垂直落下式ブレーンバスター
そもそも思い出の女性に会いに行く、といっても今現在彼女がどこでどうしているのか、僕は知らない。
ラブストーリーなら、ここで、彼女の消息を知る人が現れたり、再会が待っているイベントに出席したりするけど、僕の場合は、単純にインターネットで彼女の名前を検索してみた。
久保田詩織、で検索すると、FacebookやTwitterでその名前を使っている人は出てくるが、どれも僕の知っている彼女ではなかった。まあ、珍しい苗字や名前ではないから、そう簡単にたどり着くのは難しいかも。
それに、結婚して苗字が変わったという可能性も無きにしも非ずなので、僕が考えているほど簡単に再会できることではないのかもしれない。
しかも、同級生ならともかく、相手は2つ上の先輩だ。高校生時代、同級生以外に特に交流があったわけでもなかった僕にとっては、同じ高校だという以外に手掛かりはなく、彼女と再会するというミッションはいきなり手詰まりになってしまった。
「どうしたの? あまり顔色がよくないみたいだけど。実験の影響かしら?」
そう話しかけてきたのは、今回のプロジェクトのリーダーの久保田沙織さん。
ん? 久保田沙織? 実験を行うまではなんとも思わないでスルーしていたけど、久保田詩織と一文字違いということはひょっとして…。
「あの、ちょっと変なことを聞きますが、久保田さんって、妹さんとかいたりします?」
思い切って聞いてみた。
「います。詩織って妹が。…正確には、いた、というべきかしら」
え? いた? ということは…あっ!
僕はある仮定を思い浮かべた。このプロジェクトは、過去のトラウマなどを、記憶を書き換えることによって克服するというものだ。もし、沙織さんに妹がいて、それが何らかの事情で亡くなり、その悲しみを癒すためにこのプロジェクトを立ち上げたのだとしたら……。
それはあくまでも仮定にすぎず、単に同姓同名で、僕のあこがれの先輩とは別人という可能性だってあるし…。
僕が頭の中でさまざまな可能性を考えていると、沙織さんは続けて言った。
「詩織ね、うちの両親と折り合い悪い子で、高校卒業と同時に家出同然で飛び出しちゃって、今何してるかわかんないのよね」
「そうなんですか…」
これは喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、少なくとも詩織さんは生きている(はず)。でも、連絡のとりようがない。とはいえ、実のお姉さんがこんな近くにいたことで、可能性は広がったと思うべきか。
あと、お姉さんの沙織さんは、詩織さんと違って背は高くない。
スマホいっこぶん 純 天晶 @jun10show
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