第32話 騎士。
「ボルグがやられたな」
機械王の一言が、静かな広間に響く。
「機械王様、如何なさいますか?」
騎士が、これからの方針に付いて尋ねてくる。
「このまま攻撃を続けろ」
「それなら次はわたしが行きましょう」
「行くがいい」
「では、失礼いたします」
主から了承を得た騎士は、礼儀正しく一礼してから広間を出ていった。
巫女は、何も言わず騎士を見送るだけだった。
「次の人、どうぞ」
明海に呼ばれて部屋に入れられてきたのは、無人ストレッチャーに乗せられている男で、腹が裂けて内蔵が飛び出し、意識を失くして目を閉じている顔には、生気が一切感じられない重症患者だった。
「どうかっ! どうかっ! 主人をっ! 主人を助けてください!」
男に付き添ってきた妻が、気ちがいじみた形相で喚きながら助けを求めてくる。
「奥さん。どうか、落ち着いてください」
明海の隣に居る防衛隊の女性隊員が、妻を宥めようと側に寄り添い、優しく話し掛ける。
「ですがっ! ですがっ!」
妻は、聞く耳を持たずに喚き散らすばかりだった。
「それ以上、騒がなくても今から直しますから」
明海は、妻に対して少し強めの声で、大人しくするように言った後、躊躇うことなく男の腸を腹に押し込めた状態で両手を添え、光を注いで治癒を開始した。
「パパ、元気になる?」
いつの間にか部屋に入ってきた女の子が、治癒の進行具合を尋ねてくる。
「リカ、外で待っていなさいって言ったでしょ!」
妻が、大声で怒鳴った。子供の目には耐え難い光景だからだろう。
「だって、だって、パパが・・・・」
娘は、怒られたショックから涙を浮かべて、嗚咽を漏らし始めた。
「大丈夫、もうすぐ元気になるわ」
明海は、娘を慰めようと優しく微笑みながら声を掛けた。
傷が完全に塞がり、腹が綺麗な状態に戻るに連れて、男の顔に生気が戻り始めていく。
「ここはとこだ? 俺は確か爆発に巻きこれて・・・・」
目を開けた男は、周囲を見回しながら寝起きのようなぼんやりとした声で、自分の置かれている状況を把握しようとした。
「あなた~!」
「パパ~!」
妻と娘は、血が付くのも構わず、猛烈な勢いで男に抱き付いていった。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
妻は、嬉しさのあまり、狂ったのように礼を言い続けた。
「お姉ちゃん、ありがとう」
娘は、妻とは反対に満面の笑顔を見せながら礼を言ってきた。
「良かったね」
事情を話した後、体の洗浄と着替えをする為に別の部屋へ行くことになった親子を笑顔で見送った。
「レミさん、次の人を呼んでください」
「明海さん、少し休んだ方がいいわ」
レミと呼ばれた女性隊員が、心配そうに言った。
「まだできますよ」
「けど、もう百人は治しているのよ。疲れているでしょ?」
気遣うような言葉を掛けてくる。
「平気です。死んでいった人達のことを思えば、少しくらいの疲れなんてどうってことないですよ」
明海は、苛立ちの混じった強いめの声で言い返した。
「そのあなたが倒れてしまったら元も子もないでしょ」
「ですが・・・」
明海は、納得いかないように言い返そうとした。
「それなら後五人治したら一休みしましょう」
レミが、ため息混じりに妥協案を提示してくる。
「分かりました。それでいいです」
仕方なく妥協案を飲むことにした。
これ以上、議論を長引かせても無駄だと思ったからだ。
「明海さんは、これから休憩に入るわ」
五人を治したところで、約束通り休憩に入ることになり、レミがMT《マルチタトゥー》を通して外に居る隊員達にその事を伝えていた。
明海は、大きくため息を吐きながら備え付けのソファに座り、柔らかな感触をとても心地好く感じていた。
