第12話 研究発表。

 現在のロボット工学の最高権威である南雲京介は、宇宙連合の代表が集まる円卓の中心に立っていた。


 「それでは南雲博士、現状で分かっていることを報告してくれたまえ」

 「分かりました」

 ゾマホ代表の呼び掛けに返事をした京介は、ハカイオーの立体画像を映した。

 「ハカイオーは身長五十八メートル、体重四百五十八トン、駆動係、動力係など全ての面においてわたし達の技術を凌駕しています」

 「それだけのものをたった三人の科学者だけで健造したというのかね?」

 「ロボット工学の最高権威である上風剣十郎かみかぜけんじゅうろう博士とその息子にして肩を並べる頭脳の持ち主の上風譲治君の二人に加え、上風光代さんも分野は違えども優秀な科学者だからこそ健造できたのでしょう」

 「それにしても大きさの割りに軽そうな体重だな」

 「装甲材質が軽いからです」

 「どんな材質が使われているのかな?」

 「鉄です」

 「特殊加工されているのだろ」

 「我々も初めはそう思っていたのですが、調べたところ本当にただの鉄でした」

 「なんの加工もされていない鉄が、どうやって敵のビームを防御しているというんだ?」

 「それはハカイオーの胸部に内蔵されている動力炉の万物破壊装置が生成する破壊粒子の効果です」

 京介の説明に合わせて、映像のハカイオーの胸部に赤い点が表示される。

 「名前並みに相当物騒な名称ばかりだが、具体的にはどんな機能があるのかね?」

 「まず万物破壊装置から説明しますと生成した莫大なエネルギーを機体へ供給しています。ハカイオーの圧倒的なパワーと巨大な敵ロボットを消滅させたビームの威力からも出力の高さがお分かりいただけるでしょう」

 京介の説明の最中、代表達の目の前に表示されたHS《ホログラムスクリーン》が、ハカイオーが胸部から出す極太のビームで、超巨大ロボットを消し飛ばす映像を流した。

 「確かにあれは凄い威力だったな。見ていて驚いたよ」

 「次に破壊粒子に付いて説明します。これは名称通りあらゆるものを破壊する粒子で生物なら少量吸っただけで即死します。これまでの戦闘で爆発性、燃焼性、電導性を持っていることが判明していまして、健君の話ではこれらの特性は、コックピットのレバー操作で切り替えられるそうですが、左右で別々の特性に使い別けることはできないそうです」

 「その攻撃的な物質がどういう仕組みで装甲を強化するんだ?」

 「ハカイオーが停止時と起動時で色が変わるのはご存知ですね」

 「灰色から黒くなるんだよな」

 「黒い箇所が破壊粒子で覆われている部分で、鉄の金属粒子を侵食して装甲強化していると考えられます」

 「なぜ、そんなことをする必要性がある?」

 「まだ研究の段階なので確かなことは言えませんが、おそらく破壊粒子を使用するのに機体を保護する必要性があるからでしょう。毒を持つ生き物が、自身の毒に対する耐性や入れ物を備えるのと同じ原理ですよ」

 身近な生物を例えに出して説明していく。

 「そんなことをしないで初めから特殊な金属を造れば良かったんじゃないか?」

 「これはわたしの推察ですが、資材の問題ではないでしょうか。いくら優秀な科学者であっても月面の廃工場では調達できる資材も限られてきますから、ただの鉄を特殊金属並みに強化できる要素を組み込んだと思われます。この辺りは素粒子の専門家である三代博士が行ったのでしょう。また素材を鉄にすれば修理も容易にできますし」

 「その割に先の戦闘では両手両足共爆発していたじゃないか」

 「おそらく破壊粒子の攻撃性と防護性のバランスが完全に取れていないのでしょう。健君や娘の話しでは剣十郎博士は起動時に粉々になって死んでしまい、その後はパイロットを死なせないようコックピットの防護調整を重点的に行っていたとのことですから」

