第25話 再会。

 「ハカイオーは現在も破壊粒子の放出を続け、地中を掘削しています。このまま堀り進んでいけば、数時間後には地球のコアに達するとのことです。そうなった場合、地球は爆発するとの結果が出ています」

 連合政府の調査班による報告だった。

 「月でも黒い渦は観測できているわ。アルテミスシティに当たらないコースなのがさいわいだけど、これがハカイオーを完璧に調整した結果というわけなのね」

 ラビニアが、連合代表に向けて、皮肉をたっぷり込めた一言を言い放った。

 「このような結果になるとは、わたしとしても予想外だった」

 ゾマホ首相は、眉間に皺を刻んだ不機嫌な表情を浮かべ、いつもよりやや低い声を出しながら言い返した。

 「そのせいで世界中がパニックに陥っているのだぞ。シャトルの離着陸が可能な空港では地球から逃げようとする人間で溢れ、ある国ではシャトルを奪おうと乗り込んできた武装グループを防衛隊が鎮圧したなんて情報まで入ってきているくらいだ」

 「その点では、銃刀違反が顕在の日本は安全そうだな」

 「馬鹿なことを言わないでくれ。ハカイオーの暴走が起こっているのは日本なんだぞ。少しでも試験場所から離れようと空港だけじゃない、道路に鉄道に船舶など全ての交通機関が麻痺状態になっていて、防衛隊でも手に追えない状況になっているんだ」

 一郎が、苛ついた声で反論する。

 「それでも、あなた達が乗るシャトルは確保できているのでしょう」

 ラビニアが、質問ではなく決め付けたように言ってくる。

 「それはともかく、このような事態になったのもミルバ・ブチャラティなんて、頭は良いがイカれているとの噂もある女に調整を任せたせいではないのかね?」

 「彼女を選んだのはゾマホ首相、あなただったな」

 「このような事態を招いた以上、責任を取るべきではないのか」

 各国の代表が、口々にゾマホ首相に非難の声を浴びせて、責任を押し付けていく。

 「今はわたしの責任問題よりもこの非常事態を解決する方が先決だろうが! このままでは地球はハカイオーによって破壊されてしまうのだぞ!」

 抑えていた苛立ちを爆発させたように額に青筋を浮き出させたゾマホ首相が、大声で怒鳴ると、さっきまでの大騒ぎが嘘のように会議室内が静まり返った。

 「それで、何か具体的な解決策はあるのかね? あるのなら是非とも聞かせて欲しいな」

 「こうなったからには調整した本人に止めさせるしかないだろ」

 「また、あの女に任せるのか? 今度はどんなことをしでかすのか分からないぞ。さらに事態を悪化させたらどうするつもりだ?」

 「なら、他に解決できそうな人材が居るのか? 居るのなら今すぐ紹介して欲しいものだな」

 ゾマホ首相の問い掛けに対して、会議室内が再度静まり返る。

 「ハカイオーは彼女が調整した結果、暴走したのだから調整した本人に解決させる他ないに解決策はないだろう」

 その意見に対して、異論や反論を唱える者は、一人も居なかった。


 「連合代表からハカイオー停止の正式な要請が出されました」

 連合政府の高官が、届いたばかりの用件を伝えてくる。

 「それで、どうされるおつもりですか?」

 京介が、責めるような口調で、ミルバに問い掛ける。

 「南雲君、顔が怖いぞ」

 「後十数時間で地球が滅びてしまうのですから怖い顔にもなりますよ」

 京介は、声を荒げながら返事をした。

 「人質から解放されたんだ。もう少し気を楽にしたらどうだ?」

 返事をしながら、椅子の背もたれに背中を乗せていく。

 「人質以上に切迫した状況なのですから気楽になんてできるわけがないでしょう。あなたと一緒にしないでください」

 観測班に変装していたドラッグチルドレン達によって、人質にされていた二人は、チルドレンが呈示した身の安全を保証するという要求を政府が飲んだことで、無事に解放されたのである。