明海は、京介に宣言した通り、力を使って怪我人の治癒を行っていた。
もちろん無許可でやっているわけではなく、京介を通して月政府へ申請し、正式な医療行為として認可を得た上でやっているのである。
ただ、その効力の大きさから混乱を招かないように政府の管理の元、病院でも匙を投げるくらいに瀕死の怪我人を中心に治していた。
そのこともあって、治癒を受けた怪我人には家族を含め、秘密厳守を徹底させているのだった。
治療を行っている場所は、アルテミスシティの地下にある市民の避難によって、放棄された高級ホテルの一室だった。
ここが選ばれたのは、ホテルだけに生活に必要な設備が全て揃っている上に鋼鉄兵団の攻撃の際には地下通路を使って、防御隊基地や空港に避難できるからであった。
「はい」
レミから滋養効果のあるドリンクを手渡された。
「ありがとうございます」
受け取って一口飲むと心地好く喉を通って、体に浸透していくのを強く感じることで、自分が思っていた以上に疲れていたことを嫌でも思い知らされた。
「どう、休んで正解だったでしょ」
レミが、分かっていたのように言ってくる。
「そうですね。けど、最前線で戦っている健や珠樹のことを思うと休んでいていいのかなって気持ちになりますよ」
「確かにそうかもしれないけど、戦闘部隊には戦闘部隊のわたし達救護班に救護班のやり方があるのよ」
レミは、子供に言い聞かせる母親のような大人っぽい口調になっていた。
「分かっています」
明海は、その通りだと思いながら返事をした。
「レミ上等兵、応答してください!」
レミのMTに突然の通信が入ってきた。
「どうしたの?」
「治せと駆け込んできた男達が、強引に中に入ろうとしてきています!」
声の調子から大変な状況になっていることが聞き取れた。
「どうにか止められないの?」
「武器を持って大人数で押し寄せてきている上に人質を取っているので下手に攻撃できません! 今、そちらに向かいました!」
その通信を聞いて、明海とレミは顔を見合わせた。
「ここを開けろ! 居るのは分かってるんだぞ!」
男のがなり声が、扉の向こう側から聞こえてくる。
「レミさん、開けてください」
「いいの?」
レミが、腰に指している拳銃に手を当てながら、ぎょっとしたような顔を向けてくる。
「いいんです。時間を無駄にしていたら他の人達が死んでしまいますから」
「分かったわ」
レミは、取り出した拳銃を右手に持って、慎重な動きで、ドアの開閉ボタンを押した。
ドアが開いた途端、数人の男が雪崩れ込むように入ってきた。
「なんでも治せる女っていうのはお前か~?!」
一番最初に入ってきた男が、明海にがなり声をぶつけてくる。
「そうだけど」
明海は、物怖じすることなく言い返した。
「なら、こいつをさっさと治せ!」
後ろに居た男達が、手にしている担架をゆっくりと丁寧な動作で降ろした。
その上に乗っているのは、もはや人間としての原型を留めていない肉塊だった。
「早く治せ! さもねえとこのガキの命がどうなるか分からねえぞ!」
男は、リカを人質に治療を要求してきた。
「人質を取るようなまねをした不当な要求を飲むとでも思っているの?」
レミが、男に銃を向けながら言った。
「そんなことしたらガキの頭が吹っ飛ぶぞ」
恐怖のあまり、声を出せないリカの額に銃を突き付けながら言い返してくる。
「あなた、確か市街地で暴れている暴力集団のリーダーのドメル・クラウンよね」
MTで、男のパーソナルデータを確認しながら言った。
「それがどうした?」
「好き勝手暴れておいて、ここでも横暴を働こうというわけ?」
レミの声は、とても鋭く強い怒りが感じられた。
「治して上げるわ。時間を無駄にしたくないし」
明海が、ドメルに了承の言葉を告げる。
「それでいい。早いとこ頼むぜ」
