第4話

白瀬大学付属高等学部。

白瀬市の海に面した南側数キロ四方を敷地に持つ勉学の場。

その大正から連なる長い歴史の中で高等部が設立されたのは四十五年前とごく最近の出来事だった。


設立当初は制服が設けられておらず生徒全員が私服で通う学部だった。

それが三十年ほど前、女子生徒たちの希望により女子にだけ制服が採用される運びとなり――以降、女子は制服のブレザー、男子は私服と一風変わった高等学部として他県にも知れ渡っている。


その私服姿の男子生徒の中でも紺色のニッカポッカはよく目立つ。

なので、教室を覗き込んだリィはすぐにアイガの姿を見つけることができた。


「いたいた、アイガ君」

「本当に来たのか。昨日の今日でよく俺の授業が分かったな」


満面の笑顔で駆け寄ってきたリィにアイガは口元を引き攣らせる。


「先生に聞いたらすぐに教えてくれたよ。この五年間で転校生はアイガ君だけだって」

「そうなのか……」

「アイガ君、放課後休みでしょ。お母さんからシフト聞いてきたよ。今日から三日間お休みだって。それとも何か用?」

「抜け目ないな……。その部活だかサークルだかってのはどこまで行くんだ?」


『面倒くさいことになりそうだ』という思いつつも、アイガの中で熱心に誘われることへの興味が湧いてくる。


「ここから見えるよ」と、リィが窓の外を指差した。


二人のいる教室は高等学部校舎の五階にある。二十メートル離れ先に五階建ての大学校舎、その向こうに奇抜なデザインをした研究棟、その研究棟の丸い屋根の向うに海が見えた。


「あの海の近くに並んでる倉庫だよ」

「倉庫?」


海の方を良く見てみれば研究棟の陰に隠れるようにして緩やかな三角屋根の建物があった。

五階建てくらいの高さがある大きな建物だ。


「元はどっかの会社の倉庫だったそうだよ。何十年前かにその会社が無くなって大学の敷地になったんだって」

「ああ思い出した。その残った倉庫の何棟かが技術研究の作業場になってるんだったか? パンフに書いてあったよ」


転校手続きの際に受け取った学校案内のパンフレット。

パラパラと見たそれに、大学敷地内の外れに並ぶ倉庫が技術系の部活やサークルの活動場所になっているということが書いてあった。

写真をまじえて八ページくらいあったような気がする。


『昨年、芝刈りレース同好会はストッククラスで見事優勝を飾りました』

という見出しとともに見開きで疾走する乗車型の芝刈り機の写真が掲載されていた。

その物珍しさでパラ見してみたわけだが、他に車やバイクのレース活動を行っている部活が紹介されていたのを覚えている。


なるほど――りぃの所属している『関節機構駆動研究会かきくけか』とはアームリフトでレースか何かを行なっている部活動なのだろう。

だからこそ彼女は自分なんかを熱心に勧誘しに来るのだ。


アイガはここで初めて『かきくけか』とやらを見学してみても良いという気になった。

転校してきて日も浅いので大学方面にはまだ行ったことが無い。一度脚を伸ばしてみるのも良いだろう。

アイガが古びたリュックに教科書を詰め込みながらその旨を伝えるとリィは踊るようにして喜んだ。

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