 地球滅亡という最悪の事態に対して、ドラッグチルドレンも自分達の野望どころではなく、政府も彼等に構っていられないという妙なところで利害が一致した結果だった。

 「もちろん、ハカイオーを止めに行くさ」

 迷いを一切感じさせない即答だった。

 「それでは代表には、そのように伝えます」

 高官は、一礼してモニター室から出て行った。

 「どうやって止めるんです?」

 「まあ、待て。もうすぐ返事が来る」

 その数秒後、ミルバのMT《マルチタトゥー》に通話が来たことを知らせる音が鳴った。

 「あたしだ。分かった。すぐに向かう」

 「誰からの電話ですか?」

 「日本政府からだよ」

 ミルバは、返事をしながら椅子から立った。

 「どこへ行くんですか?」

 「明海君との約束を果たしに行くんだ」

 「明海との約束?」

 「そうだ。君は支部に戻って回収したブレインポッドの修理に全力を注げ」

 京介に指示を出したミルバは、モニター室から出て、ユニットの近くに止めている自身のスカイビートルに乗って、試験場から離れていった。


 十数分後ミルバは、明海と一緒に保養所の管理人が運転する車の後部座席に座っていた。

 明海が、物珍しそうに車窓からの風景を眺めているのに対して、ミルバはつまらなそうに前を向いていた。

 「ここが上風健の住まいです」

 管理人は、屋敷の門の前で車を止めた。

 「ここに健が住んで居るんですか?」

 「他の屋敷に比べると小さいが、なかなか立派じゃないか」

 二人が、屋敷を見た感想を口にしていく。

 「わたし達は最高の環境をご用意するのが勤めですから」

 管理人が、自慢気に自分の職種に付いて語った。

 「上風君には、あたし達が来ることは伝えてあるんだろうな?」

 「もちろんです。総理直々のご命令とあれば連絡しないわけにはいかないでしょう」

 「それじゃあ、会いに行くとしようか」

 「はい」

 門を通った二人は、玄関に向かって歩き出した。

 ミルバが、すたすたと先を行くのに対して、明海の歩は若干遅かった。

 二人が、玄関の前で足を止めるタイミングで、扉が開いた。

 「ミルバ・ブチャラティ様と南雲明海様ですね」

 中から出てきて、二人の名前を口頭で確認してきたのは、メイド服に身を包んだ黒髪をショートボブにしている二十歳くらいの女性だった。

 「それで、上風君はどこかな?」

 ミルバが、奥を除き混むようにしながら尋ねる。

 「健様は、リビングでお待ちです」

 「健様?」

 明海が、不思議そうにオウム返しする。

 「わたし達は、健様のメイドですから」

 女性は、見た目とは裏腹にしっかりとした応対をしていた。

 「お二人共、中へお入りください」

 女性の声に従い、ミルバの後に続いて屋敷に入った明海は、健との久々の再会に嬉しさを感じるどころか、一歩一歩進んで行く度に不安が募っていくばかりだった。


 「よう、明海にミルバ、久しぶりだな~」

 健が、二人に歓迎の言葉を送ってきた。

 「上風君、元気そうじゃないか」

 「・・・・」

 ミルバが、再会の挨拶を返す脇で、明海は一言も返さず、呆然と立ち尽くしていた。

 目の前の光景に対して、返す言葉を見付けられなかったからである。

 リビングの中央に置かれているキングサイズ以上のベッドに座っている健が、下着姿で淫靡な色気を漂わせる女達に囲まれていたからだ。

 健は、リビングをハーレムにしていたのである。

 ハーレムの主となっている健は、髪はボサボサで、苔のような生え方をしている不精髭が、だらしのない顔をいっそう酷く見せ、下着一枚でたるみかけた腹を丸出しにした羞恥心の欠片もない格好をしていて、明海を大いに失望かつ絶望させていた。

