 MTのナビ機能を使って、明海が活動しているホテルを見付け、近くにあった駐車場にブレインポッドを降ろした。

 「それにしても凄い人だな」

 ホテルへ続く道には、大勢の怪我人で溢れていたのだ。

 「お前、そこで止まれ」

 ホテルへ進む中、柄の悪い二人組の男に呼び止められた。

 「何か用か?」

 物怖じすることなく用件を聞いた。

 「俺達は、この待機列の見張りだよ。怪我人を直して欲しけりゃ順番に並びな」

 左側の男が、人だかりの最後尾を指差しながら答える。

 「俺はハカイオーのパイロットの上風健だ。明海に会いに来たんだよ」

 健は、自己紹介を兼ねて用件を言った。

 「上風健だって? ほんとかよ」

 健の素性を知った二人は、強弁な態度が一変して慌て出した。

 「ボスに連絡した方がいいんじゃないか」

 「そうだな。俺が連絡を入れる」

 右側の男が、自身のMTで通信を送った。

 「お前が上風健か?」

 連絡の後、健の前にやってきたのは、ドメルだった。

 「そうだ。あんたがこいつらのボスか?」

 「おうよ。ハカイオーのパイロット様が、明海さんに何の用だ?」

 「話がしたいたけだ。あんたの許可が必要なのか?」

 「そんなところだ。とりあえず連絡を取ってみるから待っていてくれ」

 「分かった」

 健は、言われた通りにその場で待つことにした。

 「会うそうだ。付いてきてくれ」

 ドメルの後に付いて歩いていった。

 「あんたらみたいな見張りが居るなんて聞いていなかったから驚いたぜ」

 待機列の一定区間毎に立っている柄の悪い見張りを見ながら言った。

 「防衛隊には言ってねえからな」

 「退職者で溢れるご時世じゃあ仕方ないか。それにしてもなんだって明海の見張りをやっているんだ? あんたら市街地で暴れている奴等の一派だろ」

 「明海さんにデカい借りがあるからな。その恩返しだよ」

 「だから逃げないのか」

 「今更どこへ逃げるってんだよ。ほとんどの奴等がお尋ね者なんだぜ」

 「そういうことか」

 「ここだ」

 ホテルの一室に案内された。

 ドメルが、ドアを数回ノックすると、ドアが開いてアマンダが顔を出した。

 「ふうん、あんたが上風健かい」

 アマンダが、値踏みするように健の全身を眺めていく。

 「わりかしいい男じゃないか。入りな」

 アマンダの許可を得て部屋の中に入ると、明海は怪我人を治療している真っ最中だった。

 「それじゃあ、あたしは一旦席を外すよ。怪我人を治したら声を掛けるんだよ。次の怪我人を入れるから」

 「アマンダさん、ありがとう。ソファにでも座ったら?」

 「そうさせてもらおうかな。それにしても大変そうだな」

 言われた通りにソファに座りながら労いの言葉を掛けた。明海が今治療しているのは、胸が大きく潰れている男だった。

 「最前線で戦っている健や珠樹に比べたら大したことないよ」

 健を見ないままで返事をしてくる。

 「体の方はなんともないのか?」

 「長くやっていれば疲れるけど休めば治るから。健の方はどうなの? おかしいところは無いの?」

 「俺も同じだよ。戦えば疲れるし、休めば回復する」

 「なら、いいじゃない」

 「なんだか冷たいな~」

 ワザとふざけた調子で言ってみた。

 「治療に集中しているからだよ。健だって戦っている最中に話し掛けたら反応薄い時あったよ」

 「それもそうだな。これ以上邪魔しちゃ悪いから俺は基地に戻るよ。今日は話せて良かった」

 「いつになるか分からないけど、珠樹と一緒にゆっくり話そう」

 そう話す顔には、いつもの笑顔が浮かんでいた。

 「そうだな」

 健が、微笑みながら部屋を出ようとソファから立ったところで、MTから緊急警報が鳴り響いた。

 

