第5話 恨みという名の刃。
「そこのロボット、聞こえるか?」
ハカイオーを包囲している防衛隊からの呼び掛けだった。
意図せぬ形で幼い命を奪った後、動かなくなったハカイオーに”殺されない”距離で群がり、携帯機器で写真や動画を撮っている都民やマスコミを退避させ、周囲を完全封鎖した状態で接触を図っているのだ。
包囲網を形成しているのは、大量に導入されたパワードスーツを着た歩兵に戦車やヘリコプターだったが、ハカイオーの前では戦力不足を通り越して無意味にしか見えなかった。
ハカイオーは停止していたが、目は赤く体の色は漆黒のままなど起動状態を維持していたので、足元からは余熱による煙を上げ続け、接地面の焦げ目を広げ続けているのだった。
「交戦する気が無いのなら停戦の意志を示してくれ」
現場の指揮をしている赤いパワードスーツの指揮官が、スーツの外部スピーカーを通して停戦の合図を要求してくる。
「健、早くハカイオーを止めて降りよう」
明海は、健から体を離して呼び掛けた。
「俺が殺したんだ。俺が殺したんだ。俺が殺したんだ。俺が・・・・・」
健は、呼び掛けに応えず、少女を殺したショックからうわ言を繰り返すだけだった。
「健!」
大声で名前を呼びながら、頬をおもいっきりひっぱたいた。
「・・・・・明海?」
健は、ぼんやりした表情で明海の顔を見て、気の抜けた声で名前を呼んだ。
「いつまでもふさぎこんでないで、しっかりして!」
「けど・・・・」
健は、ふさぎこんだ態度を崩そうとしなかった。
「分かった。しっかりしろなんて言わない。だから、今すぐハカイオーから降りよう。いつまでもこんなものに乗っていたら本当に頭がおかしくなっちゃう!」
明海は、泣きそうになるのを堪えながら降機を訴えた。
「・・・・分かった」
健が、起動ボタンを押すと後部のハッチが開き、それに合わせてロックが解除されたブレインポッドを頭部から出して、ハカイオーの前に移動させ、ランディングギアを出しながらゆっくりと足元に着地した。
後頭部のハッチを閉じたハカイオーは、直立の姿勢を取ると頭や肩などが灰色に戻り、目から赤い光が消えると余熱が治まったことで、足元の煙も出なくなった。
ハカイオーと同じく機能を停止したブレインポッドの前には、近付いてきた歩兵達が、一斉に銃を向けていく。
「搭乗者はハッチを開けて両手を上げろ」
指示通りにキャノピーを開けた健が、明海と一緒にシートから立って手を上げる。
ここまで何度も死にそうな目に合ってきた二人には、銃を向けられていることに対する恐怖心は微塵も無かった。
「どうやら人間みたいだな。君達はいったい何者だ? どこの所属だ?」
指揮官が、二人に質問してくる。
「わたし達は、地球在住の学生です」
健の代わりに、明海が返事をした。
「今、確認するからそのままの姿勢で待っていろ」
指揮官が、肩から放射した光を二人の目に当て、網膜確認を行うとマスク内のHD《ヘッドアックディスプレイ》に二人のパーソナルデータが表示された。
「確認が取れた。上風健に南雲明海だな。降りてきたまえ」
二人は、指示通りにブレインポッドから降り、それを見た指揮官は歩兵数名に銃を降ろして身柄を拘束するように命令した。
「我々と一緒に来て話を聞かせてもらおう」
指揮官の言葉に明海は頷いたが、健は無反応であった。
「彼の様子がおかしいが、何かあったのか?」
明海に健の容態を尋ねる。
「すごくショックなことがあったんです」
「そうか、話は本部で聞かせてもらう。二人を連れていけ」
指示を受けた隊員が、二人を連れて行く。
「それにしても、こいつはなんてデカくて幼稚なんだ」
指揮官は、パワードスーツのマスクを外して、肉眼でハカイオーの巨体を仰ぎ見ながら呆れ気味に呟いた。
健は、アルテミスシティの地下にある防衛隊の臨時基地に居た。
シティとは別場所に設けられている防衛隊本部に連行される予定であったが、鋼鉄兵団の攻撃で専用通路が破壊されている上に、損害の大きさから重要参考人を受け入れられなかったのだ。
今のところ犯罪者や危険人物ではなく重要人物扱いなので、手錠はされておらず、入り口に隊員一人を配置した待機室に入れられているだけだった。
ただし、中は狭くて窓も無く、机と椅子二脚が置かれているななど、取り調べ室といっても差し支えなかった。
着ている服は、防衛隊で支給されるYシャツとズボンだった。パイロットスーツは、調査対象として没収され、その代わりに着るように渡されたのだ。
健は、虚ろな目をして口を半開きにしたしまらない顔をして、椅子に座った姿勢のままじっとしていた。
少女を殺したショックから、まだ立ち直ることができていなかったのである。
少しして、ドアのロックが解錠され、スーツを着た金髪男が入ってきた。
「わたしはパトリック・スチュワート、月面防衛隊の取り調べ官で君の聴取を担当する」
パトリックは、自己紹介しながらテーブルを挟んだ向かい側の席に座った。
健は、パトリックに対して、なんの反応も示さなかった。
「君に何があったかは聞いているが、せめて返事くらいしてくれないか?」
パトリックからの問い掛けに対しても、さっきと変わらず無反応だった。
「やっぱりだんまりか。ドクター」
パトリックが、左手に施されている刺青に呼び掛けると白衣を着た白髪男が入ってきた。
「この調子なんだ。一つ頼むよ」
健に手を向けながら指示を出す。
「お任せください」
ドクターと呼ばれた白髪男は、健の側へ行き、目元や表情などをじっくり観察して小さく頷いた後、右手に持っているケースを机に置いて蓋を開け、中から小型拳銃タイプの注射器を取り出し、一言の断りもなく首筋に打った。
「お、俺はいったい?」
健は、さっきまでの虚ろな状態が嘘のように、はっきりとした声を上げ、しっかりした目線で周囲を見回してく。
「もう効いたのか、凄い効き目だな」
健の様子を見たパトリックが、驚きの声を上げる。
「わたしの薬の効果は絶大ですから」
ドクターが、満足そうに言葉を返す。
「ありがとう。もういいよ」
「それでは失礼します」
ドクターは、注射器をしまいケースを閉じると一礼して部屋から出ていった。
「いったい俺に何をしたんだ?」
首筋を撫でながら、自分にした行為に付いて尋ねる。
「君が何も答えてくれないので悪いとは思ったけど薬を投与させてもらったんだよ。安心したまえ。意識を安定させるだけで副作用はないから。さあ、これまでのことについて説明してくれ」
「嫌だ。あんな酷いことは二度と思い出したくない」
健は、ロバートの頼みをはっきりと断った。
「ロバート・スチュワート」
「え?」
「わたしの一人息子の名前だ。聞いたことはあるかい?」
「いや、知らない」
「君とは知り合いじゃなかったんだな」
「いったい、何の話をしているんだ?」
「息子はね、君が居た研修コロニーに居たんだよ」
ロバートの重い一言に、健の胸を嫌な感じでドキリとさせられた。
「わたしと同じアルテミスシティの防衛隊に入るって言ってくれたのに、その日を楽しみにしていたのに、あの子はなんの言葉も残さず死んでしまった。だから頼むよ。この事態を一刻も早く解決させる為に君の知っていることを全部話してくれないか」
ロバートは、両目に涙を浮かべて、今にも泣きそうな声で哀願してきた。
「・・・・・分かったよ」
健は、嫌々ながらも自分が経験したことを話し始めた。
「総理、会議のお時間です。ご着席ください」
秘書官からの通信だった。
「分かった」
返事をした一郎は、紙コップを捨てて、執務室の机に戻って椅子に座り、軽く身だしなみを整えていく。
その直後、部屋の風景は一瞬の暗転と共に倍の広さになり、机は円卓の一部となった。
円卓には一区の空白を除き、様々な人種の人間が座っていて、各人の前には名前と国旗を記した座席表が表示されていた。
彼等は、一郎と同じ各国の首相であり、執務室は特殊スクリーンによって映像回線を共有した宇宙連合の会議場となったのである。