 「楽しそうでなによりだ」

 ミルバが、ハーレムを見た感想を口にする。

 「ほんと、すっげえ楽しいよ。食い物には全然困んないし、こいつらは俺の言うことならなんでも聞いてくれるわで、ほんと最高だぜ~」

 言い終わるなり、左右に居る女をギュ~っと抱き寄せた。

 その様子を見ていた明海は、ミルバの脇を通って、靴も脱がずにベッドに上がり、健に近付くなり右手でおもいっきり引っ叩いた。

 いきなりの行動を前に、女達は一瞬だけ表情をはっとさせ、ミルバは軽く口笛を吹いた。

 「痛ってえな~。いきなり何すんだよ~」

 叩かれたというのに痛みを感じていないようなだらしのない声で、非難の言葉を口にした。

 そんな健に対して、明海は何も言わず、蔑んだ視線をぶつけるだけだった。

 「久々に会っていきなりビンタはないだろ~。頬っぺた痛い痛いだからチュ~して直してくれ」

 健が言うなり、右側の女が、返事の代わりに妖しい微笑みを見せながら唇を左頬に押し付けた。

 「治りましたか?」

 女が、ワザとらしくも色っぽい口調で尋ねてみせる。

 「治った。治った。元気モリモリだよ。こっちもモリモリだよ~。あははは~」

 言い終えた健は、下品な笑い声を上げ、それに合わせて女達も笑い声を上げていく。

 明海は、笑い終わるのを待たず、両手で健の顔を何度も叩き、動きを止めた時には、肩を上下させるくらいに呼吸を大きく乱していた。

 「何もいっぱい叩くことはないだろ~?」

 たくさん殴られたというのにだらしのない顔を崩すどころか涙すら浮かべることなく、ふぬけた声を返してくる。

 「何をしているの?」

 冷めきった低い声で、聞き返す。

 「見て分からないのかよ。酒池肉林だよ~。好きな時に食って、好きな時にエッチしているんだ~」

 言いながら左側に居る女の豊満な胸の谷間に顔を埋め、それに合わせて女が厭らしい喘ぎ声を出す。

 「どうして、そんなことしているの?」

 「どうしてって、することが無いからに決まっているだろ。ハカイオーには乗れないし、乗ろうとすれば、国家反逆罪で死刑にされちまう」

 「そのハカイオーが、今大変なことになっていても?」

 「なんかあったのか?」

 「TV見ていないの?」

 「ここに住んでからはさっぱりでね。見れば分かるだろ~?」

 リビングにTVは無かった。

 「全身から破壊粒子を放出しながら地球のコアに向かって掘り進んでいるんだ。到達したら地球は壊滅だ」

 ハカイオーの現状に付いては、ミルバが説明した。

 「勇一はどうした? 今はあいつがパイロットだろ」

 「勇一ならハカイオーが、今の状態になる直前に放出されたブレインポッドから出て、自分から破壊粒子の中に飛び込んで死んだよ。ハカイオーに放り出されたのが、よっぽどショックだったんだろうね」

 「あいつ、死んだんだのか。それでハカイオーをどうするつもりなんだよ?」

 「もちろん、止めるさ。連合政府から正式に要請されたんでね」

 「どうやって?」

 「君と明海君の力を合わせてだよ。その為に来たんだ」

 「俺はごめんだね~」

 健は、へらへらした声で、きっぱりと断った。

 「こいつは意外だな。ハカイオーのことならすぐに飛び付くと思ったんだが」

 ミルバは、珍しく驚きの表情を見せていた。

 「なら、健は何をするつもりなの?」

 「俺は、ここに居て酒池肉林を楽しみ続けるだけさ。毛利首相が総理で居る間は、この生活も保証してもらえるからな」

 「地球が滅亡したら、この生活どころか、何もかもが終わるのよ。それでも構わないっていうの?」

 明海は、健の現状も踏まえながら、地球の危機を必死に訴えた。

 「そん時は、そん時でみんな仲良く天国へ行こうぜ~」

 明美の気持をないがしろにした物凄く軽い調子での返事だった。

 

 「健」

 明海は、静かに名前を呼んだ。

 「なんだよ」

 「本当に世界がどうなっても構わないの?」

 「今の俺には世界がどうなっても構やしないさ~」

 「なんで?」

 「はあ~?」

 「なんで、そんなことを言うのかって聞いているの?」

 「俺がそう思っているからだよ」

 「ハカイオーで最後まで戦うんじゃなかったの?」

 「母さんが死んだ日から鋼鉄兵団を一体残らず倒してやる思いながら戦ってきたさ。そうして何回も死ぬような思いもしてきたっていうのによ~。一般人からは変な目で見られて殺されかけるわ、肝心のハカイオーは政府に取り上げられるわで、下手なことすりゃ豚箱行きって脅された挙げ句、最後に行き着いたのがここなんだから、諦めて受け入れるしかないだろ」

 微かにだが、はっきりとした口調で話した。

 「やっと、ちゃんと話してくれたね」

 明海は、少しだけ微笑みを取り戻した。

 「これで分かっただろ。さっさと帰ってれよ」

 「そうはいかないな~。君が居ないと事態の収集ができないんだ。そうなるとあたしが国家反逆罪で捕まってしまう。どうしても嫌だっていうのなら政府に要請して無理やり出て貰うまでさ。現実もあたしも君の我が儘に最後まで付き合うほど甘くは無いんでね」

