賭博黙示録 カノジョ

「ここまで来たら、私が責任をもって、この戦いを仕切らせてもらうわ」

 ケイさんがなぜかノリノリで、勝負のセッティングをしてくれるというので、自分の中では色々ツッコミたいところはあるのだが、とりあえず流れにまかせて、彼女が納得するまでやりきることにした。

「勝負の方法は……そうね。せっかく占いにきているんだから、タロットカードをつかったじゃんけんにしましょう」

 ケイさんは、占いの時に使うタロットカードを持ってきて、そこから何枚か抜き出して、僕と彼女に5枚ずつ手渡した。自分のカードを見ると、そこにはタロットカードの剣のカードが1から3と、クイーンとキングのカードの合わせて5枚あった。

「それぞれ、5枚ずつ、カードを配らせてもらったわ。カードには1から3までの数字が振られているのわかると思うけど、単純に数字の大きい方が強いの。そして、キングとクイーンは、すべての数字のカードに勝つわ。ただし、クイーンとキングではクイーンの方が強いの。ここ重要なポイントね。お互い、1枚ずつ出して、数字の大きかった方か絵札が勝ち、またはキングかクイーンで強い方を出した方が勝ち、というシンプルなルールよ。そして、最終的に、勝った数が多い方がこのゲームの勝者というわけ。どう?」

 どう? と言われても…。ルールはわかりやすくていいけど、最終的に彼女が納得するような結果になるのかどうか。

 気が付くと僕たちの周囲にはたくさんのギャラリーが集まっていて、何やら言っているのが聞こえてきた。

「むう…あれは、孫鐸遊戯譜愛武(そんたくゆうぎふぁいぶ)」

「知っているのか、雷電?」

「うむ…」

 なにか民明書房がどうこういう声が聞こえる。このゲームでは、相手の気持ちを推し量ることが重要になることから、このゲームが「忖度」という言葉の語源になったとかなんとか。

 あと、15センチ関係なくないかという、なんだかよくわからない声もあった。

 まあ、そんな外野の声に耳を傾けていてもしょうがないので、このゲームで勝つ方法について考えてみた。

 数字に関しては、そのままだからいいけど、クイーンとキングの存在がちょっとややこしい。数字にはどっちも勝てるけど、クイーンとキング同士なら、クイーンのほうが勝つ…このへんは女性の方が立場が上、ということを表しているんだろうな。

 そうなると、あきらかに弱い1とか2のカードをいかに絵札にぶつけるかが重要になるわけか。絵札に必ず負けるなら、数字対決の時に強いカードを残しておきたいから、1とか2の弱いカードを使って、あえて絵札にぶつける…いやいや、5枚だから3勝すれば勝ちだし、そう考えると、1敗がかなりの重みになるか。

 あれこれ考えすぎて混乱してきたが、とにかくやるしかない。

「それじゃ、いくわよ。それぞれ1枚目を場に出して」

 いつのまにか用意されていた、椅子とテーブルに向かい合わせに座った僕は、1枚目のカードをどれにするかを考えるのにかなり時間がかかってしまった。

 僕が提出した1枚目は…「1」だ。最弱のカードだから、どういう状況で出しても負ける。だからこそ、手札に残しておくのは得策ではないと思った。次の勝負で決着がつく、という状況だとして、手札に1と2しかなかったら、嫌でも2を出さざるを得ないし、そういう状況だったら、彼女には僕の手札が何なのか容易に想像がつくので、それに負けない(この場合は2以上ならなんでも)状況をあらかじめ用意しておくというのが正解になる。

 そうなると、1以外のどのカードにも負ける、1のカードを出しておくのが正しいはず。1敗は大きいが、これ以降必ず負ける、ということはなくなるから、いかに平然とした顔で出せるかが勝負になる。

 こうやって色々悩んで出したカードなのに、彼女は何も考えないで(僕にはそう煮える)、カードを提出した。

結果は…


僕 1  彼女 3


 で、彼女の1勝。

 そこから、


僕 2  彼女 2


 で、彼女の1勝1引き分け。

 この時点で2回戦勝負して、僕の手札は3とクイーンとキングで、彼女の手札は1とクイーンとキング。

 お互い、数字カードの強い順と弱い順に沿って出していることになる。

 問題は次だ。ここからが本番といっていいかもしれない。……いつのまにか、勝負事に本気になっている自分がいた。彼女は真剣な表情をしているが、それは勝負に勝ちたいからなのか、モデルになりたいからなのか、よくわからない。

 ひとつ言えるのは、この瞬間、僕と彼女はお互いが何を考えているか探り合っている、お互いを理解しようとしている、ということだ。

 彼女とは付き合って日は浅いが、この勝負が終わると、二人の関係がどうなっていくのか、楽しみなようで不安なようで…いけない、目の前のことに集中しないと!

 そして3回戦。提出したカードは…


僕 キング 彼女 1


 だった。


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