第35話

第三十五話「誕生」


「あと十二時間で目覚めます」、オカチマチがゼロに報告した。

「適応するのかね」、ゼロはオカチマチに尋ねた。

「はい、彼は適応能力テストに合格し、すべての夢を見終えました」

「ご苦労だった」

「これで人類は救われるのですね」

「オカチマチ君、人類を救うために彼を誕生させたのではない。地球を救うだめだ」とゼロは言った。

「ところでゼットはどこへ行った?」、ゼロはオカチマチに尋ねた。

「わかりません。この施設にはいないようですが」、オカチマチは答えた。

「また、別の次元に落ちたのだな。まったく、仕方のない奴だ」、とゼロは愚痴をこぼした。

「あなたはゼットをいつも気にかけているのですね」

「私には心が無く、ゼットには知能がない。私は彼に道理を教え、私は彼から心を学ぶ。私が人間らしくいられるのは、彼のおかげなんだよ」

「彼が目覚めたら、私もあなたたちも不要になりますが……」

「そうだな。それは彼が、というよりも、新しい人間たち自身が地球に生きる生命として、どう影響するのかによる」

「はい。確かにこれまで人間は地球にとって悪影響しか及ぼさなかった」

「しばらくは様子を見るしかない」

「私には生命の限界があります」

「うん、仕方のないことだ。しかし、それは幸せなことでもある」

「あなたのように、無限に命をつなげられたら」

「無限の命など、むなしいばかりだ。君ひとりに地球の未来を背負わせるわけにはいかん」

「たとえば、無限の命を得たとしても、あなたとゼットがいます。ひとりではありません」

「無限の命を得る方法があるのかね」

「はい、ひとつだけ」

「家族として、君に忠告しておく。その方法は永遠に葬りさるべきだ。もう一度言う。それを使ってはならん」、ゼロはオカチマチに強い口調で言った。

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