 ミルバは、政府に連絡しようと、MTに人指し指を近付けていった。

 「待ってください。そんなやり方じゃ今までと変わりません」

 「それじゃあ、どうするんだい?」

 「健、どうすればいいの?」

 明海は、健に選択を委ねることにした。

 「そういうことなら俺を満足させてみろよ」

 「え?」

 言葉の意味が分からず、聞き返してしまう。

 「俺を満足させたらハカイオーを止めに行ってやるって言ってるんだ」

 「何をすればいいの?」

 「そりゃあ、ここに居る女達と同じことをするに決まっているじゃないか」

 健が、見て分かるだろと言わんばかりに、回りの女達に視線を向けていく。

 「この人達と同じことをすればいいってこと?」

 「そうだよ。お前にできるか? 俺と会っていない間に何もなけりゃ、お前はまだ処女だよな? 俺に処女をくれって言っているのさ」

 淫らな条件を口にする健は、今まで見たことがないくらいに厭らしい表情を浮かべていた。

 その顔を見た明海は、研修コロニーで、自分にストリップを要求してきた不良と同じ顔をしていると思い、反吐が出そうになった。

 「この人達が見ている前でしろっていうの?」

 「そうだよ」

 「そ、そんなことできるわけないじゃない」

 当然の返事だった。

 要求される淫らな行為を初めてするだけでも十分恥ずかしいのに、それを大勢が見ている前でしろというのだから無理もない。

 「なんだ。口先だけかよ。俺はお前を守る為に随分と痛い思いしてきたっていうのによ~」

 明海は、言葉を返すことができなかった。

 「ほら、どうすんだよ? もたもたしていると地球が滅びちまうぜ~」

 健の挑発的な言葉を受けて、どうしていいのか分からなくなって、気付けば助けを求めるように周囲に視線を向けていた。

 その視線に対して、ミルバは無言のまま、近くにある椅子に座ってどうするんだ?といった視線を返し、女達も同様の態度を取ってくるだけで、この状況は自分だでどうにかするしかないのだと思い知らされた。

 「・・・・わ、分かったわよ」

 一度目を瞑って覚悟を決めたが、喉から出てきた声は震えていた。これから自分がやろうとすることに対して、込み上げてくる羞恥心が、自分でも気付かない内に声を震わせてしまったのだろう。

 そうして、声と同じように震える手で、スカートのホックを外すと、滑るようにベッドに落ちて、履いている下着を全員に晒してしまう。

 拾い上げる余裕もなく、下着に両手をかけてずり降ろし、恥部を晒した時には、燃えそうなくらいに顔が熱くなっていた。

 「ほ、ほら、健も脱いでよ」

 「いいぜ」

 健は、言われるまま、下着を脱いで、ゴミを捨てるように放り投げた。

 その行為によって、明海の眼前に健の膨張したそれが晒け出され、思わず目を背けてしまう。

 「しっかり満足させてくれよ」

 健は、自分自身を差し出すように大の字に寝転んだ。

 「・・・・」

 明海は、たどたどしい動作で健に跨がった。

 「明海の手で入れてくれよ」

 健が、さらに破廉恥な要求をしてくる。

 明海は、震える右手で健のそれを掴んだ。

 初めて手にしたそれから異様な感触が伝わってくるのと同時に、本当に自分の中に入るのかと疑わしく思えてさえきた。

 「早くしろよ。握られているだけじゃ満足できないぜ」

 その言葉を受け、もうどうにでもなれといった半ば自暴自棄な気持ちで、自ら足の間に入れた。

 「くっ・・・・!」

 入れた途端、これまで感じたことのない激痛が、全身を駆けめぐった。

 初めての痛みに顔は、ひきつり、耐えるように歯を強く食い縛って、両手を健の肩に乗せて爪を食い込ませていった。

 一方の健は、僅かばかりに表情を変えた後は、何も言おうとせず、ただ明海を見ているだけだった。

 「動け」

 明海は、言われるまま自分で腰を動かした。

 快楽など一片も無く、痛みしか感じないので、口から洩れ出るのは、喘ぎ声ではなく、ただの呻き声だった。

 その間、健はただ小さく息を漏らすだけだった。

 動かす度に激痛が走るに連れて、声量は高く、表情も険しさを増し、健の肩に乗せている両手は、血が滲み出るほどに爪を食い込ませていた。

 さらに続けていく内に、明海の中に苦痛から来る怒りが込み上げてきて、目を大きく見開き、歯を剥き出しにした鬼のような形相を浮かべた顔で健を睨むなり、両手を肩から外して首を締めた。