 「では、ハカイオー自体も未調整ということになるわけだが、君達で完成させられるのかね?」

 「スタッフ一同全力を尽くします。ハカイオーに付いての報告は以上になります。ここまでで何か質問はありますか?」

 「戦闘後、上風健はどうしている? 母親の死を直に見たとのことだが」

 質問したのは、日本首相の毛利一郎だった。

 「わたしもその点を心配していましたが、担当医の話しでは心身共に問題ないそうです」

 「それならいい」

 一郎は納得した。

 「ハカイオーについてはよく分かった。次に鋼鉄兵団に関して報告してくれ」

 ゾマホ代表が、議題を変える。


 「分かりました」

 京介の返事の後、ハカイオーに代わって鋼鉄兵団の偵察機が映し出された。

 「鋼鉄兵団はハカイオーが破片さえ残さず破壊してしまったので、映像からの検証報告となります。これは偵察機と呼ばれていまして大きさはハカイオーとほぼ同じですが、正確にはハカイオーが合わせたのでしょう。出現頻度の高さから鋼鉄兵団では最も多く存在する機種と思われます。この機種の特徴は分解と集合によってサイズや形を自在に変えられることです」

 偵察機のこれまでの映像を見せながら解説する。

 「何故、そんなブロックの玩具みたいなことができるんだ?」

 「おそらく金属粒子レベルで、変形用のプログラムが施されていて、特定の信号によって変異すると考えられます。軍隊蟻が柱や橋を作るようなものでしょう。我々はこれを変異金属と呼んでいます」

 説明を終えると映像が切り替わり、ロレッド、アッサム、バウンドが映し出されていった。

 「この三体は人間サイズの者達が偵察機と合わさることで巨大ロボットになり、姿形や性能が異なる上に偵察機に命令を出していることから鋼鉄兵団の上位種に当たると思われます」

 「何故、階級があるんだ?」

 「昆虫のように種としての統一を図る為でしょう」

 「それでは、映像の上位種よりもさらに上のものが居るということか?」

 「その可能性は十分あります。女王蜂のように頂点に立つ機種が存在するでしょう。また上位種がハカイオーの存在を予め知っていたことから情報のネットワークを構築していると考えられます」

 「つまり、ハカイオーの存在は鋼鉄兵団の親玉に知られているというのか?」

 「はい、それによって地球に来る可能性も十分あります」

 京介の一言に会議室中が大きくざわついた。


 「彼等の目的はいったいなんなんだね。交渉も無しに一方的に攻撃を仕掛けてくることから好戦的な連中なのは分かるが」

 「健君の証言や記録されている上位種の言葉から支配や占領ではなく人間などの生物を弱者とみなした根絶と思われます」

 「根絶か。実に単純で分かりやすいな」

 「そもそも鋼鉄兵団は機械なのか、それとも生物なのか?」

 「これに関しては意見が割れているのですが、今のところ変形する金属で構成された機械集合体としています。生物学者からは”アンチライフ”とも呼ばれています」

 「なんだかややこしいな」

 「研究者としても頭の痛いところです」

 「それで仮に鋼鉄兵団の親玉が来るとしてどのくらいかかるのかな?」

 「位置が特定できていないので分かりません」

 「その間にハカイオーの修理は可能なのかね?」

 「これまで集めたデータを元にスペアパーツを作って試す予定です」

 「強大な力を持っていることは分かったが、やはりハカイオー一機では戦力不足だ。類似品は作れるのか?」

 「作ります。いえ、作れなければ人類は破滅です」

 京介は、重い一言を放った。

 

 地球から遠く離れた宇宙に一つの丸い物体があった。

 その物体は、表面全てが機械で覆われ、呼吸するかのように各所で、点滅を繰り返していた。

 「ロレッドの部隊が全滅いたしました」

 惑星の中枢にある祭壇のような場所で、黒い髪を足首まで伸ばした女性が報告した。

 「敗れたということは、ロレッドが弱かっただけのことだろ」

 最初に返事をしたのは四メートルはある巨人だった。

 「弱い奴のことなんて知ったこっちゃないね~」

 仮面を付けた道化師みたいな格好をした者が、めんどくさそうに言った。

 「どのようなものが倒したのだ?」

 青い鎧兜を着た者が聞いた後、ハカイオーの姿が映し出された。

 「これがロレッドを倒した者か」

 「こいつは、おもしろいね~」

 「我らに近い力だな」

 「いかがなさいますか? 機械王きかいおう様」

 女が、祭壇の奥に居る巨大な影に指示を仰ぐ。

 「ハカイオーが居る星へ進路を向けろ。”復讐”の時だ」

 機械王と呼ばれた巨大な影は、どこか嬉しそうに地球への進路を指示したのだった。

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