夏合宿最終日

「おいおい、何自分への高揚感にしてんだよ。山本への高揚感、いや、恋心だろ、それは。」

「それはないな。山本厳しいし。」

「素直になれよ、吉川。恋は素敵な事だぜ。」

「それは置いといて山崎お前って野球バカだなー、ってずっと思ってたけど、凄い奴だったんだな。」

「おいおい、それじゃ褒めてんのか貶してんのか分からんぞ。ただ確かに自分が諦めたり限界を設定した時点で成長は絶対に遅くなる。俺は野球をしてる自分を信じてるんだ、常に。俺はもっと出来る、もっと上手くなれるってな。」

「なんかいつになくかっこいいな、山崎。」

「お前もかっこよくなって山本に惚れられろよ、吉川。」

いつも通り意味不明な山崎の最後の言葉はスルーする。


合宿最終日

最終日となるとなんだか寂しい感じもするがそんな余韻に浸る余裕はまるでなかった。これまでに蓄積した疲労を考慮することない昨日同様の朝練。ただ昨日との違いは自分が諦めずに必死に食らいついていっていることである。不思議なのは昨日よりも肉体的には厳しい条件であるのに昨日出来なかった事をクリア出来ていることである。気合いと根性って存在するんだと思い知る。

私はダンスで変わった。うん、リアル進研ゼミだな、これ。

朝練を気合いで乗り切り、昼休憩を挟んでいよいよ合宿最後の練習である。

「いよいよ、最後です。みんな気合い入れていきましょう!ラストは踊り込みと学年ごとの発表です。でもその前に昨日の1.2倍のメニューをこなします。さぁ張り切っていこー!」

佐伯先輩の一言に全員がざわめきだす。ついに先輩達までざわめきだす。

「あのー、それ踊り込みの時間取れるの?」

「うん、昨日と同じ早さでこなせば十分な時間が取れるよ。」

「あのー、でも昨日の1.2倍のメニューなんですよね?」

「そうそう、つべこべ言ってないでやらないと本当に踊り込みの時間が取れなくなるよー!」

「信じらんない!同期として恥ずかしいし、後輩に申し訳ないわ!」

優子先輩がついに怒り出す。

「あれ?ゆうちゃんオコですね。じゃあ昨日と同じメニューやる?最後なのに。」

佐伯先輩が応じる。

「あんた良い性格してるわよね。分かったわよ。1.2倍やるわよ!でも後輩達に示しがつかないからあんたは絶対にサボらないでよ!」

「当然、なんてたって僕サークルの代表だし。でもゆうちゃんの言う事も一理あるから、後輩の諸君らは死ぬと思ったら休むように、3年生は死んでもやりきるよー。」

なんかチャラいぞ佐伯先輩。あまりの出来事に全く関係ないことを考えている。でも運動部メンタルを手にした私は妙に燃えていた。あまりのキツさに何度も心が折れそうになりながらも自分を鼓舞し、先輩に励まされ、山本に檄を飛ばされ、これが最後、これがラストなんだと必死に食らいついていく。

「はいっ!おっけー!昨日よりさすがに時間はかかったけど、みんなよく諦めずについてきましたー。自分が下級生だったら絶対諦めてるメニューにしたのにみんなやりますねー!」

あんた本当に性悪だな!佐伯先輩を除く全員がおそらくそう思ったことだろう。

「じゃあ休憩したら今までやった振付簡単に確認して、曲流すんで自分のタイミングで踊っていって下さいー。最後にそれぞれ発表してもらうから、それまでにみんな踊れるようにしといてね。」

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