 突然の行動に健は表情を一変させ、明海の両腕を掴んで、引き離そうとしたが、全く動かなかった。

 形成は完全に逆転し、明海が、健を犯しながら殺そうとしているようにしか見えない凄まじい光景は、周囲の者達を圧倒し、止めることさえ戸惑わせてるほどだった。

 「ううっ・・・」

 健が、呻くような声を上げた。

 「これで満足したでしょ?」

 明海が、息を切らしながら感想を尋ねてくる。

 その問い掛けに健は、今にも死にそうなくらいに息を切らしながら、小さく頷くだけだった。

 「それじゃあ、約束守ってもらうわよ」

 健からゆっくり離れた明海の足の間からは、二人が確かに交わった証拠である二色に混じり合った液体が漏れ出て、ベッドに落ちていった。

 「・・・・分かった。行くよ」

 健は、自分のそれに付いている明海の血を見ながら返事をした。

 「・・・・・良かった」

 明海は、憑き物が落ちたように表情を緩めながら、ベッドに倒れてしまった。

 「よし、話が決まったところで出掛ける準備に掛かろうじゃないか。上風君はジャワーを。明海君は手当てをしよう。君らも手伝ってくれないか?」

 椅子から立って、その場を仕切り始めたミルバが、女達に声を掛けていく。

 女達は返事をせず、指示を仰ぐように健に視線を向けた。

 「手伝ってやれ。俺はシャワーを浴びてくるから」

 健が、苦しそうな声で指示を出して、リビングから出ていくと、女達はミルバの言ったことを実行に移していった。


 健は、シャワーを浴びていた。

 それに付いていた二色の液体はとっくに流れて落ちていたが、交わっていた時と首を閉められた感覚は、まだしっかりと残っていた。

 そして脳裏には自分と交わる中で、剥き出しの殺意をぶつけてくる明海の鬼のような顔が、しっかりと刻まれていた。

 「明海に、明海にあんなことをさせるなんて、ほんとに俺は最低だ・・・・。最低だ~!」

 健は、その場に座るなり、誰が聞いているかも構わず、声を上げて大泣きした。

 「健様、どうされました?」

 シャワー室のドアが開いて、出迎えた女性が顔を覗かせた。

 「どうしたんだ、奈津美なつみ?」

 泣きながら女性の名前を呼んだ。

 「大きな声が聞こえるので、様子を見てくるようにミルバ様に言われたのです」

 「そうか、もう大丈夫だ」

 涙を拭いて、無理に強がって見せる。

 「それでは体を拭いたら髪と髭を整えましょう」

 「けど」

 「大丈夫、すぐに済みますよ。それにわたし、こういうのは得意なんです」

 明海への非道な仕打ちなど、知らないかのように柔らかな微笑みを向けてくる。

 「分かった。頼むよ」

 シャワー室から出て体を拭いた後、奈津美は洗面所にあった鋏で髪を切り、剃刀で髭を剃った。

 「これでいいですよ」

 「ありがとう」

 「そう言ってもらうの初めてです」

 「そうか?」

 「わたしを初めて抱いた時にもなかったですから」

 「悪い」

 健は、バツの悪い一言の後、クローゼットへ行って服を出した。

 ここへ初めて来た時に着ていた服で、着てみると少々キツかった。ここでの暮らしが、サイズが合わなくなるくらいに余分な肉を付けてしまったらしい。

 ベルトを締めながら、それも仕方ないことだと我慢した。


 「準備はいいかい?」

 リビングに入ってきた健に、ミルバが声を掛けてくる。

 「いつでもいいよ」

 弱々しい返事の後にリビングを見回した。

 来客用の椅子にはミルバと明海が座り、ベッドには女達が露出の高い服のまま集まっていた。

 「なら、行くぞ」

 「明海、大丈夫か?」

 申し訳なさそうに尋ねる。

 「わたしなら大丈夫よ」

 明海は、健の脇を通り過ぎながら答えた。

 「俺が出て行ったら、お前達はどうなるんだ?」

 「あなたが、ここから出ていくのであれば全員解雇となり、次の御用命があるまで、一般人と同じ暮らしをします」

 奈津美が、全員代表するように答える。

 「分かった。じゃあな」

 素っ気ない一言だけで、リビングから出て行った。

 長く一緒に居たなりの言葉を掛けたくもあったが、淫らな行為しかしてこなかっただけに、明海の前で言うのは気が引けたのだ。

 屋敷から出ると、久々の陽射しを浴びて、気分が悪くなったが、我慢しながら進み、玄関先に止まっている管理人の車へ向かった。

 「スカイビートルじゃないんだな。急いでいるんだろ」

 「ここはその手のものを使うと優秀な防衛システムが働くんだと」

 「そういうことか」

 「分かったなら行くぞ」

 ミルバは、足早に車へ歩いていった。

 「明海」

 健の呼びかけに明海は応えず、車に乗ってしまったので、仕方なく後に続いて乗った。

 三人の乗車を確認した管理人は、保養地の入り口へ向かい、その後はミルバのスカイビートルで、防衛隊の日本支部へ向かった。


 支部の降下ポイントに着陸したビートルから出た健は、大きく深呼吸した。

 今まで、保養地という自然溢れる牢獄の中に入れられていたので、少しばかり新鮮な気持ちになれた。