 その少し前、防御隊のオペレーター室に三人の隊員が入ってきた。

 「どうしたんだ、パイロットスーツなんか着て? 今のところ機械惑星に動きはないぞ」

 オペレーターの一人が、気の抜けた調子で話し掛けた。

 「基地にある全ゲートを開けてくれ」

 真ん中に立っている隊員が、オペレーターが思っていたのとは異なる返事をした。

 「それは上層部の命令なのか?」

 「いいや、上層部は関係無い。これは我々からのお願いだ」

 お願いという言葉通り、隊員はとても丁寧な言葉遣いで話していた。

 「それなら無理に決まっているだろ。だいたいゲートを開けてどうしようっていうんだ?」

 「この基地にある兵器を使って逃げるんだ」

 「正気か?」

 オペレーター全員が、パイロット達に疑うような視線を向けていく。

 「正気だよ。この間の戦いを見ただろ。人類に勝ち目はない。それなら逃げた方がずっとマシだ。言う通りにしてくれればお前達の席も確保してやるぞ」

 「それが本当だとしても、そんなことできるわけないだろ」

 真ん中に座っているオペレーターが話している中、右側に座っているオペレーターが、ゆっくりと警報装置に手を伸ばしていった。

 そこで一発の銃声が鳴った。

 隊員が、腰から取り出した銃で、オペレーターの肩を撃ったのである。

 「お前達もこうなりたいか?」

 残りの二人に銃を向けながら問い返す。

 「分かった。言う通りにしよう。その代わり俺が逃げる分も残しておいてくれよ」

 左側に座っているオペレーターが、手を上げながら見返りの条件を確認してくる。

 「それに付いては保証しよう」

 隊員の返事を聞いたオペレーターが、パネルを操作することで、全てのゲートが開いていった。

 「こちらの準備は整いました。いつでもどうぞ」

 「了解した」

 通信を受け取った男の合図で、パイロットスーツを着た隊員達が、一斉に格納庫に雪崩れ込んでいく。

 警備をしている隊員は少数で、丸腰の整備班に対処できるわけもなく、格納庫にあるロボットや戦闘機に輸送機はあっさり乗っ取られていった。

 「そこまでだ!」

 強奪犯達が、機体を発進させようとしたところで、各ゲート毎にホルスが飛来して、バスターレールガンを向けていった。

 「全員、今すぐ機体から降りて基地へ戻れ。警告に従わない場合は撃つぞ」

 外部スピーカーで呼びかけているのは、トロワだった。

 「トロワ大佐、我々を行かせてくれないか?」

 「あなたが首謀者だったんですね。ヴィッセル大佐」

 通信画面に映るパイロットスーツを着たヴィッセルに言った。

 「そうだ。わたしが計画したんだ」

 ヴィッセルは、悪びれる様子もなく、首謀者であることを認めた。

 「何故、こんな馬鹿な真似をするんです?」

 「君だってもう気付いているだろ。ハカイオーがどんなに強大な力を持っていようと我々が兵器の性能をどれだけ上げても鋼鉄兵団には叶わないんだ。これ以上犠牲者が出るのはわたしには耐えられない。どうか、このまま行かせてくれ」

