第36話

第三十六話「仕事」


 春のうららかな日曜日、猫のバトラーと犬のメイディは公園のベンチで昼寝をしていた。バトラーは何かの気配に気づいた。イラムとヒカジの誕生はまだ先だし、この世界で生き残った空っぽのブレイノイドたちが彼らに近づいてきたことはない。

「メイ、誰かいるよ」とバトラーは寝ぼけてメイディに言った。

 メイディは目を開けて周りを見た。「あ! ジイサン」

 隣のベンチにじいさんが立っていた。

 メイディの声にバトラーも飛び起きて言った。「ジイサン、どこにいたの?」

「よしよし、元気じゃったか?」とじいさんは二匹を愛おしくなでながら言った。

「ジイサン、色白の子どもと巨人を見なかった?」とバトラーが尋ねた。

「子どもはゴースト、巨人はゼットって言うの」、メイディが付け足した。

「ゴースト? 幽霊がいるのか?」、ジイサンは尋ねた。

「本当の名前はゼロっていうのかもしれない。ゼットが言ってた」、バトラーが言った。

「ゼロは万物の始まりを示し、ゼットは文明の終わりを表すのじゃ」、じいさんは答えた。

「ゼロは人間のご先祖さん?」、バトラーが言った

「ゼットは人間の子孫?」、メイディが言った。

「ほほう、お前さんたち頭がいいのー」とじいさんは二匹をほめた。

「じいさんはあの二人を知ってるの?」とバトラーは尋ねた。

「ご先祖さまと子孫なら知っているかもしれんな」、じいさんが言った。

「ぼく、あの二人、大好き!」

「私も、大好き!」

「先祖を大切にすることは大事なことじゃ。お前さんたちをいつも見守っとるはずじゃ」

「また、いつか会えるかなー」とメイディは言った。

「会えるかなー」とバトラーも言った。

「ところで、お前さんたちに、大事な仕事があるんじゃがのー」

「ぼくたちに?」

「私たち、何をするの?」

「人を助けるんじゃ」

「またここに戻ってこれる?」とバトラーが尋ねた。

「イラムとヒカジを待たなきゃいけないの」とメイディが言った。

「別の場所で会うことになるんじゃがなー」とじいさんが言った。

「ならいいや。ぼく、ジイサンのお仕事、手伝うよ」

「私も、手伝う」

「そうかね。手伝ってくれるのか。お前さんたちはいい子じゃのー」

「うん!」とバトラーはうなずいた。

「えへへ」とメイディは照れた。

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