「衛星大臣が来ていないようだが欠席かな?」
アメリカのマイケル首相が、空白箇所を見ながら尋ねた。
「あれだけのことがあったんだ。臨時会議に出席できるわけないだろう」
インドのムトゥー首相が、自身の見解を述べていく。
「ただいま、ラビニア衛星大臣から連絡が入りまして、事後処理にもう少し時間がかかるので、先に始めて欲しいとのことです」
疑問に応えるように会議室に通信が入った。もちろん各国の言語に邦訳された上でのアナウンスである。
「それなら会議を始めよう。ゾマホ首相」
ロシアのアルケイディ首相が、ブラジルの首相を指名した。
「それではこれより宇宙連合政府の臨時会議を始める」
指名されたゾマホ首相が、会議の開始を宣言する。今年はブラジル首相が進行役の番だからだ。
「まずは、巨大ロボット同士の戦闘映像、続いてパイロットの証言映像を見てもらう」
一郎の前にHS《ホログラムスクリーン》が表示され、ハカイオーが鋼鉄兵団を撃破していく映像が流れていく。
全世界に流れた映像を短く分かりやすく編集したものだが、ロボット同士の戦いという非現実的な光景に全く実感が沸かず、一朗の目にはCGを駆使したSF映画にしか見えなかった。
その映像が終了するとロバートを前に証言する健の映像が、その次に明海の証言映像が流れていった。
「映像は以上で終わりだ」
映像終了と同時に首相達は、小さなため息を洩らして憂いの表情を浮かべ、会議室全体が通夜のような重い空気に包まれていった。
今回の未曾有の事態は、全世界に被害者が出ている上に子供の数が多いのだから当然の反応だった。
一郎自身も自国の犠牲者には、胸が傷む思いだった。
そこへ空席だった箇所に机に座っている女性の映像が映し出された。
「会議はどこまで進んだのかしら?」
女性が、会議の進行具合をゾマホ代表に尋ねる。
「丁度、関係者の証言映像を見終わったところだ」
「タイミング的には問題無かったようね」
「どういう意味かね?」
「映像は先に見させてもらっていたから、それが見終わるまで最優先の事後処理をしていたの」
「我々より先に映像を見るとはどういうことかな?」
中国のウォン首相が、苛立ちを現すように語尾を上げる。
「被害を直接受けた者として当然の権利よ。それで地球側の支援はどうなっているのかしら?」
「会議が始まる前に救援物資と救助隊を乗せたシャトルの発進準備を始めさせたよ。それ以外にも避難民の受け入れ準備にボランティアも募る予定だ」
「けっこうよ」
アルテミスシティの首相であるラビニア・オーギュスト衛星大臣は満足そうに返事をした。
「それでは会議を続けよう。証言者はいずれも日本人だが、毛利首相、思い当たることはないかね?」
ゾマホ代表が、一朗に質問してくる。
「今回の事態に我が国の出身者が関わっているのは単なる偶然だ。日本側にはなんの意図もない」
一郎は、事態との関連を速攻で否定した。
「大きく絡んでいるのは日本人だけでなく巨大ロボットもだぞ。巨大ロボットといえば、お台場に等身大の置物を飾るほど君の国のお家芸じゃないか。それでも関係無いと言い切れるのかね?」
「確かに我が国では巨大ロボットは一ジャンルではあるが、それは漫画やアニメといった創作内での話だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうは言うが、ロボット工学の権威を何人も輩出しているじゃないか。ハカイオーとかいう物騒な名前のロボットにもその技術が使われているのではないか?」
各国の首相が、難癖を付けるように次々に追求してくる。
巨大ロボットが関わっているという報告を受けた時点で、このような事態が起こるのを想定して、胃が痛まないよう予め胃腸薬を飲んでおいて正解だったと心から思った。
「ロボット関連の技術者を多く輩出しているが、いずれも土木や工業の分野であって、破壊兵器となるロボットを造ろうなどというバカげた考えを持ったことは一度もない。日本は今でも憲法第九条に従い兵器産業には電子部品以外一切関わっていないんだ。それにかつては非核三原則だって守っていたくらいだぞ」