 ヴィッセルには、いつもの威圧さは全く無く、まるで哀れみを請うようなか弱い声で、強奪の動機を説明していた。

 「防衛隊である我々が逃げたら誰が市民を守るというんです?!」

 トロワが、頭に血を上らせたように声を張り上げて言い返す。

 「君の言うことは防衛隊員としては正しい。しかし、隊員にも多くの犠牲者が出ているし、市民を守ることはもう不可能だ。我々のやっていることは無意味なんだよ。大佐」

 全てを諦めきった声だった。

 「あなたという人は~!」

 トロワは、思わず引き金を引きそうになった。

 「トロワ大佐、もういい」

 基地司令であるウィリアムからの通信だった。

 「司令、もういいとはどういう意味ですか?」

 「言葉通りだ。彼等を行かせてやろう」

 「・・・・よろしいのですか?」

 トロワは、苦虫を噛み潰したような声で聞き返した。

 「いいんだ。彼等の好きにさせてやれ」

 「分かりました。全機武器を降ろして着陸しろ」

 珠樹達は、トロワの命令通り、武器を降ろしてホルスを着地させた。

 「ウィリアム司令官、ご理解に感謝する。後は各自で自由に行動しろ」

 ヴィッセルの言葉に従い、全機がバラバラの方向へ飛んで行く中、どさくさに紛れて何機かのホルスも逃げていた。

 トロワや珠樹に残ったパイロット達は、悔しさと悲しさの入り混った複雑な顔をしながら、去っていく者達を見送っていた。

 「お前達、逃亡者の動きをトレースしておけ。このまま素直にいなくなる奴等ばかりじゃないはずだ」

 トロワは、気持ちを切り替えて、逃亡者達の追跡を命じた。

 「トロワ大佐、ヴィーゼル四機がアルテミスシティの地下施設に、三機がハカイオーの格納庫へ向かいました」

 珠樹からの報告だった。

 「分かった。十六夜、マッシュ、オルテガ、お前達はアルテミスシティに行け。俺はハカイオーの格納庫へ行く」

 「了解」

 トロワ達は、逃亡者達の追跡を開始した。


 防護隊員による強奪行為が行われていた頃、宇宙空港では地球行きのシャトルに乗ろうと市民同士による争いが続いていた。

 「機長、もうこれ以上乗せられません」

 座席に詰め掛けてくる月市民の状況をモニターで見ている副操縦士が、焦りながら機長に発進を進言した。

 「仕方ない本機は、これより発進する」

 機長は、苦い表情を浮かべながら発進を決断した。

 それからシャトルは、多くの人間で犇めいているタラップを強引に引きちぎり、ハッチを閉じて空港から飛び立っていった。

 機長と副操縦士が、無事に発進できて一息付いたところで、ドアのロックが解除され、二人の避難民が入ってきた。

 「なんだ、君達は? 席に着いていてくれ。空港は無理だが、地球のどこかへは着陸するから心配するな」

 機長は、二人を落ち着かせようと丁寧な口調で話し掛けた。

 「悪いがこのシャトルをいただく」

 右側に立っている男が、胸から取り出した拳銃を向けてくる。

 「バカな真似はやめろ。このシャトルを奪ってどうするつもりだ?」

 「地球じゃない場所に逃げるのさ。地球だって安全じゃないからな」

 「どこへ行こうとしているのか知らないが、このシャトルには地球へ戻る分の燃料しか無いし、食料だって大して積んでいないんだぞ。やるだけ無駄だ」

 機長は、シャトルの現状を説明して、無謀な行動を思い止まらせようとした。

 「それはこれから考えるさ。とにかく操縦席から離れてもらおう。操縦に関しては心配するな。彼は元宇宙輸送船のパイロットだ」

 左側に立っている男に付いて説明してくる。

 パイロット達は、顔を見合わせた後、言われた通りに席を離れた。二人供死にたくなかったからだ。

 「それでいい」

 男が、満足そうに返事をした後、元パイロットが操縦席に座り、シャトルを操縦して、地球へのコースから外れていった。

 月で起こった二つの強奪行為は、ほぼ同時刻に行われていた。

 彼等が意図したわけではなく、偶然にも同時発生してしまったのだ。

 

 「上風、格納庫に居るかい?」

 珠樹からの通信だった。

 「今は明海のところに居るけど」

 「なんだって?! そっちに基地から逃亡したヴィーゼル四機が向かっているんだ」

 「本当か?」

 返事をしている最中に大きな音を耳にした。

 「明海、大変だよ! 天井を破壊して、ヴィーゼル四機が入ってきやがった!」

 部屋に入ってきたアマンダからの報告だった。

 「南雲明海は居るか?」

 着陸したヴィーゼルの一機が、外部スピーカーで呼びかけてきた。

 「どうする?」

 明海に確認を取ってみる。

 「外に出て話をするわ。ここでじっとしていても時間の無駄だから」

 「分かった。それなら俺も付いて行くよ」

 「あたしも行くよ」

 三人一緒に外に出た。

 「わたしにいったい何の用?」

 明海は、ヴィーゼルの前に進み出ながら用件を尋ねた。

 「俺達と一緒に来てもらおうか」

 「わたしを連れて行ってどうするつもり?」

 「ここから逃げるのに君の治癒の力が必要だから同行してもらうんだ。もちろん安全は保障しよう」

 「それって、ここに居る人達を見捨てろってこと?」

 周りに居る怪我人を見ながら質問する。

 「どの道ここに居たら鋼鉄兵団にやられるんだ。どうしようもないだろう」

 「なんて自分勝手な人達なの!」

 明海は、強奪犯の言い分に怒りを露わにした。

 「政府の連中はいつでもあしたら市民には冷たいね。明海さんをあんたらの好きにはさせないよ。ドメル!」

 アマンダが、MTを通して呼びかけると、瓦礫に隠れていた四機のヴィーゼルが姿を見せたが、どれも左右非対称で色使いもバラバラであるなどジャンクパーツを繋ぎ合わせただけの中古品であることが、一目で分かる機体ばかりだった。