 周囲には、大勢の隊員が集まってきて、珍しそうな目線を向けてきたが、全く気にならなかった。

 「健君、久しぶりだな」

 ハカイオーの格納庫兼ミルバの研究所に着くと、京介からの出迎えを受けた。

 「久しぶりだね。おじさん」

 健の声は、若干震えていた。

 愛娘である明海にしたことへの罪悪感から、まともな声が出せなかったのである。

 「どうかしたのかい?」

 「いや、なんでもない。それで、どうやってハカイオーを止めるんだ?」

 話題を逸らすように、ミルバに問い掛けた。

 「君がブレインポッドをハカイオーに近付けて停止させるんだ。ここからじゃ全く反応しないからな」

 「やるのはいいとしてどうやってハカイオーに近付くんだよ? ブレインポッドだって破壊粒子を浴びたらひとたまりもないぞ」

 「だから、明海君の力が必要になるんだろ」

 「明海の力を使って、破壊粒子を防ぐってわけか」

 「その通りだ」

 「明海、大丈夫なのか?」

 健が、不安そうに明海に問い掛ける。

 「わたしは平気よ」

 明海は、毅然とした態度で即答してきた。

 「世界を救う為だ。許可したよ」

 聞くよりも前に返事をした京介の表情は、とても暗かった。

 地球を救う為とはいえ、愛娘が、危険なことをしようというのだから当然の反応だろう。

 「話が決まったのならさっさと準備しろ」

 ミルバの号令の元に各自が、それぞれの準備を始めた。

 

 健は、更衣室に居た。

 目の前には、ハカイオーの専用にして、母である光代から渡されたパイロットスーツがあった。

 「まだ、残っていたんだな」

 懐かしい友人に久々の再会でもしたかのように声を掛けた後、ハンガーから取って体に通していく。

 布ともゴムとも異なるスーツ独特の感触に全身を包まれていくと、自然と気分が高揚してくる。

 ただ、服と同じように腹回りが凄くキツいのは、これまでの不摂生な生活送ってきた自分への罰として、真摯に受け入れることにした

 「健」

 更衣室から出ると、明海が立っていた。

 「あ、明海か」

 全く予想していなかった出来事を前に、心臓が飛び出しそうになった。

 「お、俺・・・・・」

 何か言おうとしたが、言葉が見付からず、しどろもどろになってしまう。

 そこへ明海が、胸に飛び込んできた。

 「・・・・」

 驚くあまり声も出なかった。

 「あの時のことは謝らなくともいい」

 顔を伏せている明海が口にしたのは、赦しの言葉だった。

 「いいのか?」

 「その代わり、絶対にハカイオーを止めて。そして地球を救って。でなきゃ、訴えるから」

 明海が、泣いているのが、スーツが濡れていく感触で分かった。

 「約束する」

 それから頷き合った二人は、一緒に歩き出した。

 

 二人で、ハカイオーのハンガーの側に置かれているブレインポッドの元に向かった。

 「上風君、遅いぞ」

 「そういうあんたは、なんて格好をしているんだ」

 健は、ミルバの格好を見て、驚きの声を上げた。

 白衣ではなく、健が着ているのと同タイプのスーツを着用していたからである。

 「見て分からないか? ブレインポッドに乗るんだよ。君と一緒にね」

 「なんであんたが乗るんだ? 明海じゃないのかよ」

 「明海君の力をあたしが制御するからだよ」

 「どういうことだ?」

 「ブレインポッドに新しく内蔵した明海君の力を再現する装置をあたしが操作するということさ」

 「そういうことか。なら、早く行こうぜ。そうしないとハカイオーに地球が滅ぼされちまう」

 「同感だが、その前にブレインポッドに乗ったらこいつをコンソロールパネルの上に置いてくれ」

 ミルバが、右手から投げ寄越したものを受け取ってみると、数字がセットされているカウンターだった。

 「こんなもの何に使うんだ? それとなんで数字がセットされているんだよ」

 ミルバが、寄越した物なので、特注品かと思ってじっくり見ていったが、極普通のカウンターだった。

 「そいつはな、あたしが計算したハカイオーまでの到達距離を記録してあるんだ。黒い渦の中に入ったらスイッチを押せ。ゼロになったところにハカイオーが居る」

 「分かった。それじゃあ、行くか」

 「そうしよう」

 二人は、ブレインポッドに搭乗した。

 「健、ミルバさん、気おつけて」

 「健君、ミルバ先生、ご無事で」

 明海と京介が、二人に見送りの言葉を送ってくる。

 ミルバが頷いたのを見た健は、ブレインポッドのキャノピーを閉じた。

 ブレインポッドを上昇させながら下を見ると、明海と京介の後ろに立っている日本支部の全隊員が、敬礼をして見送っていた。

 「久々の操縦だけど大丈夫そうだな」

 ミルバが、声を弾ませながらからかってくる。

 「何をしている時でも操縦方法が頭から離れないたことはないから全然問題無いぜ」

 「なら、安心だ」

 ミルバは、返事をしながらシートに体重を預けた。

 健は、これまでと変わらない操縦さばきで、ハカイオーの元に飛んで行った。

 

