夏合宿初日

「体育會野球部の合宿ってすげーんだ。高校野球の合宿が一番辛いと思ってたけど、金があるから期間が長いし、設備が整ってるから永遠に練習が出来るんだ。休みたくてもレギュラーの先輩がやってたら休めないだろ?」

真っ黒になった山崎が言う。

「ダンスサークルの合宿もすごかったよ。正直合宿なんて踊った後は飲んで花火してって思ってたらひたすら練習だったよ。」

「嘘つけ、お前。焼けてないじゃねーか。」

なぜ焼けてるか焼けてないかで合宿の大変さを判断出来ると思っているのか山崎の不思議な固定観念はスルーすることとする。


合宿という響きは、運動部ではなかった私に取っては無縁なものだった。合宿という響きに淡い期待とワクワクを胸にバスに乗り込む。

「じゃあ宿舎に荷物置いて着替えたらすぐに練習場に集合なー。20分以内には頼むぞー。」

初日は午前中は移動に費やし、午後からの練習である。

「よーし、じゃあまずはバスで固まった身体を温めるたむに軽くランニング、終わったら筋トレなー」

ふーん、ちゃんと運動部っぽいことやるんだなー。まぁちょっとやったら踊って、飲み会かなー。そんな甘い考えは初日にして叩き直されることになった。

ランニング3km

腕立て伏せ30回

腹筋100回

背筋60回

キ、キツイ‥

体幹トレーニング3分×3セット

馬跳び50回

ボクササイズ3分×3ラウンド

し、しんどい‥‥

休憩

ストレッチ

基礎練

技練

む、無理だ‥早く練習終われー

「よーし、初回は軽めにこれくらいにしておくか、じゃあ軽く水飲んだら公演で使う振りやります!」

あれ?まだ終わらないのか。むしろこれから始まるのか‥

慣れない振付にいつも通りついていけないが、これまでの練習の疲労感で心身共にいっぱいいっぱいでいつにも増して覚えられない。あー添島先輩はもう踊れてるなー。

そんな事をぼんやりと考えているうちに初回練習は終了した。

夕飯は食べようにも疲れ過ぎていて入らない。気持ち悪い‥

「何?食べないの?体調悪い?」

同期の中でも割と喋る山本が突然話しかけてくる。

「あんなに動いた後じゃ食べられないよ」

「情けないわね、あんた。食べないと夜練で動けなくなるわよ。」

「食べたら夜練で吐きそうだよ。って夜練なんてあるの!?」

「当たり前じゃない。あんた送られてきたスケジュール見てない?今日は20時から夜練だよ。」

「うそー、あと90分しかないじゃん。ますます食欲なくなったよ」

「つべこべ言わず食べなさい!じゃあね」

鬼の山本誕生の瞬間であった。

夜練が始まると身体は重かったがストレッチと基礎練を序盤にやり、メインは振付だったので意外とついていくことが出来た。もちろんベースがついていけてないのでいつも通りだったということであるが。

「あんた、ご飯も食べんと頑張ってるじゃない」

山崎にしろ山本にしろ名字に山が付く人間はどうして私を馬鹿にしてくるのか。

「いや、結局夕飯は食べたよ。山本こそ頑張ってるじゃないか。」

女性はジャズダンスはやった事はなくても何かしらのダンス経験者が多い。そんな中で山本は少数派の未経験者だったのである。そういう意味でも山本とは話しやすかった。

「合宿がこんな大変だとは思わなかったけど、こんだけ練習させてもらえる事に感謝して経験者のみんなに早く追い付かなきゃ!」

山本はポジティブである、というか大人である。元々運動部に属していただけあって泣き言を聞いたことがない。

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