自分の要求が呑まれたからか、ドメルは笑顔を見せながら返事をした。
「それならまず、その子を離して、それとこんなまねをしたことを外で待っている人達全員に謝罪して」
明海は、治療を行う為の条件を出してきた。
「なんだと~! ふざけんな~!」
要求を聞いたドメルが、頭に血を登らせたように怒りを顕にして、怒鳴り声を張り上げてくる。
「なら、治癒はしないわ」
「このガキが死んでもいいのか?!」
さっきと同じようにリカに銃を突き付けてみせる。
明海は、返事をせず、レミから拳銃を取り上げると自身の頭に押し付けた。
「その子に何かすればわたしも死ぬわ。そうしたらこの人、助からないわよ」
「てめえ~!」
「さあ、どうするの? 急がないと死ぬわよ」
明海は、怪我人を一瞥しながら言った。
それから二人は睨み合い、周囲の人間達は、黙って成り行きを見ていることしかできなかった。
「分かった。言う通りにする」
ドメルは、条件通りに銃を降ろしてリカを離した。
「お姉ちゃ~ん!」
リカが、泣きながら明海に駆け寄ってくる。
「頼む。そいつを助けてやってくれ」
ドメルは、これまでで一番落ち着いた口調で、治療を頼んできた。
「任せて」
明海は、リカをレミに預け、肉塊に両手を添えて光を注いでいった。
肉塊は、映像を逆回しにするように再生して、徐々に人間としての姿を取り戻していった。
ドメル達は、初めて見る明海の力を前にして、魅入られているかのように声一つ上げなかった。
「ここはどこ? あたしはいったい?」
肉塊から人間に戻ったのは三十前後の女で、さっき直した男と同じ反応をしていた。
「アマンダ~!」
ドメルは、泣きながら女におもいっきり抱き付いた。
「いったいなんだってんだい。気色悪い。そうだ。防衛隊から逃げてるところで、崩れた瓦礫の下敷きになって・・・・」
アマンダと呼ばれた女は、死にかけた直後の記憶を思い出したようだった。
「そうだよ。お前は瓦礫の下敷きになって死にかけたけど、この人が治してくれたんだ」
ドメルが、明海を指差しながら説明する。
「そうだったのかい。ありがとうよ」
アマンダは、素直に礼を言った。
「いいわ。それよりもさっきの条件守ってもらうわよ」
「分かっているさ」
ドメルは、アマンダを抱え、男達を連れて部屋から出て行った。
「お姉ちゃん、またありがとう」
リカは、再度礼を言って、駆け付けてきた両親に引き取られていった。
明海は、優しく微笑みながら親子をもう一度見送った。
ハカイオーはある施設の中に立っていた。
機体から出る強烈な余熱が、床を含む周辺の物を溶かしている。
溶解を免れている箇所には、埃が雪のように積もっていて、停止してからの歳月の長さを物語っていた。
このように老朽化が進んでいることもあって、施設自体は使えないことが判明していた。
「あれだな」
施設が使えなくても、どんなに埃を被ろうとも、危険な存在に代わりの無い核ミサイルを発見した。
「こいつを灰にする」
健は、ハカイオーの右腕を核ミサイルに向け、装甲を展開して黒い光を放ち、一瞬にして灰にした。
それが済むと全体に光を浴びせ、施設そのものを灰にすると周囲の岩盤等を支えていた柱も無くなったことで、岩穴の崩落が始った。
灰にした核ミサイルの施設は、アラスカと同じく岩山の中にあったからだ。
完全に崩れる前に翼を形成して上昇し、岩山を突き破って離脱した。
その様子を岩山から少し離れた場所に設営された観測用ユニットに居る調査班が見ていた。
核ミサイルを発見し、内部状況の調査と報告をしたのが、彼等だったからだ
ハカイオーの離脱を確認した調査班は、上層部に破壊成功の報告を入れた後、撤収の準備に入った。
「あれで本当に最後だったんだろうな?」
「間違いない」
一郎からの返答だった。
