第27話
第二十七話「バンダナ」
伊良夢はバンダナをつれて公園に来た。ヒカリはベンチで座って待っていた。
「連れてきたぞ」、伊良夢はバンダナの頭をなでながら言った。
ヒカリはポケットから赤いボタンを出し、伊良夢の制服の襟元につけた。
「なんだこれ? おそろいなんて恥ずかしいよ」、伊良夢はヒカリの胸についた同じ赤いボタンを見て言った。
ヒカリとバンダナはお互いに目を見つめ合って大きくうなずいた。伊良夢はヒカリの隣に座り、バンダナは伊良夢の前の地面に座った。
「まず、何から話そうかしら」、ヒカリは言った。
「なんでもどうぞ。話したいことは全部話すんだ」と伊良夢は言った。
「じゃ、まず、そのボタンのスイッチを押して」
「ん? これ? 音楽でも流れるのか?」、伊良夢はボタンを押した。「ならないぞ? 壊れてるのか?」
「伊良夢、驚かないでね。私、バンダナよ」
伊良夢は聞いたことがあるような、なぜか懐かしい声を聞いた。一瞬、何が起こったのかわからず、ヒカリとバンダナの顔を交互に見比べた。
「ん? バンダナ? 今、お前がしゃべったのか?」
「そうよ。伊良夢、このボタンが人間の言葉に翻訳しているの」、犬のバンダナが喋り始めた。。
「なんだって? そんなバカな。どういう仕掛けになってるんだ?」
「伊良夢君、本当にバンダナさんが話しているのよ」
「伊良夢、これはオカチマチ博士が作ったものよ。それなら信じられるでしょ」、バンダナが言った。
「伯父さんが? すごい! そんなのがあるんなら、なんでもっと早くにくれなかったんだ」、伊良夢は伯父のオカチマチ博士を誰よりも信頼していた。「ちょっとしゃべってみて」
「信用してくれるのね」、バンダナが言った。
「バンダナ! ほんとにお前がしゃべってるんだ! すごいぞ!」、伊良夢は興奮していた。
「今から話すことは全て真実なの。あなたが知らない世界があるのよ」、バンダナが話し始めた。
「さっき、ヒカリが言ってたことか?」、伊良夢はヒカリを見た。
「そうよ」、ヒカリはうなずいた。
「僕が猫で、ヒカリが幽霊で、ってこと?」、伊良夢は尋ねた。
「幽霊じゃなくて、ゾンビね」、ヒカリは訂正した。
「私たち三人はこことは違う次元の世界で出会ったの。まず、私とあなた。あなたは猫の姿だったわ」
「うんうん、おもしろそうな話だな」、伊良夢は楽しそうに聞いていた。
「ふざけないでね!」、ヒカリは伊良夢に注意した。
「ヒカリ、大丈夫よ。伊良夢は矛盾が解決すれば信じてくれるのよ」、バンダナはヒカリに伝えた。
「納得できれば、信じるさ!」と伊良夢は言った。
バンダナは続けた。「ちょうど、この場所、この公園のこのベンチで、あなたは寝ていたの。違う次元の世界だけどね。同じ風景の違う次元の世界がいくつもあるの。そこには同じ形の違う人間がいるの。普通の人間は違う次元には行けない。私は以前、人間だったの。猫のあなたもそう言ってたわ。朝、起きたら猫になってたって。ムタチオンと言って、突然変異なの。ムタチオンは動物や別の生き物に変異して別の次元に現れるのよ」、バンダナは語った。
「私にもまだ知らないことがありそうだわ」とヒカリが言った。
「僕たち三人ともムタチオンってことだね」、伊良夢はバンダナの話を受け入れ始めた。
「そうよ」とバンダナはうなずいた。「私とあなたはこのベンチでいつもお昼寝してたの。そこにミスターピカソが現れた。つまり、ここの次元世界のあなたのお父さんね」
「父さん? 父さんもムタチオンなのか?」
「ミスターピカソのことは謎が多いの。私たちもわからないわ。でも、彼が全てを導いているみたい」とバンダナは言った。
「それで?」と伊良夢はバンダナの話に興味を持ち始めた。
「彼が宿無しの猫と犬の私たちを引き取ったの。彼といろんな体験をしたわ。陶芸家のもとで奇跡の器を作ったり、小さな田舎の映画館で古いフィルムを見つけたり。その映画館は立て直されたわ」
「伊良夢君、ほら、あの絵のことよ」とヒカリは興奮して言った。
「研究所で見た絵、あれのことか!」
「そう、あの絵をもとに新しい映画館を作ったの。素敵な映画館だったのよ」
「そっか、僕は以前、父さんと暮らしていたんだ」
「そうよ。ミスターピカソは私にとってもパパなのよ」とバンダナは言った。
「ヒカリとはどこで出会うの?」と伊良夢はヒカリに尋ねた。
「それが、私にはゾンビのころの記憶がないの」とヒカリは言った。
「変異すると、以前の記憶を失うのよ。私は猫のあなたに聞いてるわ。ヒカリとは未来世界で出会ったのよ。ヒカリは誤って裏次元の未来世界に落ちたの。猫のあなたも偶然その世界に落ちて、裏次元の世界からヒカリを救ったのよ」
「あら、伊良夢君って、私の命の恩人だったのね」とヒカリは笑顔で言った。
「知らなかったのか?」と伊良夢は偉そうな素ぶりで言った。
「あなたはオカチマチ博士も救ったのよ」、バンダナは言った。
「伯父さん?」
「博士ともここで出会ったの。初めは神経質で自閉気味な天才だったわ。猫のあなたと出会って、人間不信を克服したのよ」
「んー? 他人だった人がどうして伯父になるんだ?」、伊良夢の疑問が膨らみ始めた。
「正直言って、わからないの。たぶんそれもミスターピカソが仕掛けたんだと思うの」
「何か、運命的なものがあるのかしら?」、ヒカリが言った。
「ゼロのことを話さないといけないわね。ゼロはミスターピカソの祖父」
「僕のひいじいちゃんってこと?」
「そうね。実質的にはそうなるわ。次元の異なる世界だから、血のつながりはあるのかわからないけど」
「複雑なんだな」と伊良夢は顔をしかめた。
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