 「あれだな」

 前方に巨大で真っ黒な渦が見えてきた。

 天に放出されながら範囲を広げていく黒い渦は、晴れ渡った青空の元、人を含む生き物だけでなく、天候といった自然現象さえ拒んでいるような強烈な存在感を放っていて、見方によっては、大地が毒を吐き出しているようでもあった。

 「あれをハカイオーがやっているのか」

 「そうだ。ハカイオーが世界を滅ぼす力を発揮しているんだよ」

 「ハカイオー、お前、俺が居なくなったことで、本当に破壊神になったんだな」

 健は、悲しむような哀れむような声を出した。

 「感傷は、そのくらいにして突入するぞ」

 「分かっているよ。あんたの方こそ、カウンターの数字と組み込んだっていう装置は大丈夫なんだろうな?」

 「あたしの計算に間違いはない。誰だと思っているんだ? 装置を起動させるぞ。君もカウンターのスイッチを押せ」

 「分かっているよ」

 健の返事を聞いたミルバが、後部座席手前に設置しされているキーボードを手早く操作すると、ブレインポッド全体が、明海が手から出すのと同様の青い光の幕で覆われていった。

 健は、緊張をほぐすように生唾を飲み込み、カウンターのスイッチを押すタイミングで、ブレインポッドを黒い渦の中へ突入させた。

 

 真っ黒だった。

 真っ暗ではなく、真っ黒なのだ。

 隙間無く流動し続ける真っ黒な破壊粒子が、視界をどこまでも黒くしているのである。

 「こんなんじゃ視界もへったくれもないな」

 黒い渦に対する感想を洩らす。

 「だから、カウンターを持たせたんだろ。ハカイオーに到達できるかどうかは君の腕次第だ。正式なパイロットなんだからそのくらいはできるだろ」

 「ムカつく言い方だが、仰る通りだよ」

 健は、操縦倬とフットペダルを動かして、ブレインポッドをハカイオーの居る深部へ向けて降下させていった。

 時間経過に合わせて、カウンターの数字は減っているが、回りの風景が黒一色なので、本当に降下できているのか、実感が湧かなかった。

 後部座席をちら見すると、ミルバは画面を見ながらキーボードを叩いていた。

 装置の調整に集中していて、回りの状況が気にならないのだろう。

 どの位時間が経過したのか、カウンターがゼロになったので、ブレインポッドを停止させる。

 「ここにハカイオーが居るんだよな?」

 後部座席を振り返りながら尋ねる。

 「計算に間違いが無ければ、ここだ」

 キャノピー越しの風景が、相変わらず真っ黒なので、確信は持てなかった。

 「とりあえず、停止させてみるか」

 健は、ハカイオーを止めようと起動ボタンを押した。

 事態は、何一つ変わらなかった。

 「どうして止まらないんだ?」

 それから何回もボタンを押してみたが、何一つ変化はなかった。

 「ブレインポッドからの信号を受け付けてないんだな。大量の破壊粒子が信号を妨害しているんだろう」

 「信号まで妨害するのかよ。なんか他にいい手はないのか?」

 「こうなったら直接信号を送るしかないだろうな」

 「どうやってだよ。そんなことハカイオーの中に入れなきゃ無理だし、こんな状況じゃ、ハッチだって開かないぞ」

 「誰が、ハッチを開けろと言った。ブレインポッドをハカイオーに密着させた状態で停止信号を送るんだ。そうすれば癒しの力が破壊粒子を押し退けて、信号を伝えられるかもしれない」