「それなら俺は月へ戻るぜ」
「いいとも。ご苦労だったね。上風君」
一郎の返事を聞いた健は、ハカイオーをさらに上昇させ、大気圏を抜けて宇宙に出たのだった。
ゾマホの核ミサイル発射という事態を重くみた連合政府は、他にも隠蔽されているミサイル基地があるのではと地球中を調査した結果、六つの施設を発見し、短時間で処理できるようハカイオーに破壊命令を出したのである。
破壊の方法は、核ミサイルと施設を含む全てを灰にするというもので、地球に有害物質が広がるのを防ぐ為に命じられた処置だった。
「そういえば、ゾマホはどうするんだ?」
健は、ゾマホの扱いに付いて尋ねてみた。
「彼は全ての記憶を失っているんだったな」
「そうだ」
ボルグとの戦いが終わった後、生きていることを確認してアルテミスシティの病院に運び、治療の甲斐あって意識を取り戻しはしたが、自身のことを含む全ての記憶を無くしていたのだ。
「自分がやったことを全部忘れているなんて都合が良すぎるよな」
「心理テストでも記憶が無いことは証明されたんだろ」
「そうなんだけどさ」
記憶喪失の振りをしている疑いもあったので、ドクター・オオマツによる心理テストを行った結果、本当に記憶を無くしていることが立証されたのだ。
「記憶が無いとはいえ、核ミサイルを発射したことに変わりはないから国家の反逆者としてブラジル政府が身柄を預かることに決まったよ。彼の母国という配慮込みでね」
「あんたを殺す為だけに日本を狙ったんだぞ。処罰の権利は日本にあるんじゃないのか?」
「引き渡しの見返りとして難民受け入れにホルスの部品製造などを負担させることを条件に出したんだ。いわゆる政治的取引というやつだよ」
「そういうことか。それにしても一家の主が、核ミサイルを撃ったんじゃあ、あいつの家族も大変だな」
「事を起こす前に縁を切っていたらしくて、会うつもりは一切無いそうだ」
「随分と冷たいな」
「家族を巻き込みたくなかったんだろ。今回のことにはブラジル国民も憤慨しているんだ。反逆者の身内と分かれば何をされるか分からないぞ」
「そりゃあ、そうだな」
一郎の言葉に納得するしかなかった。
「どの道、記憶が戻ればどうしたって裁かれるんだからそれまでの辛抱だよ」
「犠牲者は出なかったけど、核ミサイルを撃ったんだから死刑は確定なんだろ?」
「その辺は連合内で話し合うことになるだろう。被害を直接受けた君自身はどうしたい?」
一郎が、本音を探るように聞いてくる。
「処罰はしたいけど、さすがに殺すのは嫌だな。ただでさえ、ここまで大勢の人間が死んでいるんだし」
「それは言えているな」
「それで、マルスはどうしているんだ?」
「昨日日本に着いて政府で保護しているから心配ない」
「そうか」
マルスは、ラビニアの葬儀が終わった後に避難用のシャトルで月を離れ、一郎の配慮によって、連合政府に保護されているのだ。
健は、一郎からの説明を聞いて、胸を撫で下ろした。
珠樹は、システムの立ち上げ操作をしていた。
それに応えるように各データ画面が次々に表示され、最後に全方位モニターが周囲の風景を鮮明に映した。
珠樹は、予想以上の立ち上がりの速さに満足な微笑みを浮かべた後、操縦棹をしっかりと握り、フットペダルに乗せている両足に力を込めていった。
「十六夜珠樹、ホルス十六号機発進します」
珠樹の声に合わせ、青いホルスを乗せている射出用カタパルトが動き出し、基地の外へ出たタイミングで、ペダルを強く踏み込み、各バーニアを噴射して機体を勢いよく飛び立たせた。
「十六夜、乗り心地はどうだ?」
赤く塗られた一号機に乗っているトロワが、感想を聞いてくる。
「ヴィーゼルよりも断然いいです」
珠樹は、操縦棹を動かし、ホルスから得られるスムーズな動きを体全体で感じながら感想を言った。
