第六章 ゲイン バージョン9
第26話
映研への撮影協力を終えた翌日、ロボカップ運営事務局より送られてきた参加八校によるトーナメント表と競技種目が会室の壁に大きく張り出された。
トーナメント表には参加校とロボット名が並んでおり、茅盛のアクセルは表の右端に、白瀬のゲインは左端にその名が記載されている。
トーナメントでぶつかるとすれば決勝戦となる組み合わせだ。
倉庫にやって来た会員たちは皆引き寄せられるように表の前に集まり思い思いの感想を口にしていく。
もちろんアイガたち高等部の三人も例外ではなく、リィはその内容を声に出して読み始めた。
「え~っと一回戦、第一試合がアクセルVSキューティー・キューで、第二試合がブラスターバトンとハニーハニー。その次はエレクトリカとダブルダッグ。ゲインは最後の第四戦でファンシーラビットが相手と」
「ロボの名前だけ聞いていると何か競走馬みたいっすね」
「覚先輩とはやっぱ別ブロックか」
「茅盛とは同じ県内っすからね。近場の大学同士は緒戦でいきなり当たらないようになっているっんすよ。当たるとすると決勝戦、何かこう燃えるモンがあるっすよね」
「その決勝の種目が去年と同じボクシングか」
三人はトーナメント表から競技種目を説明している張り紙に目を移した。
「ルールも去年と同じっすね。ロボの拳にパッドを巻き付けてそのパッドで相手のボディを殴れば一本。三本先取した方の勝ち」
「一回戦のファンシーラビットとは陣取りゲーム。二回戦、エレクトリカかダブルダッグとは射的で勝負することになるのか」
「さっすがアイガ君、もう初戦突破は確定事項だよね」
「いや、リィちゃんゆる笑いしている場合じゃないっすよコレ。どのゲームもリィちゃんの責任重大じゃないっすか!」
東が種目説明の張り紙を指さした。
まずは最初に行う陣取りゲーム。
五十メートル四方のフィールド内にLEDと点灯スイッチを取り付けた高さ八メートルほどの柱を十六本配置し、参加ロボット二機はそのLEDを点灯しながらフィールド内をまわっていく。
制限時間五分で、より多くのLEDを点灯した方が勝者。同数だった場合はサドンデス。もう一本を最初に点灯したロボットの勝ちと、ルール自体はシンプルだ。
張り紙にある図解によると柱は高さ八メートル、幅一メートルの金属パイプを組み合わせた直方体の骨組みで、天辺に球形のLEDランプがあり、腕部操縦者から視認できるように高さ六メートルから七メートルの位置に点灯スイッチが取り付けられていた。
点灯スイッチは丸いハンドルの形をしており、ロボカップに出場する機体ならこれを鷲づかみにして手首を一回転させるだけでスイッチをオンにすることができるという仕組みだ。
どれだけ速く柱の間を移動し、いかに巧く機体の腕を動かしてスイッチをオンにできるかがこのゲームの勝敗を分けるポイントであろう。
アイガがどれだけ迅速にゲインを移動させたとしても、このLEDの点灯でもたついては元も子も無い。
東の指摘通り勝利の鍵を握るのが腕部操縦者の技術なのは明らかだった。
「次の射的は腕オンリー。脚担当の由良っちの出る幕なんて無いっすよ」
三人は『射的』の説明に目を向けた。
『射的』は字面そのままの競技だ。
ロボカップ運営が用意したエアガンで四枚の的を撃ち抜き、その得点を競うというもの。的もよく見る真ん中から赤、白、青と色分けされた円形のオーソドックスな奴っすね。当然中心にいくほど高得点である。
「これがエアガンのサンプルっすね」
と、東が解説文に添えられていたコードをタブレットPCで読み取り、画面にエアガンのサンプル画像を表示させた。
パッと見た感じでは銃身が一メートルあるは黒いオートマチック拳銃のお化けのような物だが、よく見てみるとモデルガンなどと違ってディテールまで作り込まれてはおらず表面はのっぺりしている。
注釈を読むと材質は木とプラスチックで、その内部にコンプレッサーを取り付け、その圧縮空気で弾を撃ち出す仕組みとなっている。
使用する弾丸は特殊ペイント弾でこれを十発まで装填し、発射することができる。
「これをゲインに持たせて的を狙うんすよ。リィちゃんエアガン撃ったことは?」
「リィが鉄砲撃ったことあるのはゲームの中だけだよ」
「リィちゃんゲーム上手いっすもんね。でもさすがに勝手が違うだろうし、何より練習のやりようも無い。ゲインがこのエアガンを装備するのは本番当日だけっすから。何発かは試し撃ちはさせてもらえるみたいすけど」
「二人とも熱く語っているねぇ」
と、背後から華梨がリィと東に抱き着いてきた。
「そりゃ語りたくもなるっすよ。ミニサッカーのような由良っちが活躍できそうな競技がなくなってリィちゃんの負担だけが増し増しになってんすから」
「そこは私たちで何とかするから任せてちょうだい。狙いをつけやすくする仕掛けをいま検討中なんで」
「華梨先輩もゲインの改造を?」
「改造というより装備品の作製かな。各チームも間違いなくここは工夫を凝らしてくるポイントでしょうね。――それで、由良君は今回の競技についてどう思う? 気に入っていた習字が無くなっちゃたみたいだけれど」
今回入れ替わった二つの競技。「射的」は過去に何度か競技として採用されたことがあったようだが、その頃のことは華梨は知らない。「陣取りゲーム」にいたっては初採用の新競技だ。
この未知の競技をベテランアームリフト操者はどう見ているのか? 華梨は単純に興味があった。
「どう? と聞かれても俺のやることは変わりませんよ。勝つためにアレコレ知恵を絞るだけです。そのために呼ばれたわけですから」
「攻略方法を考えるってことね。期待しちゃうよ?」
「保障はできませんよ。決勝戦のボクシングは覚先輩が相手になるでしょうから。でも陣取りゲームはやりようはありますね。射的の方は……華梨先輩が射的用の装備を作るっていうなら、それがどんな物かを聞いておかないと何とも言えませんね」
「もちろん由良君たちにも教えるけど――それは今日のメインイベントの後だね。ほら、お待ちかねの発表会が始まるみたいだよ」
華梨が指さす方へ目を向けると、 巽と風根が台車を押しながら会室前にやって来るのが見えた。
それぞれの台車の上には洗面器をくっつけ合わせたような円盤形の機械が二台ずつ乗せられている。
倉庫に予備として保管していた古い型のモーターで、数年前までゲインの関節部を稼働させていた物だ。
「よし、皆集まってくれ!」
モーターを会室前まで運んだあと、巽は愛用のタブレットPCを頭上にかかげながら会員たちに呼び掛けた。
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