「その三原則は核ミサイル共々宇宙の果てに葬り去られたがね」
中国のウォン首相が、ここぞとばかりに嫌みを垂れてくる。
「今、配信された資料によればパイロットである上風健は、第二九調査船団の船員を全滅させた上風一家の子供で、南雲明海はロボット工学専門の南雲博士の娘だそうじゃないか。これに付いてはどうかね?」
「当時の資料と関係者の調査、それに合わせて南雲博士の事情聴取を命じるよ」
一郎は、表示されている資料を見ながらやるべきことを明言した。
「それとは別にもう一つ調べることがあるわ」
「何かね、ラビニア衛星大臣」
「証言者二人が話していたリード・イザナミとかいう女性の話よ。内容がほんとなら事前警告を無視していたことになる。脅威を見過ごしたとあっては連合にとって大問題だわ」
「それについては連合全体で調査することにしよう。リード・イザナミは偽名で、どこの国の人間か分からないからな」
ゾマホ首相が、解決案を提示する。
「鋼鉄兵団とかいうロボット集団の対策はどうする? 証言者達の話からすれば今回だけで終わりではないだろ」
「超光学レーダー衛星の配置に防衛ラインの形成と対抗兵器の開発が必要だな」
「被害映像は世界中に流れているから軍備増強に批判的な連中も今回ばかりは黙って賛同するだろう」
「それまでは当面の間、ハカイオーに戦ってもらうしかないか。衛星大臣、ハカイオーはどうしたんだ?」
「いつでも出撃できるように防衛隊本部へ移送したわ。それとハカイオーの運用に関しては今後アルテミスシティに一任させてもらうわよ」
ラビニアは、ハカイオーの所有権を主張した。
「それはいったいどういうことかね?」
「あの超兵器を月だけで独占するつもりか?」
「越権行為もいいところだ」
各首相が、非難の声を上げていく。
「アルテミスシティは、鋼鉄兵団の直接の被害を被っているのよ。また攻めて来た場合の防衛手段として即座に運用できる兵器を所持するのは当然の権利でしょ。それとアルテミス砲の無期限使用も許可してもらうわ」
「いくらなんでも横暴が過ぎるのではないかね」
ゾマホ首相が、怒りを押し隠したように言う。
「横暴? 月が攻撃を受ける可能性が一番高いのだから使えるものを全て使わないでどうするの? 今回のように使えないのでは意味がないわ」
ラビニアの言葉に会議は騒然となった。
飛び交う怒号を聞き流している一郎は、これからのことを考えるだけで頭痛がしてきて、頭痛薬も飲んでおけば良かったと深く後悔した。
健は、まだ部屋に居た。
パトリックに処遇が決まるまで待つように言われてから、なんの音沙汰も無かったからだ。
健は、何も考えないようにしていた。
精神安定剤が効いているせいで、現実逃避もできず、何かを考えようとすれば少女のことを思い出してしまうので、何も考えないようにすることしかできなかったのだ。
さらに時間が経つとドアが開いて、明海が入ってきた。
服装は、防衛隊の女性用Yシャツとスカートだった。
「大丈夫?」
ハカイオーのコックピットに居た時と同じく優しい声で話かけてくる。
「正直、全然大丈夫じゃない。明海は?」
「わたしもあんまり大丈夫じゃないかな」
そう言って笑顔を見せる明海は、若干窶れているように見えた。自分と同じようにショックな出来事を連続体験したのだから無理もない。
「今までどうしてた?」
「ここと同じような部屋で色々聞かれた。健は?」
「同じだ。ただ、気が変になっていたから薬打たれたけど」
注射された首元を刺し示す。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「大丈夫なんだろ。明海とまともに話せるんだし」
健は、薄笑いを浮かべながら返事をした。
「わたしもおかしいのかな。全然涙とか出ないんだ」
「俺達二人して気が狂っているのかもな」
