第4話 破滅の業火。
月面に降り立ったハカイオーは頭、胸、肩、手足など機体の半分以上が漆黒に染まり、地下工場に居た時とは別物のような凶悪で禍々しい姿になっていた。
また足元からは黒い煙を上げていた。機体から発せられる強烈な余熱が、月面を焦がしているからだ。
正面には工場を攻撃していた三体のロボットが立っていたが、ハカイオーを見ているだけで攻撃してこなかった。
ハカイオーは、一番近くに居るロボットに顔を向けると前進しながら右手を伸ばし、漆黒の五本指を銀色の胸部に食い込ませた。
胸部に指を入れられたロボットは、内部から沸騰して煙を上げ、抵抗する間もなく飴細工のようにドロドロに溶けていった。
同類が溶かされたのを見たロボットの一体が、筒状に変形させた右手から放出した光刃で斬りかかっていった。
ハカイオーは、左手を伸ばしてロボットの右腕を受け止め、溶かしながら握り潰していく。
光刃を放出したままの右手が月面に落ちていく中、ハカイオーは右腕を大きく振り上げ、手全体を蒼白く輝かせながら垂直に降り下ろして、頭から真っ二つにしていった。
ロボットは、切断面から発火して、全身が蒼い炎に包まれ、破片一つ残らず焼え尽きた。
それから月面に落ちた右手を左足で踏み潰して、完全に焼失させたのだった。
最後の一体は、銃に変形させた左手からビームを撃ったが、ハカイオーは避けず装甲表面で弾きながらゆっくりと近付いて行った。
ロボットは、攻撃を止めると後ろを向いて、背中のバーニアを噴射して飛び上がった。
それを見たハカイオーは、その場から飛び上がって、ロボットの背後に追い付くと蒼く輝せた右足を水平に振り、背中に蹴りを叩き付けて、胴体を真っ二つに切り裂いた。
二分割されたロボットは、ハカイオーの着地と共に空中で爆発した。
敵を全滅させたハカイオーは、頭を動かして周囲を見回して、一定方向に顔を固定すると二足走行を開始した。
走り出したハカイオーは、進むごとにスピードが増していき、猛烈な勢いで月面を駆け抜けていった。
アルテミスシティ、そこは人類の宇宙進出の足掛かりとして、月の表面に建造された大規模な月面都市であったが、今は壊滅の危機に瀕していた。
大挙した鋼鉄兵団の光刃とビームによって都市中が爆発に見舞われ、逃げ場を無くした都民達が一方的に虐殺されていたからである。
駐屯している宇宙連合の月面防衛隊も応戦していたが、鋼鉄兵団の前では無力でしかなかった。
そこへ天井の一部が爆発して、爆炎の中からハカイオーが姿を現わし、重量に見合った轟音を上げながら着地した。
損傷個所が粘着弾で塞がれる中、ハカイオーを目の当たりにした都民達は鋼鉄兵団の新しい仲間が来たと勘違いした。
混乱している状況下で、鋼鉄兵団とハカイオーの区別がつかなかったからである。
鋼鉄兵団は、着地して足元から煙を上げているハカイオーを視認するとあっという間に周囲を取り囲み、距離の近いロボットから右手の光刃で襲いかかってきた。
ハカイオーは、地面を蹴って大きくジャンプして、鋼鉄兵団を飛び越え、都心部から離れた牧草地に着地した。ここには都民が居なかったからである。
大挙し押し寄せてくる鋼鉄兵団を前にハカイオーは動かず、足元からドス黒い黒煙を放出して回りに充満させた後、回転させた右腕を大きく振り上げた。
その動作によって巻き上げられた黒煙は漆黒の竜巻となり、近付いてくるロボット達を猛烈な勢いで吸い上げていった。
吸い込まれたロボット達は、表面に触れた瞬間、次々に爆発していって、竜巻を真紅に染めていくのだった。
右腕を下げたハカイオーは、竜巻が治まるよりも早く前に飛び出し、正面に居るロボットに向かって左手を伸ばし頭を鷲掴みにして地面に押し倒した。
そうして地面に押し付けた状態で鋼鉄兵団に突っ込み、足や背中から黒煙を撒き散らしながら前方のロボット群を弾き飛ばしていく。
