元聖剣の日常⑥
◆
ルティアがアシュアルドと思いがけない再会を果たしたのと同じ頃。
ロンダール国から遠く離れたある国の宮殿の広間では、一人の中年女性が玉座から平伏する臣下たちを冷たく見おろしていた。その女性の背景には、白い大理石で掘られた主神アールゼータと六つの剣が描かれたレリーフが飾られている。
「まだあの娘は見つからぬのか!」
女性の口から甲高い叱責の声が放たれる。その声に臣下たちはビクッと背中を震わせた。
「も、申し訳ありません」
平伏する臣下の中には神官姿の者が含まれていた。王権と宗教が分離している他国ではありえない光景が、この国ではごく当たり前に見られるのだ。
「引き続き捜しております。今しばらくのご猶予を!」
「いいか。必ず捜し出すのじゃぞ!」
「はい。必ずや!」
平伏していた臣下たちが広間から下がっていくのを見つめながら、苛立たしげに唇を噛みしめる。
「娘一人捜し出せないとは、なんたる無能どもじゃ」
女性は濃い金髪をうっとうしげに振った。女盛りはとうに過ぎて、その美貌には翳りが出てきている。けれど、かつて三国一とも謳われたその容姿は今でも十分に美しかった。
「やはり、情けなどかけるのではなかった。十七年前に始末しておけばよかったのじゃ」
「教皇様、そのように強く噛んでは美しい唇に傷がついてしまいますよ」
声と共に女性の背後からすっと玉座に近づく者があった。女性は振り向いて笑顔になる。
「おお。フェンダール。来ていたのかえ」
フェンダールと呼ばれた神官服姿の青年はにっこりと笑いかける。淡い金色の髪に、紫色の瞳を持つ、とても美しい青年だった。
「大丈夫です。周辺国にも伝えて捜させておりますので、必ず予言の娘を見つけることができるでしょう。お任せください、我らの教皇様」
青年は手を伸ばして女性の頬をそっと撫でる。女性は魅入られたようにうっとりと笑った。
「そうじゃの。お前に任せておけば安心じゃ」
「はい。必ず予言の娘を捜し出し、御前にその首を。そうすれば教皇様は魔王の脅威から世界を救った英雄となります。教皇様の国であるこの神聖王国フラウゼアも再び盛り返すことができるでしょう」
女性は何度も頷いた。
「そう、そうじゃ。このフラウゼアのためにも、世界のためにも、必ず『魔王復活の鍵を握る』と予言されたあの娘を捜し出し、殺すのじゃ!」
「はい。教皇様。必ずや――」
優雅な仕草で頭を下げる青年の紫色の瞳は妖しく輝いていた。
※この続きは本日6/15発売の書籍にてお楽しみください。
聖剣が人間に転生してみたら、勇者に偏愛されて困っています。 富樫聖夜/ビーズログ文庫 @bslog
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