 「分かった。やってみるぜ」

 「疑わないのかい?」

 「あんたの計算に間違いはないんだろ。だったらやるしかないじゃないか」

 「君もようやく分かってきたじゃないか」

 「まあね」

 返事をした後、ハカイオーに触れるべく、ゆっくりとブレインポッドを動かしていった。

 その最中、ブレインポッドが、爆音と共に大きく揺れた。

 「どうしたんだ?」

 「ブレインポッドの一部が爆発した。機体がオーバーヒートしちまったらしい」

 3Dグラフィックで表示されたダメージデータを見ながら説明する。

 「こうなると時間がないぞ」

 「分かっている」

 返事をしている間にも爆発は何回も起こり、機体をさらに不安定にさせていく。

 その最中、健は微かな赤い光を見付けた。

 「頭の場所が分かったぞ!」

 「どうして分かった?」

 「さっきの爆発の後に一瞬だけ、真っ赤な光を見た。あれは間違いなくハカイオーの目の光だ。このまま近付けば額に押し付けられる筈だ」

 「それなら君に全てを任せるよ」

 「任せろ!」

 ミルバからの全幅の信頼を得たことで、心から焦りが消え、落ち着いた気持ちでハカイオーに近付くことができた。

 「ここだ!」

 目の前にある真っ赤に輝く二つの両目を目掛けて進むと、接触したことを確信させる振動を感じた。

 「止まれ~! ハカイオー~!」

 健は、自身の祈りと気合いを込めて、起動ボタンを押した。

 その直後、ハカイオーの両目から赤い光が消え、両腕が下がると破壊粒子の放出が止まり、少しずつ周辺の黒さが薄れていった。

 「後は残っている破壊粒子を処理するだけって、なんだ?」

 健が、安堵した直後、後方で爆音が聞こえ、それに合わせて青い幕が薄れ始めた。

 「何があったんだ?」

 振り返りながら尋ねる。

 「新装置がオーバーヒートした。破壊粒子はあたしの計算さえ壊すらしい」

 「冗談言っている場合かよ! このままじゃ破壊粒子にやれちまうぞ!」

 言っている間にも破壊粒子に覆われ始めていった。

 「こんなところでやられてたまるか~!」

 健は、がむしゃらに操縦倬を動かして、なんとか破壊粒子の中から出ようとしたが、広範囲に充満しているので、無駄な抵抗であった。

 「やっぱりダメか・・・・」

 健が、完全に諦めかけたその時、突然目の前が青い光で覆われていった。

 「光が戻ったぞ。どうなっているんだ?」

 「予備装置を作動させているんだ。それよりも早くハカイオーのハッチを開けて中に入るんだ。長くはもたないぞ」

 「助かったぜ」

 健は、ブレインポッドからハカイオーを操作して、ハッチを開けて、機体の中に入れた。

 「これで一安心だ」

 「次は破壊粒子の処分だな」

 「分かっている」

 起動ボタンを押すと、ハカイオーの両目のメインカメラを通した映像が、キャノピー越しのモニターに映し出され、コントロールできるようになったと確信した。

 「この感じ、久し振りだな」

 感慨深い言葉を口にした後、操縦倬を握り直して動かしていった。

 健の操縦に合わせて、再度両手を上げたハカイオーは、周辺に漂っている破壊粒子を自身へ吸引し始めた。

 その勢いは凄まじく、地球上だけでなく、宇宙に放出されていた破壊粒子まで吸引していった。

 全てを吸引したことを確認した健は、ハカイオーの腕を降ろさせたのだった。

 「これでもう大丈夫だ」

 事態が治まったことに安堵した健は、操縦倬を握りながら肩の力を抜いて、軽く息を吐いた。

 「それはいいとして、この穴の中からどうやって出るんだい? この深さじゃ防衛隊も回収できないぞ」

 ハカイオーは、自身で作り出した巨大で深い穴の中に居て、入り口は天井に空いた小さな穴くらいにしか見えなかった。

 「その心配ならいらないぜ」

 自信満々に返事をした健は、操縦倬を動かし、ハカイオーの背中から破壊粒子を放出させた。

 その破壊粒子は、周辺に漂うことなく、見えない手に動かされるかのように鳥の翼を形作っていく。

 そうして、完全な形になると固定化して、ハカイオーと同じ漆黒の色をした翼になった。

 それからフットペダルを踏むと漆黒の翼が大きく広がり、それと同時にハカイオーの足は地面からゆっくり離れ、強く踏み込むことでジェット機並みの猛烈なスピードを出して上昇し、一瞬にして穴の中から出たのだった。

 「ハカイオーから見る空の眺めってのもいいもんじゃないか」

 全ての破壊粒子が無くなったことで、本来の青さを取り戻した空の中にハカイオーを停止させたまま、感嘆の言葉を口にする。

 「ミルバ、あんたもなんか言ってくれよ。っ!」

 振り向いて、ミルバの姿を見て絶句した。

 全身から煙を上げるようにして、体が消滅しているからである。

 「いったい、どうしたんだ?」

 「明海君の血から作った血清を体に打って、同じ力がが使えるようになったはいいが、あたしの体には合わなかったらしい。今まで散々薬物実験をしてきた結果だね」

 今にも消えそうだというのに気楽な口調で、症状を説明してたが、声のトーンはとても弱々しいものだった。

 「だったら、そうなる前にやめれば良かっただろうが!」

 「そうしたら、君が死んでしまうじゃないか」

 「なんで、俺の為にそこまでするんだよ」

 気付けば両目には、涙が浮かんでいた。

 「君を好きだったからかな・・・・」

 その言葉を口にした後、これまで見せたことのない穏やかな微笑みと共に完全に消え、後部座席には空になったスーツだけになった。

 「馬鹿野郎。けれど、あんた、大した女だったぜ。ハカイオーを調整して、地球を救ったんだからな」

 キャノピー越しに見える青空に向かって、涙を拭きながら呟いた。

 

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