第8話 二番手のアッサム。

 「上風健、聞こえるか?」

 バウンドとの戦いに勝利した直後、左手のMT《マルチタトゥー》から聞き覚えのない声による通信が入ってきた。

 「誰からだ?」

 左手を操縦桿から離して、MTが見える位置まで持っていくと、通信傍受と同時に表示されるHS《ホログラムスクリーン》に見知らぬ男が映っていた。

 「あんたは誰だ? その制服から防衛隊の人間ってことは分かるけど」

 「防衛隊、月面支部司令官のウィリアム・ハートだ。それよりもシティの外に別の鋼鉄兵団が居るのは確認できているか?」

 「確認しているよ。今から月面に出て倒しに行こうと思っていたところだ」

 コックピット内にHSで表示しているレーダーを見た上で返事をする。

 「確認しているならすぐに迎撃に向かってくれ。貴様の処罰は戦闘が終了してから決めることにする」

 ウィリアムが、厳しめの声で返事をしてくる。

 「それならハカイオーでも通れそうな出口を教えてくれ。これ以上、アルテミスシティに被害を出したくないんだ」

 「だったら、第六ゲートに向かってくれ。あそこなら今居る場所から一番近いし、ハカイオーでも問題無く通れるはずだ。場所はMTのナビで確認してくれ」

 「分かった」

 健は、MTのナビ機能を使って、ゲートの場所と現在位置からの最短ルートを割り出した後、ハカイオーのスキャン機能を使い、避難シェルターの設置箇所を確認して、そこを避けながら第六ゲートへ向かった。


 指示された第六ゲートに着くと、すでに隔壁は開放されていて、一目見ただけでハカイオーが通れるだけの高さと幅があることが見て取れた。

 ハカイオーを歩かせながら中に入っていくと、通路内は無灯で、暗視機能をオンにして内部状況を確認してみると、中途半端な位置で停止しているクレーンや作業車に搬入用の貨物が散らばっているのが見えた。

 その後、サーモグラフィに切り換えて通路を見回して人が残っていないことを確認し、きっと作業員達は仕事を放り出して、緊急避難したにちがいないと思った。

 通路内の状況を把握し終え、問題無いと判断した健は、フットペダルを強く踏んでハカイオーをおもいっきり走らせ、避けようのない作業車やクレーンなどを焼失させながら前進させていった。

 無人ではあったが、人工空気と重力で満たされている為に、ハカイオーの重い足音が、通路内に響き渡る中、入ってきたゲートが閉じられていった。

 なんだか、退路を絶たれているような気持ちで通路を進んでいくと、06と大きくペイントされた隔壁が見えてきて、近付くのに合わせて重厚な音を立てながら開いていく。

 ゲートが完全に開くのを待っている間、戦いを終えてからずっと感じてきた不可解な気分は増していた。

 レーダーに反応している鋼鉄兵団が、シティ内に居る時からずっと動いていないからだ。

 シティを攻撃する気がないのか、それともハカイオーを待ち伏せしているのかと考えている内に隔壁は完全に開いていた。

 警戒の為にゆっくりと歩きながら外に出て、人工重力から解放された時に感じる独特の浮遊感に全身が包まれた直後、頭上から大量のレーザーが降り注ぎ、隔壁前を爆発で覆い尽くしていった。 

 

