7月

「なぁ、お前公演いつ出るの?」

「9月、ただ俺全然踊れるようにならないし、恥ずかしいから見に来なくて良いよ。」

「俺はお前を笑いに行きたいんだから需要と供給は一致してるぜ。」

「あ、でも添島先輩は見て欲しいかも。あの人は凄いんだ。」

「最近お前の中で流行語だよな、『添島先輩』って。」

「うーん、なんていうか憧れるんだ。」

「ふーん、妙に素直だな。俺は大谷に憧れてるぜ。」


7月も中頃を迎え、練習しているとすぐに汗だくになる季節がやってきた。最近はコマ練で一緒の添島先輩に教えを乞う機会を増やしている。

「添島先輩は何でそんなに上手なんですか?」

「いや、全然上手くはないよ。今日だってついていくので精一杯だったし。でも一年生の頃は毎日練習してたなぁ。やっぱり繰り返しやらないと覚えないし、自分の動きを客観的に捉えられないからね。でも一人で闇雲にやっても間違った動きで覚えちゃうかもしれないし、自分の中で正解と思える動きを動画にでも収めておいて、極力その動きに近づくようにひたすら練習するのみだよ。」

「先輩、動画撮らせてもらって良いですか?」

「ハハ、僕の事を正解だと思ってくれたのはありがたいけど、振付者は僕じゃないんだ。振付者にお願いするべきだよ。」

「なるほど‥」

「それとこれはあくまでイメージだけど、肩甲骨から手が生えていて、腰から足が生えているイメージを持って手足を長く大きく使うように常に意識をするんだ。これは基礎練を反復して身に付けていくしかないと僕は思ってるから、一年生の頃から基礎練はずっと時間を掛けて丁寧にやってるよ。」

「基礎練って苦手なんですよね。身体固いし‥。」

「そりゃ誰でも始めは苦手さ!僕もまだまだ出来るようになったとは言えないけど、なんとなく感覚を掴んできたのは二年生になってからだよ。」

「勉強になります。頑張ります。」

「ありがとう、頑張って。でも頭の中で難しく考えないで自分なりの表現を探すのはダンスの面白さなんじゃないかな?」

「うーん、深いですね。コピーしなきゃいけないけどただコピーしてもつまらない。まぁ俺はそれ以前の問題ですけど。」

「まぁ語っても上手くはならないし、何かポイントを作ってそれを常に意識して、漫然とやらないのは成長につながると思うよ。頑張って。」

先輩の一挙手一投足を見逃すまいとがむしゃらに追っかけていたが、なかなか自分自身には還元されなかった。

やっぱり才能がない運動オンチじゃ添島先輩のようにはなれないのかなぁ‥

理想と現実のあまりにも大きな隔たりに挫けそうになっている時にあるイベントの告知がされた。

「今年もいよいよ来ました、このシーズン、夏合宿です!」

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