彼女、恋愛やめるってよ
「何? どうしたの? どんなお悩みでも、このケイさんがズバッと解決してあげるわよ」
占い師の女性が笑顔で対応するも、彼女の表情は暗く、僕は何を言っていいかわからず、ただフリーズしていた。
彼女はしばらく何か言いたげにしていたが、思い切って口にした言葉は…
「私、モデルになるんです! それもただのモデルじゃなくて、パリコレに出るようなモデルに!」
「え?」
「え?」
僕と占い師の女性が同時に同じことを言った。なんというか、あまりにも予想外のことを言ってきたので、頭の中が混乱して、これはギャグなのか、ガチなのか、ツッコんだ方がいいのか、無視した方がいいのか…とにかく「え?」の後に言葉が続かなかった。
占い師の女性が言った。
「ちょ、ちょっと待って。モデルになるのはいいことだと思うわよ。あなた、背も高いし、スタイルもいいし、なによりかわいいしね。まあ、モデル事務所にスカウトされてもおかしくないわね。…だけど、それの何が問題なの? いいことじゃない」
「そりゃあ、私こんなにかわいいから、周りがほっとかないのもわかりますけど…」
おいおい、認めるんかい! と言いそうになったが、実際そうだと思うから、何も言えない。そう考えると、こんなかわいい子がなぜ僕なんかを好きになったのかがまったく謎だ。
僕は特にイケメンでもないし、勉強やスポーツだって人並みにしかできないし、家がお金持ちとかそういうこともないから、お金目当てでもないだろう……なんか悲しくなってきた。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女が僕の手を握ってきた。思わずドキッとした。
「私、先輩のことがずっと好きで、やっとの思いで告白して付き合えるようになったんです! だから、別れたくなくて! でもモデルもやりたくて。それで、どうしたらいいかわからなくなったりしちゃったりなんかしちゃったりして」
ん? それって、いわゆる…
占い師の女性が大きくうなずいた。
「はぁー。そういうことね。いわゆる恋愛禁止ってわけね。モデルやるとしたら、恋愛禁止になりますよ、とか事務所に言われたのね…。で、どっちをとるか迷っていると」
「そうなんです! 事務所からスカウトされたときは、芸能界の仕事とか興味なくて、でも、君だったら日本を代表するモデルになれるよとか言われて、その気になって事務所に行ったら実はヤクザの経営するプロダクションで、モデルの仕事、とか言いながら、気が付いたら裸にされてAV撮影になっていたりとか、芸人と付き合ってそのうちホストにはまって借金まみれになってしまうんじゃないかって…。だから、そうなる前に、好きな人に告白して、付き合うことができたら、事務所には断りの連絡入れようと思っていたんですけど、事務所から、庄内ガールズコレクションの仕事のオファーきたから、どうせなら出てみたいし、でもそれだと事務所と正式に契約して、恋愛禁止になるし、せっかく先輩と結婚が決まった矢先なのに、もうどうしていいかわからなくて!」
いや、どうしていいかわからないのは僕のほうですけど…なんかもう、ツッコミどころ多すぎてわけがわからない。
「うんうん。あなたの気持ちも理解できるわ。でも、本心は決まっているんじゃない? 私から見て、あなたの気持ちは100%彼に向いている。彼のことが大事だからこそ、悩む。こういうときって、すぐに結論を出さない方がいいわよ。一度自分の気持ちに向き合って、今の自分にとってどちらを選べばハッピーになれるか、笑顔でいられるか。それを見つけましょう」
占い師の女性…いや、ケイさんは冷静に判断していた。さすがはプロの占い師といったところか。
彼女はしばらくだまって何かを考えていたが、気持ちが固まったのか、僕に向かって、真剣なまなざしでこう言った。
「先輩、私と勝負してください! 先輩が勝ったら私はモデルをあきらめて先輩と結婚します。私が勝ったらその時は、先輩が事務所を説得して、私たちの結婚を認めれもらってください」
「なんでだよ! どっちにしても結婚するんかい!」
思わず声が出た。
そもそも、結婚することがなぜ確定事項になっているのか謎だが、僕と彼女は勝負することになった。
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