5・6月
「なぁ、お前本当に踊ってるのか?」
いつものように山崎がけしかけてくる。
「うーん、踊ってるような踊れてないような。少なくともサークルは続けてるよ。」
「なんだそりゃ。じゃあ頭でクルクル回ったり出来んのか?」
「それはブレイクダンスで俺がやってるのはジャズダンスだからそういうのはやらないんだよ」
「おっ、一丁前にそれっぽいこと言ってるじゃねぇか?じゃあジャズで踊ってんのか?目指せお洒落男子ってか?」
「ジャズダンスって言ってもジャズで踊るわけじゃないから。むしろジャズで踊ることなんてなくて、よくある邦楽とか洋楽で踊ってるよ」
「ふーん、じゃあなんでジャズダンスなんだ?」
「‥‥‥」
「おいおい、知らずにジャズダンス踊ってんのかよ。いや、踊ってるかは分かんないんだっけか?」
山崎が嘲る。いつもの事だから別に怒る事はないが、由来も知らない事が妙に恥ずかしかった。親にも他の知り合いにもしたり顔でジャズダンスっていってもジャズで踊るわけしゃないんだ。って言っていた自分を殴りたくなる。
「今度調べとくよ」
「あぁ、俺は別に知りたくないけど、自分がやってる事くらいちゃんと知っておいた方が良いぜ」
「じゃあなんで野球っていうんだ?」
「‥‥‥野で球を使うからだろ」
「そしたらサッカーもゴルフもそうだろ」
「野球がきっと一番早かったんだろうな。命名優先権獲得!よ」
「知らないんだね」
「うるせー、俺は野球を愛してるから良いんだよ」
めちゃくちゃな理屈でまとめる山崎は放っておくことにした。
6月が近付いてきたある日、
「ついに募集要綱が出来ました!みんなどんどん出て盛り上げていって下さい!じゃあ配りまーす。」
先輩達が異様な盛り上がりを見せる中、私の青春が始まったのである。
私はよく分からないまま流れで4曲出演する事になっていた。週2回の普段のサークル全体の練習に加えて、週2回程度の出演曲の練習(コマ練というらしい)が入り、一気に普段の倍以上の時間をダンスに費やすことになっていった。しかし不思議と嫌な気持ちにならなかった。運動部に入るといつも理不尽なまでの走り込みと筋トレ、音を上げたら怒られ、ついていけなければ叩かれ、実力がつき過ぎるといびられる。そんな私の知っている運動部とは異なり、和気藹々とした、悪く言えばぬるい空気の、練習の日々を過ごし、正直振付は覚えられないし、身体は疲れてきているし、自身の成長を実感する事が出来ない中で一つの発見があった。
サークルの中で素人に毛が生えた程度の私から見ても突出してうまいと感じる先輩の存在に気付いた。今まで周りに目を配る余裕もなかったし、その先輩は幹部と言われるサークルを仕切って面倒を見てくれるグループには属していなかったため気付かなかった。
添島先輩である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます