暴走令嬢、男装して王立騎士団へ入隊!?②
◆
――このアルトデリア国が誇る最強の騎士、クライヴ・ハルフォード。
六年前に出会ったアシュリーの初恋の相手は、敵国から国境を守り抜いたことで英雄と呼ばれるようになった、十九歳の若き騎士である。
孤児でありながら、史上初めて王立騎士団近衛隊への所属を許された、剣の達人だ。
一度しか会ったことのない人でも、アシュリーは彼のことがずっと好きだった。アシュリーの部屋には、彼に関する噂を書き留めた紙が山のように積まれている。
けれど、別の人との結婚が決まってしまうだなんて。
「こんなに好きなのに……!」
アシュリーは屋敷の廊下を駆け抜けて、ある部屋の扉を開け放した。飛び込んだ先は、どんよりとした室内だ。
「助けてアッシュ!! ……うっ!」
カーテンの閉め切られたその部屋は、昼間だというのに薄暗い。慣れているはずのアシュリーも怯む、陰鬱な空間だ。
「悲しい気持ちに拍車をかける、空気の淀んだ部屋……!!」
「……なに、アシュリー……」
部屋の奥で、もそりとシーツの塊が動いた。
ベッドの中から顔を覗かせたのは、アシュリーとそっくり同じ顔の少年だ。髪を短く切り揃えているほかは、アシュリーと瓜ふたつな双子の兄、アッシュである。
アシュリーは、兄のベッドに取りすがった。
「聞いてアッシュ! このままじゃ私、クライヴさま以外の人と結婚させられちゃう! 私たちは赤い糸で結ばれているはずなのに……!!」
「えー……」
アッシュはシーツの中に再び身を埋めると、気だるそうに言う。
「嫁入り先が決まってよかったじゃないか。結婚おめでとー……」
「おめでたくない! というかアッシュ、面倒だからって適当に流そうとしないで!」
再びベッドに潜った兄を引っ張り出し、アシュリーは盛大に泣きついた。
「力を貸して欲しいの! アッシュなら、あのお父さまも説得できるかもしれない!」
「僕はいま、現実逃避で忙しいんだ……。大体、赤い糸ってなに」
気だるげな兄の目が、アシュリーをちろりと見遣る。
「ハルフォードの方は、アシュリーと結婚したいなんて思ってないよ……」
「うっ」
「存在も覚えてないんじゃない? というかお前、父上さえ許せば当然ハルフォードと結婚できるって思ってるところが怖い」
「ううううう………………」
その指摘により、アシュリーはベッドに突っ伏した。
正しいことだらけなアッシュの言葉に、心がえぐられる。それでも諦められなかった。
「六年前、クライヴさまに助けてもらってから、ずっとあの方のお嫁さんになることだけが夢だったのに……!!」
「そのせいで、素っ頓狂な花嫁修業に散々付き合わされたな……」
「もうやだ!! 今世に期待できないのなら、せめて来世ではクライヴさまに寄り添いたい……っ!! 神さま教えて、どうしたらクライヴさまの着ているシャツに生まれ変われるの……!?」
「シャツ……? なんでシャツ……?」
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