珠樹達ヴィーゼルのパイロットは、地球で製造された新兵器であるホルスに乗り換えての慣熟訓練を行っていた。
逼迫している戦況下に置いて、総合的に性能の勝るホルスに乗り換えることで、少しでも戦力を向上させようという上層部の考えであった。
ホルスは、ヴィーゼル以上の機敏な動きで月面を飛び回り、パイロット全員に性能の高さを実感させていた。
「これで鋼鉄兵団に対して今まで以上に対応できればいいんだけどな」
トロワが、突然弱気なことを言い出した。
「大丈夫、きっと対応できますよ」
珠樹は、少し悲しそうな顔をしながら励ましの言葉を掛けた。
「そうだな。そう思わないといけないな」
そこへ警報が鳴り、パイロット全員が息を飲んだ。
「機械惑星から一機のロボットが発進しました」
警報の後に続くオペレーターからの通信に緊張が走る。
「全員、戦闘体勢に入れ!」
号令を掛けるトロワの声には、先程までの弱気は一切感じられなかった。
「あんた達はアルテミスシティの防衛に専念してくれ。あいつは俺がやる!」
健からの通信が、割り込んできた。
「分かった。頼んだぞ」
トロワは、健の言う通りにアルテミスシティの防衛に向かった。
「本部、ヴィーゼルのドローン隊を出せ!」
トロワの指示によって、防衛隊基地から多数の無人ヴィーゼルが発進して、アルテミスシティを囲むような陣形を組んでいった。
「ほう、見たことのない機械も居るようだな。弱き者達がまた新しいのを造り出したというわけか。一応どの程度の力があるのか確めてやるとしよう」
騎士は、多数の偵察員を創造して、ホルス部隊が居るアルテミスシティに向かわせ、自身は地球へ向かっていった。
「お前を地球には行かせねえぞ!」
騎士の前にハカイオーが立ちはだかった。
「来たか、ハカイオー。お前の相手はわたし自身がするとしよう」
騎士は、自分自身を一機創造して、地球へ向かわせた。
「行かせる!」
「おっと、君はわたしを地球へ行かせないんだろ?」
ハカイオーの前に立ちはだかった騎士が、トボけた調子で聞いてきた。
偵察員が連射してくるレーザーをなんなく回避している珠樹のホルスが、両肩と両肘から合わせて四つの球を射出した。
球は、ホルスの前面に出て、四角の陣形を取り、光線を出して連結した後、線で囲んだ枠内にエネルギーフィールドを展開した即席のバリアを作って攻撃を防いだ。
バリアが攻撃を防いでいる間に珠樹は、狙いを定めて右トリガーを引くと、ホルスが右手に持っているバスターレールガンから弾を発射して、偵察員の腹部を撃ち抜いた。
そうして怯んだ隙にバーニアを噴射して一気に距離を詰めて肉迫し、左手に球を集め、バリアエネルギーの籠った左パンチを胸部に叩き込んで撃破した。
偵察員と戦闘を行っているホルス部隊は、優勢とまではいかないものの、それなりに健闘しているのだった。
その一方、ホルス部隊をかいくぐった偵察員が、アルテミスシティに近付いていくと、待機しているヴィーゼル全機が光って、巨大なバリアを形成した。
偵察員は、バリアに向けてレーザーを撃つも反射され、左手から光刃を出して直接斬りかかるも跳ね返されてしまうのだった。
「なかなか、やるじゃないか」
騎士が、誉めるような言葉を送ってきた。
「いつまでもやられてばっかりだと思うなよ」
健が、ざまあみろとばかりに言い返す。
「そういうことなら君は問題無いだろうな。キルドールとボルグを倒したわけだし」
「その通りさ! 今からお前も倒してやるよ!」
健は、ハカイオーに剣を出させて、真っ正面から斬りかかっていった。
騎士は、避けずに剣を前に出して、攻撃を受け止めた。
「それでお前はもう一人に何をさせるつもりだ?!」
「それはすぐに分かるさ」