 「そんなジャンク品で我々に対抗しようというのか?」

 防衛隊側のヴィーゼルの一機から、小ばかにしたような声が発せられた。

 「確かに見てくれは悪いが、ジャンク品でも性能は折り紙付きだし、武器だってちゃんと機能するんだぜ」

 ドメル達の乗るヴィーゼルが、銃口にナイフが付いているなど独自の改造を施した武器を構えていく。

 「おいおい、こんなところでロボット同士の争いなんて止めろ! 戦う相手を間違えているぞ!」

 健は、大声で停戦を呼び掛けた。

 「俺達を守るとかいいながら犠牲者を散々出してきたお前が言えることか!」

 防衛隊側のヴィーゼルが、持っている銃を健に向けながら怒りの籠った一言を返してきた。

 「双方、そこまでだ!」

 珠樹達のホルスが、飛来してきた。

 「君達がどこに逃げようと勝手だけど、明海さんを巻き込むのは許さないよ!」

 ホルス部隊が、ヴィーゼル部隊にバスターレールガンを向けたことで、状況は三竦みによる膠着に入った。

 その頃、月から離れていく者達に対して、機械惑星はレーザーを撃って全機を撃墜していった。

 逃げた者達に対して、神または運命は最悪の結末を与えたのである。

 

 「バカな奴等だ」

 逃亡者が、撃墜されていく様子をMT《マルチタトゥー》で見ていた健は、冷めた口調で言った。

 「逃げた人達が悪いわけじゃないよ」

 明海は、悲しそうに言った。

 「死んじまったもんはどうしようもないさ」

 アマンダが、年長者らしく言い聞かせるような声だった。

 「お前達、どうすんだよ?」

 健が、ヴィーゼル部隊に問い掛ける。

 「降参する。俺達はもう終わりだ・・・・」

 仲間が撃墜されたのを見て、ヴイーゼル部隊は気が抜けたように武器をその場に落として降参していった。

 「こっちは治まったな。他の場所はどうなっているんだ?」

 「撃墜された人達を見て抵抗していた連中は全員降参したよ」

 「まったく人騒がせな連中だ」

 健は、吐き捨てるように言った。

 「僕はトロワ大佐のところへ行くよ。ハカイオーの格納庫へ向かった連中を追っていったんだけど、さっきから連絡が取れないんだ」

 「それなら俺も行く。明海、またな」

 「気を付けて」

 健は、ブレインポッドに乗って、珠樹と一緒に格納庫に戻った。

 

 格納庫の入り口には、大きな穴が空けられいて、そこから中に入ってみると、激しく争った形跡はほとんど無かったが、手足を破壊されて動けなくなった三機のヴィーゼルが、そこかしこに倒れていた。