そうやって包囲網から抜け出したところで、向きを変えながら掴んでいたロボットを手から離して、右足で踏み潰すと、撒き散らしていた黒煙が一斉に発火して、辺り一面を一瞬にして蒼い火の海に変え、周辺のロボット達を溶かしていったのである。
大多数の損失を被った鋼鉄兵団は、一ヵ所に固まると粘土細工のように形を変え、ハカイオーの十数倍ある巨大な右腕へと変形し、握り拳を作り、後方からジェット噴射を起こして突撃してきた。
ハカイオーは、回避せず両腕を突き出して拳を受け止め、その場に踏み止まりながら右腕を溶かしていく。
右腕は、溶かされながら表面に多数の発射口を出現させ、大量のビームをゼロ距離でハカイオーに浴びせた。
本体にダメージは無かったが、足場にしている地面に無数の爆発が発生したことで、僅かにバランスが崩れた瞬間、右腕は手を開いてハカイオーを捕えると急上昇して、都心部に向かって放り投げた。
ハカイオーは、体勢を立て直すこともまならず、急降下してきた右腕の突撃を受け、道路と激突させられた。
その時の衝撃によって道路が砕けたことで、ハカイオーは右腕と密着したまま地下エリアへ落ちていき、その先にある月面に直接敷かれた最下層の基礎に叩き付けられた。
ハカイオーが、全身から黒煙を放出すると右腕はドリルのように高速回転することで全て吹き飛ばし、それによって手や胸といった密着している部分からは凄まじい火花が上がった。
黒煙の放出を止めたハカイオーは、両腕全体を蒼く輝かせて、手の平から蒼い炎を凄まじい勢いで放射し、強烈な火力によって外装をあっという間に溶かし、原型が分からなくなるほど形を崩していく中、右腕は耐え切れなくなったように大爆発したのだった。
煙が晴れ、大勢の都民が見ている中、自身と右腕によって作られた大穴から飛び出てきたハカイオーは、傷一つ無く両手を広げた状態で首だけ動かしていた。
その得物を探す獣のような動作によって、鋼鉄兵団以上に都民達を恐怖で震え上がらせていた。
「奴等は、奴等はどこだ? どこだ~?!」
健は、レバーを強く握ったまま、ハカイオーと同じように首を動かしながら敵を探していた。
「健、もう終わったのよ」
後部座席に座っている明海が、静かな声で呼びかけた。
「奴等は、敵は居ないのか?」
健は、明海の声を無視するように敵を求め続けた。
「健!」
コックピットの前に回った明海は、健の両肩を掴んで強く呼びかけた。
「あ、明海?」
健は、驚いたように明海を見ながら名前を呼んだ。
「そうよ。明海よ」
「鋼鉄兵団は?」
「全部やっつけたわ。終わったのよ」
「そうか、終わったんだ。良かった」
正気を取り戻した目で改めて画面を見た健は、敵が全滅したのを確認したことで、戦いが終わったことを実感して、肩の力を抜きながらゆっくりとシートにもたれた。
「俺は、これからどうすればいいんだ?」
「健、あそこ」
明海の指さす先には、破損したビルに取り残され、今にも足場が崩れそうな場所で動けずにいる少女が映っていた。
「あのままじゃ危ないわ」
「そうだな」
健は、ハカイオーをビルに急行させた。
その最中、足場が崩れ、少女は落下した。
「間に合え!」
ハカイオーを走らせながら体勢を低くして右手を伸ばし、少女の真下に添えた。
少女は、計算通り右手に落ちたが、体が漆黒の手の平に触れた瞬間、燃え上がって真っ黒な消し炭になった。
ハカイオーの強力な余熱が、少女を焼いてしまったのである。
「俺は・・・俺は・・・・うわ~!」
健は、自分の取った行動によって人間の命を奪ったことに耐え切れず、両手で頭を抱えながら発狂した。
「大丈夫。大丈夫よ」
明海は、健を胸に抱きながら優しく言葉をかけた。
しかし、自分のしたことを受け入れられない健は、明海の声も暖かさも柔らかさも全く伝わっていなかった。
ハカイオーは、パイロットの狂乱に一切反応することなく、少女の命を奪った姿のまま止まっていた。
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