騎士が、余裕のある声で返事をしている頃、地球を前にしている騎士は、剣と盾を組み合わせて一つにすることで、刃を長く伸ばしていった。
そこへ地球防衛用に設置されていた無人ビーム砲が、一斉にビームを発射した
騎士は、光刃を真横に一閃することで、ビームを打ち消すと同時にビーム砲を破壊していった。
それから光刃の向きを変え、地球目掛けて突き出し、太平洋に突き刺したのだった。
「お前、地球を破壊しようっていうのか?」
「そうだよ。あの星に居る弱い人間を皆殺しにする為にね」
「そんなこと絶対にさせねえぞ!」
刃を当てようと操縦棹をより前に倒していく。
「わたしを相手にしたままでそれができるのかな?」
騎士は、ハカイオーを押し返しながら言った。
「それができるんだな」
健は、HS 《ホログラムスクリーン》で表示したキーボードを操作すると、月の防衛隊本部にあるアルテミスキャノンが起動して、エネルギーを充填した後、地球に居る騎士に向けて強力なビームを発射した。
騎士は、ビームを察知すると、刃を引っ込めながら回避した。
「地球への被害はどのくらい出ているの?」
オペレーターに被害状況を尋ねる。
「幸いにも人の居ない区画でしたので刃による人的被害は今のところ出ていませんが、大津波が発生しましたので、これから被害が出ると思われます」
「分かった。避難を急がせろよ」
短い指示を出した。
「まさか、そんなやり方でくるとはね」
騎士が、健自身を誉めるような言葉を送ってくる。
「お誉めいただきどうも」
「そういえば、まだ名前を言っていなかったな。わたしはダルタニウスだ」
騎士は、自分から名前を言った。
「自己紹介までしてくれるなんてありがた過ぎるね~!」
健は、礼を言いつつ攻撃を再開した。
「どうだい、ここで一つゲームをしようじゃないか」
ハカイオーの剣攻撃を右手の剣だけで受け流しながら戦いの趣旨を変える提案を持ち掛けてきた。
「ゲームだと?」
「そうだよ。見ろ!」
後退して、ハカイオーから距離を取ったダルタニウスが、剣で示す先には地球があって、いつの間にかダルタニウスが六体に増えているのだった。
「どんなゲームをするつもりだ?」
焦らずにゲームの内容を聞くことにした。
「簡単さ。君がやられた分だけ地球に剣を刺していく。六機全てが刺し終えた瞬間に地球は滅びる」
「お前がやられたらどうなる?」
「やられた分だけわたしを消していこう。完全に倒せば君の勝ちというわけだ。どうだ?」
「いいぜ。やってやるよ」
健は、ダルタニウスの挑発に応じることにした。
「その前に月に居る奴等は消してくれよ」
「それはできない。邪魔はされたくないからな」
「ほんとお前らってなんなんだよ。頭のおかしい奴が入れば、無口な奴も居て、そしてお前みたいな口数の多い奴が居てさ」
「さあね。どんな感情を持つかは全て機械王様の気まぐれさ」
「そうかい!」
健は、ハカイオーに剣をもう一本出させ、二刀流形態にして、高速で刃を打ち込んでいった。
「その程度の攻撃ではわたしには届かないぞ」
ダルタニウスは、刃から無数の棘を出して突き出してきた。
「同じ手が通用すると思ってんのか~?!」
ハカイオーの二本の剣から蒼い炎を出して、棘を焼き尽くしていく。
「やるね。だが、これはどうかな?」
ダルタニウスの背中から二本の腕が生えてきて、それから木が枝分かれするように増殖していき、あっという間にハカイオーの周囲を取り囲んでいった。
「この攻撃を避けられるか~?!」
何千本という刃が、ハカイオー目掛けて、一斉に降り注いでいった。
「誰が避けるかってんだよ!」
健は、放出した破壊粒子で円形の壁を作って剣を防御した。
「いつまでその状態でいられるかな?」
「お前こそちゃんと避けろよ」
健は、壁を突き破る形で、ハカイオーに大出力のビームを撃たせた。