 「トロワ大佐どこですか?」

 「あそこに居るぞ」

 トロワのホルスは、格納庫の隅に立っていた。

 「大佐、無事ですか?」

 珠樹の呼びかけにトロワは、応答しなかった。

 「大佐が応答しない」

 「機体から降りているからだ」

 トロワは、ホルスの足元に座っていた。

 「大佐、大丈夫か?」

 健は、ブレインポッドをトロワの側に着陸させて声を掛ける。

 「・・・・なんでこうなるんだ?」

 「え?」

 質問と違う答えを耳にして、思わず言葉が詰まってしまった。

 「俺は、市民を守る為に防衛隊に入ったのに同じ志を持った隊員同士で戦うなんて無意味過ぎるだろ」

 その声は、今にも泣きそうだった。 

 「お前のせいじゃねえさ」

 側に来た班長が、いつもより柔らかな声を掛けてくる。

 「班長、無事だったんだな」

 「大佐のお陰でどうにかな。ほんと、気にすることはないぜ」

 「分かっていますよ。彼等が自分で選んだ結果ですから」

 班長の言葉が気になって、一番近いヴィーゼルのコックピットを覗いてみると、パイロットは拳銃自殺を図っていたのだった。

 「ほんと、こいつら何やってんだろうな」

 健は、トロワの言葉の意味を強く噛み締めていたが、それ以上深くは考えないようにした。

 死んでしまった人間の事をあれこれ考えてもどうにもならないことをこれまでの戦いで、思い知らされているからだ。

 「大佐、どうするんだ? 俺は最後まで戦うけど」

 同じ質問をされるだろうと思い、自分の決意を先に伝えておいた。

 「俺だって同じだ。死んでいった奴等を見て絶対に逃げられないと分かったからな」

 トロワは、自身の気持ちを声に出した後、ホルスに乗って格納庫から出ていってしまった。

 「トロワは大丈夫なのか?」

 側に来ていた珠樹に声を掛けた。

 「大佐ならきっと大丈夫だよ」

 言葉とは裏腹に、声にはあまり自信を感じられなかった。

 「今更だけど珠樹はなんだってトロワを慕うんだ?」

 「親無しで防衛隊に入隊するしかなかった僕の面倒を親身になってみてくれたからだよ。厳しいところも多かったけどね」

 懐かしむように話した。

 「トロワって子供が好きなのか?」

 「防衛隊員だった妹を訓練ミスで亡くしてから部下を死なせないようにしているだけだって言っていたよ」

 「そういうことか」

 「僕も戻るよ」

 「分かった」

 それから、いつでも出撃できるようにパイロットスーツを着て、ハカイオーの整備が終わるのを待った。

 騒がしい事態が治まった後だけに、時の流れが物凄くゆっくりと感じられた。

 「整備、終わったぞ」

 班長の呼び掛けの後、それを待っていたかのように警報が鳴った。

 「来やがったか。むしゃくしゃしていたから丁度いいぜ」

 健は、殺意の籠った笑顔を浮かべた。

 「生きて帰って来いよ」

 「壊れたらまた頼むぜ」

 「おう、任せておけ」

 班長と笑い合った後、ブレインポッドを上昇させて、整備を終えたハカイオーに搭載した。

 

 機械惑星から発進してきたのは巫女で、ボルグと同じくアルテミスシティを通り過ぎて、そのまま地球へ行くのかと思われたが、双方の中間の位置で停止した。

 「あんなところに止まって いったい何をしようってんだ?」

 健は、巫女の行動を不信に思いながらも接近していった。

 巫女が、頭部の輪っかから強烈な光を発すると、アルテミスシティ上空と地球上のあらゆる場所に光る輪っかが出現して、中から巨大な鋼鉄の右握り拳が降りてきた。

 巨大な拳の一撃は、地球の主要都市を潰していき、アルテミスシティに張られたバリアを一発で破壊して、ドローンヴィーゼル部隊全機を機能不全にしていったのだった。

 「あいつはダルタニウスみたいにゲームはしないみたいだな。それならさっさと倒してやるぜ」

 健は、ハカイオーに胸からビームを発射たせた。

 巫女は、回避行動を取らず、自身の回りにバリアを張ることで防いだ。

 「そう簡単に倒せるわけないか。これならどうだ!」

 健は、HS《ホログラムスクリーン》で表示したキーボードを操作して、月からはアルテミスキャノン、地球からはビーム砲による三方からの同時攻撃を行った。

 こんな時の為にビーム砲にも回線を繋いでおいたのだ。

 巫女は、三方の強烈な光の流れに飲み込まれて見えなくなった。

 「どうだ?」

 ビーム攻撃を止めると、バリアを張った無傷の巫女が姿を現した。

 「あれだけの攻撃が効かないのか。こうなったら直接攻撃しかないな」

 ハカイオーに剣を出させて、直接斬りかかろうとしたところで、周囲に多数の輪っかが出現し、そこから伸びてきた鋼鉄の腕に全身を掴まれた。

 「こんなもんでハカイオーが止るか~!」 

 両手からは光を両足からは稲妻を放つことで、全ての腕を破壊して、接近していったが、巫女は動く様子を見せなかった。

 「今ぶった斬ってやるからそこを動くなよ~!」

 ハカイオーを接近させながら、言葉通り動かない巫女に向かって剣を降り下ろしたが、突然目の前に輪っかが出現して刃を飲み込むと、真後ろに出現した輪っかから飛び出してきた。