 「やっぱり待ち伏せだったか」

 攻撃が止んで、レーザーが発射されてきた方を見ると、宙に浮いたブロックの上にアッサムが立っていて、その周辺を鳥の羽に似たパーツが囲んでいるのだった。

 「あいつ、あんな格好で宇宙に居て平気なのかよ」

 宇宙服を着ないで、宇宙に居られるアッサムを見て、バウンドを見た時以上に驚嘆してしまう。

 「バウンドから送られた映像通りレーザーは効かないか。やはり直に破壊するしかないようだな」

 言い終えたアッサムは、ブロックの内部に入り、上向きの長い突起が付いた頭部、人型で人間の筋肉に似たボディラインをした巨大ロボットになった。

 「さっきの奴とは形も違うんだな。まあ、いいや、さっさと終わらせてやる」

 健は、ハカイオーに両手から炎を放射させた。

 アッサムは、羽パーツを首回りに装着して全身を覆うことで、発生させた光の壁で炎を防いだ。

 「バリアってわけか。これならどうだ?」

 健は、左右の操縦桿を操作して、ハカイオーに全滅している戦車の残骸を拾わせ、黒煙を込めて投げさせた。

 残骸はバリアに接触するなり大爆発を起こしたが、爆煙が晴れると無傷のアッサムが姿を見せた。

 「それなら塵にしてやるぜ!」

 ハカイオーをその場からジャンプさせ、黒光を浴びせようと装甲を展開した右腕を突き出す。

 それを見たアッサムが、分離させた羽パーツをミサイル並みのスピードで飛ばしてくる。

 予想外の攻撃に対して健は、回避行動を取らせることができず、羽パーツの連続突撃をまともに受けてバランスを失ったハカイオーは、月面に叩き落とされてしまった。

 「あれは武器にもなるってのか~」

 健が、ハカイオーを立ち上がらせながらボヤく。

 羽パーツは、ハカイオーを囲むように飛び回りながら溶けるのも構わず、四方八方からの突進攻撃を繰り返してくる。

 「ええい、鬱陶しいんだよ~!」

 健は、ハカイオーを立たせたまま黒煙を放出して、周囲に充満させたところで一気に爆発させて羽パーツを吹き飛ばし、再飛行する前に炎と黒光で破壊していった。

 「これでもうバリアは張れないだろ。っ!」

 羽パーツを失ったアッサムを攻撃しようとハカイオーを身構えさせた時には、すでに目の前に立っていて、右手から出してきた衝撃波を顔面にまともに食らい仰け反らされたところで、腹部に蹴りを入れられて、後方に吹っ飛ばされてしまった。

 猛烈な勢いで月面に機体を叩かれていく最中、追い付いてきてアッサムが再度キックを当てようと突き出してきた右足を右手で掴んで溶かしていく。

 アッサムは、バウンドと同じように自ら右足を切断して溶解を免れると、ハカイオーから離れていった。

 「やはり距離を取らないとダメだな」

 ハカイオーから離れたアッサムは、右足を再生させるだけでなく、体から新しい羽パーツも出していった。

 「再生だけじゃなくてパーツまで作れるのか。鋼鉄兵団ってほんとなんなんだよ」

 健が、鋼鉄兵団の能力に呆れる中、新しい羽パーツはハカイオーの周囲に刺さっていくと先端から紐状の電撃を放出して、機体にまとわり付かせていった。

 「これでハカイオーも動けないだろ」

 アッサムは、得意げに言いながら、その場から動かないハカイオーに向かって。両手から発射する衝撃波を当て続けていく。

 「バウンドがやられるからどんな強者かと思ったが、この程度か」

 楽し気に罵っている中、ハカイオーの両足装甲が花弁状に展開して、内部から猛烈な勢いで放電される黒い電流が、周辺の月面をえぐりながら羽パーツを弾き飛ばしていった。

 「ハカイオーを舐めるな~!」

 健は、ハカイオーをジャンプさせ、黒煙を放出しながら三度目の急接近を試みる。

 「何度やっても同じということを学習できないらしいな」

 両手両足を広げたアッサムが、全身から衝撃波を出してくる。

 健は、機体が吹っ飛ばされる中、ジャンプする前にあらかじめ放出していた黒煙を一斉に爆発させ、その勢いに乗ってアッサムとの距離を縮め、衝撃波を出すよりも前に突き出した両腕から黒い光を放射した。

 アッサムは、すぐに後方へ下がったものの、完全に避け切ることはできず、光を浴びた箇所が崩れていった。

 二体はバランスを崩したまま落下して、月面に叩き付けられていったが、先に立ったハカイオーが両腕から再度黒光を放射すると、アッサムは呼び戻した羽パーツを前面に立てて、盾代わりにすることで防いだ。

 「まだ終わりじゃないぞ! ハカイオー!」

 ドリルのような形に変形したアッサムは、先端にバリアを張った状態で突っ込んできた。

 「最後の悪あがきってわけか。いいぜ。ぶっ潰してやる!」

 ハカイオーを高くジャンプさせて攻撃を回避した後、落下に合わせて突き出した両足から電撃を纏った状態で、上昇してくるアッサムを迎え打つ。

 激突する二体の間で、凄まじい火花が飛び散る中、最初にハカイオーの両足が先端を打ち砕き、その勢いのまま全体を粉砕して月面に着地した後、アッサムは大爆発して跡形もなく吹き飛んだのだった。

 「こいつら後どれだけ居るんだ?」

 戦いを終えて、シートにもたれながら一息付いた健は、宇宙を見上げながら呟いた。 

 

 「アッサムとバウンドがやられたな。再生させる必要はない。あいつらは戦いに破れた弱い者だからな。それよりもあのハカイオーとかいう強者に乗っている弱い者に会ってみたくなった」

 ロレッドは、月を見ながら呟くのだった。

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