「そうかもね」
二人して、顔を歪ませるような微笑みを浮かべた。
「それにしてもよく会い来られたな。俺、人殺しなのに」
「そんなこと言わないで」
「あの子を殺したからだ」
「健」
「人間一人を殺したんだぜ。それも見知らぬ女の子を一瞬でさ。今で喧嘩して相手に怪我をさせたことはあったけど、そいつらはみんな生きていた。また街で会えば因縁を吹っ掛けられることもあった。だけど、あの子はもう絶対に生き返りはしないんだ」
薬の効能によって健は、すらすらと自分の心情を語ることができた。
「健は、これからどうなるの?」
「さあな、ハカイオーがここにある限りはこのまんまじゃないか? 明海はどうなんだ? 操縦していたわけじゃないから釈放されるんだろ」
「多分、お父様が来たら地球に帰ることになると思う」
明海は、やや申し訳なさそうに話した。
「俺のことなら気にするなよ。防衛隊の言う通りにしていれば殺されやしないだろ」
そこへドアが開いて、カートを押した女性が入ってきた。
「上風健さん、食事を持ってきました」
女性が、ニコやかな微笑みを浮かべながら用件を伝えてくる。
「いらないよ。持って返ってくれ」
「ダメですよ。きちんと食べないと」
女性は、笑顔を見せつつも引き下がろうとしない。
「いらないって言っているだろ」
「健、そんな言い方しないの」
明海が、咎めるように注意する。
「そうですよ。あなたは食べられるだけマシじゃないですか。うちの子はもう食べることはできないんですから」
女性の声色に変化が生じていく。
「うちの子?」
意味が分からず、聞き返した。
「わたしの可愛い一人娘で、あんたが"殺した女の子"よ」
女性は、食事を乗せたトレイの下から硬質プラスチックの包丁を取り出し、カートや机をひっくり返するなり猛烈な勢いで襲いかかってきた。
逃げようとして体勢を崩して椅子から転げ落ちた健に女性が迫る中、明海が二人の間に割って入った。
「こんなこと止めてください」
明海は、苦しそうに訴えた。
包丁を受け止めた両手の間から大量の血を流しているからだ。
「わたしの娘を殺した男を殺して何が悪い! そこをどけ~!」
女性は、鬼のような形相を浮かべて怒鳴り、見た目からは想像もできない腕力で明海を突き飛ばした。
そこへ開いたドアから監視役の隊員が入ってきて女性の両腕を掴み、揉み合いの末に凶器である包丁を奪った。
女性はそれでも止まらず、なおも健に襲いかかろうとして、包丁を投げ捨てた隊員に後ろから羽交い締めにされた。
「ちっきしょ~! 離せぇぇええ~! あいつを殺させろぉぉおおぉぉ~! 娘の仇を取らせろぉぉぉおおおぉぉぉ~!」
女性が、髪を振り乱して、猛獣のように暴れながら喚き散らす中、別の隊員二名が入ってきて、両腕を取り押さえられたところで服の上から麻酔薬を打たれた。
数秒後、眠りについた女性は、隊員二名に抱えられて部屋から連れ出されていった。
「怪我はないか?」
隊員からの問い掛けに対して、明海は無言で血だらけの両手を見せる。
「すぐに医療班を呼ぶからそこに居てくれ」
「どうして、あの人を食事係にしたんですか?」
明海が、当然の疑問を口にする。
「彼女は、本当に防衛隊の配給係なんだ。こちらもさっきの戦闘でまだゴタゴタしていて調べが行き届かなかったんだ。すまない」
隊員は、凶器の包丁を拾った後、申し訳なさそうに部屋から出て行った。
「明海」
部屋の隅で縮こまっている健が、消えそうなほどの小声で呼び掛けてきた。
「なに?」
「殺してくれ」
「は?」
信じられない言葉を耳にして、思わず聞き返す。
「頼むよ。殺してくれよ。もうこんなのやだよ~」
健は、両手で顔を覆い、泣きながら頼んできた。
「わ、わたしに言うんじゃないわよ!」
明海は、大声で怒鳴り返した。
その頃、太陽系に新たな鋼鉄兵団が近付きつつあった。
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