 健は、この突然の事態に回避行動を取ることができず、刃はハカイオーの腹部を貫いた。

 「くそったれ~! 自分の武器にやられるなんて洒落にならねえぞ!」

 健が、毒づきながら剣を消している間、巫女はハカイオーの周囲に再度輪っかを発生させ、手ではなく剣を連続発射する執拗な攻撃をしてきた。

 すぐに破壊粒子を放出して、球体型の防壁を作って全身を覆うことで攻撃を防いだ。

 「こんな程度でハカイオーを倒せると思うなよ!」

 防護壁を分解して矢じりに変え、全包囲に発射することで輪っかを消滅させていった。

 「上風中尉、早く敵を倒してくれ。世界中で被害が出ているんだ!」

 「分かっている!」

 返事はできても対抗手段が無ければどうすることもできなかった。

 

 その頃、アルテミスシティではバリアが消えたことで、別のドローンヴィーゼルを発進させて、バリアを張り直していたが、拳の一撃によってあっさり破られてしまった。

 「大佐、もう予備のヴィーゼルは残っていません!」

 珠樹からの報告だった。

 「分かった。ホルスのエネルギーを使ってバリアを張るぞ」

 「了解」

 アルテミスシティの上空に広がったホルス部隊が、ヴィーゼルと同じように全身を光らせることで発生させた光膜こうまくで、即席のバリアを形成した。

 その即席バリアに拳の一撃が降り下ろされると、これまでと同じく一撃で破壊されてしまい、ホルス部隊は防護ドームに叩き落とされていった。

 拳は、そんなホルス部隊に対して、容赦なく拳を降り下ろしてきた。

 「このままやられてたまるかよ~!」

 トロワは、ホルスを飛び立たせて、単身拳に向かっていった。

 「大佐、無茶です!」

 珠樹が、止めるのも聞かず、トロワ機は光を出しながら突き進んでいった。

 「これが俺の防衛隊員としての意地だ~!」

 トロワが心からの叫び声を張り上げる中、機体は拳の一撃の前にあえなく落ちていった。

 防護ドームにぶつかった時の凄まじい衝撃によって、意識を失っていくトロワが最後に見た光景は、自分と拳の間に現れた漆黒の機体だった。

 健は、拳に向かって、両手からの黒い光を出して灰にしながら輪っかの中に飛び込んでいった。

 輪っかの中は、光が高速で移動している別空間で、その中を流れるように進んで行く内により強い光に飲み込まれていった。

 そうして気付いた時には、巫女のバリアの中だった。

 「思った通りだったぜ!」

 健は、これまでの鬱憤を晴らすようにハカイオーに胸からのビームを大放出させた。

 巫女は、抵抗すすこともできず、ビームに飲み込まれて消滅した。

 「終わったか?」

 健は、完全に倒せたかどうか確認しようとレーダーを見た。

 レーダーには、小さな反応があって、そこに目を向けると、無傷の巫女が居るのだった。

 「これで終わりだ!」

 健は、巫女に向けて、両手から光を出した。

 「わたしの領域を汚したな~!」

 巫女は、これまでの無表情振りが嘘のように目を大きく見開き、大声を張り上げて怒りを顕にした。

 「消えろ!」

 ロボットになった巫女の強烈な一言の後、下方の尖った部分から青い衝撃波が放射された。

 「そんなもんがなんだってんだ!」

 健は、ハカイオーに破壊粒子で作った防護壁を前面に展開させたが、衝撃波の前にボロボロに破壊されてしまった。

 「破壊粒子で作った壁を破壊したっていうのか?」

 すぐに壁を張り直したもののあっさり壊されてしまうので、一方的な持久戦に持ち込まれていく。

 その様子に巫女が、さらに衝撃波を強めてきたことで、ハカイオーの両手は破壊され、本体にもひびが入り始めていくのだった。


 「このままじゃハカイオーがやられる!」

 部屋のモニターでハカイオーがやられていく様子を見ていた明海は、出口へ向かって走り出した。

 「何をしようっていうんだい?」

 アマンダが、肩を掴んで止めた。

 「ハカイオーの所へ行くのよ!」

 「行ってどうするつもりだい? 死にに行くようなもんじゃないか!」