ダルダニウスは、盾を前面に出したが、防ぎ切れずに左腕を焼失しながら月へ向かって落下していった。
その瞬間、地球を囲んでいるダルタニウスの一体がルール通りに消滅した。
ハカイオーは、月面に落下していくダルタニウスに向かって両足を突き出し、電撃を伴ったキック体勢のまま急降下していった。
しかし、ダルタニウスが当たる直前に体勢を立て直して避けたことで、キックは月面を大きく窪ませながら土煙を上げただけだった。
一方、アルテミスシティを攻めようとしている偵察員達は、一つに合わさり、巨大な右腕に変形して、バリアにパンチを当てていった。
「なんだよ。左腕は再生させないのか?」
健は、左腕の無いダルタニウスに向かって聞いた。
「この方が、どれだけやられたのか分かるだろ」
「お気遣い嬉しいね」
健は、ダルタニウスに正面から向かって行った。
「本当に左腕が無いままでいいのかよ?」
攻めながら質問する。
「別に不利じゃないからね」
ダルタニウスは、剣で攻撃を受け止めた直後、左足を振り上げながら爪先から刃を出して、ハカイオーの右腕を斬り落とした。
その瞬間、一機のダルダニウスが地球に剣を突き刺した。
「このまま一気にいかせてもらうよ」
ダルタニウスが、再度背中から腕を生やし、無数の剣で突き刺しまくられたことで、残っている手足を一気に破壊されていった。
それに合わせて地球に居るダルタニウス四機が、同時に剣を刺していった。
五本もの剣を刺されたことで、地球上では大津波に大地震といった天変地異が起こっていた。
「どうやらここまでのようだな。この一撃で君を倒せば最後の一機が地球を刺して全て終わりだ」
ダルタニウスは、刺されまくった衝撃で吹っ飛び、仰向けに倒れている満身創痍のハカイオーに向けて、トドメを刺そうと右手に持っている剣を大きく振り上げた。
「まだだ!」
健の言葉の後、ダルタニウスはハカイオーの右手に背中から貫かれた。
「なん・・・だと?」
ダルタニウスが、驚きの声を上げる。
「ハカイオーの手足は、遠隔操作できるんだよ!」
健は、かろうじて残っている右肩から破壊粒子を放出して、長大な刃を構築して一気に降り下ろした。
ダルタニウスも対抗して剣から極太の光刃を構築して降り下ろしてきた。
二つの刃が激突して、凄まじい粒子の放出が起こったが、力は拮抗し、二体の周囲を円形に激しく削っていった。
「これでどうだ?!」
健は、ダルタニウスに刺さったままの右腕を爆発させ、怯んだ隙に刃を押し出して真っ二つにしたのだった。
その瞬間、地球を取り囲んでいたダルダニウス全機が、約束通りに消えていった。
「お前、今まで一番変な敵だったぞ」
健は、返事をすることのない相手に向かって、複雑な気持ちを表す言葉を送った。
その頃、アルテミスシティでは、右腕の度重なるパンチによって、バリア維持に限界を迎えたヴィーゼル隊が、機能を停止して次々に落下していた。
バリアが消え、無防備な姿を晒したアルテミスシティに向けて、右腕は天井を突き破ろうと急降下していった。
まだ、偵察員を倒し切れていない珠樹達が間に合わないと絶望の声を上げる中、極太のビームが発射され、右腕を完全に焼失させた。
「今のビームはアルテミスキャノン? 誰が撃ったんだい?」
突然のビーム攻撃に珠樹が、驚きの声を上げる。
「俺がやったんだ。回線を繋いでおいて正解だっただろ」
「そうだったんだ。ありがとう」
「上風、よくやった」
珠樹とトロワが、感謝の言葉を送ってくる。
「鋼鉄兵団ってほんとなんなんだよ。機械王って奴に聞いてみたいぜ」
刃を消滅させた満身創痍のハカイオーの中で、静かに呟くのだった。
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