 「わたしが行かないとハカイオーがやられてしまうわ! わたしの力ならどうにかできるのよ!」

 「それでどうやって行くつもりなんだい? 宇宙船はイカれた奴等に持っていかれちまってんだよ」

 「それは・・・・」

 明海は、言葉を詰まらせた。行動が先走り、そこまで考えていなかったからだ。

 「そら、ごらん。どうしても行くっていうなら手を貸してやるよ」

 「ほんと?」

 「任せな」

 アマンダが、自身のMTに連絡を入れた後、ドメルが部屋に入ってきた。

 「明海さんをハカイオーの側に連れて行ってあげな」

 「おうよ。明海さんの為ならなんだってするぜ!」

 ドメルは、二つ返事で明海の用件を承諾した。

 「ありがとう」

 ドメルと一緒に外へ出て、専用のヴィーゼルの前に連れて来られた。

 「こいつで連れて行ってやるよ」

 「そうか。これを使えば良かったんだ。ありがとう。後はわたし一人でやるから」

 「あんた、ヴィーゼルの操縦できるのか?」

 「大丈夫、友達に習ってあるから」

 「だからって、明海さん一人を行かせるわけにはいかねえよ。そんなことになったらアマンダに殺されちまう」

 明海は、ドメルに近付き、護身用に持っているエレキスティックを押し当て、スイッチを入れて電撃を流した。

 不意に電撃を食らったドメルは、その場に仰向けに倒れてしまった。

 「いきなりこんなことしてごめんなさい。それにあそこに近付いたらあなたも危ないから」

 言い終えるなり、ドメルをその場に残してヴィーゼルに向かい、ワイヤーに掴まり、コックピットに入ってハッチを閉じた。

 それから操縦倬を握って、システムが正常に作動していることを確認した後、バーニアを吹かして飛び立ったが、うまくバランスが取れず、あっちこっちにぶつかっていった。

 「一回くらいちゃんと動かしておくんだったな」

 それでも操縦している内になんとかバランスを取って、アルテミスシティの搬入路を通って外に出た。

 アルテミスシティから出るルートも珠樹から習っていたのだ。

 宇宙では巫女の衝撃波によって、ハカイオーが窮地に立たされていた。

 「くっそ~。こんなところでやられるのかよ~!」

 健は、悔しさを声に出した。

 「健、わたしをハカイオーに乗せて!」

 ヴィーゼルを通して、明海から通信が入ってきた。

 「明海、どうして来たんだ? 今は危険な状況なんだぞ」

 「説明している暇はないから早く乗せて!」

 「攻撃を受けている状況じゃ乗せられないぞ」

 「大丈夫よ」

 明海は、全身から出した光でヴィーゼルを包んだ状態にして、衝撃波の中に突入し、無傷のままハカイオーに接近していった。

 「ほら、早く! このままじゃハカイオーがやられてしまうわ!」

 「今ハッチを開ける」

 互いにハッチを開けて、ブレインポッドに明海を入れると、光の加護を失ったヴィーゼルはあっという間に灰になった。

 「わたしの力で敵の力を打ち消すからその間にやっつけて!」

 「分かった」

 明海の全身から放出された光が、ハカイオーの全体を包むと、衝撃波によるダメージを受けなくなった。

 「今よ! 健!」

 「任せろ!」

 明海の合図で、健はハカイオーを巫女に急接近させ、胸から大出力でビームを発射した。

 巫女は、至近距離からのビームの前に跡形も無く消滅した。

 「今度こそ倒したみたいだ」

 レーダーから巫女の反応が完全に消えたことを確認しながら言った。

 「良かったわ」

 明海は、安心したようにシートにもたれた。

 「なんで、自分の力があいつに対向できるって分かったんだ?」

 「光の色を見てわたしと同じ力だって気がしたから」

 「あの女、もしかしたら明海の力を持っていた宇宙人のデータから造られたのかもな」

 「そうかもしれないね」

 「これで創造種は全部倒した。次は機械王と戦うことにはなるな」

 健は、機械惑星を見ながら言った。

 

 

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