第四章 ◇


 恢の身体から力が抜け落ちた。悪魔憑きは滅多なことでは死なない。つまりは『そういうこと』だった。

 ソフィアがレミリアへと近付く。幼き少女の瞳からは光が失われていた。心の中に、大きな穴が開いていた。まるで、凍えを埋めるように恢との思い出が脳裏を駆け巡る。ずぼらな性格で、けど優しくて、ちょっと怖いけど、甘くて、傍にいると落ち着いて、胸がぎゅーっと苦しくなって。きっと、初めて本気になった人で。

「私の、私の、せいなの。私が、あの日、恢に、助けてなんて言ったから。あんなこと言わなければ、恢は死なずに済んだのに」

 皮肉も、レミリアを慰めたのはソフィアだった。人食いの鬼が喜々として笑うのだ。

「いやー、そうじゃないよ。遅かれ早かれ、あの男は誰かに殺されていた。悪魔憑きだって、無敵じゃない。死ぬのが怖いから、人間は群れを作る。それは、悪魔憑きだって例外じゃない。孤独を選んだ時点で、あいつの死は決まっていたよ。君が病む必要なんてないさ」

 怒りさえも、自分の罪から目を逸らす行為だと、レミリアは下唇を噛んだのだ。血が滲んでも、痛みは心に響かない。恢の声はもう、聞こえないのだ。

 ソフィアがレミリアの肩を掴む。とうとう、猟犬が獲物へと牙を剥いたのだ。

「さあ、ついて来て貰おうか、レミリアちゃん。――まだ、夜は終わらないよ」

 ふらりと、レミリアが立つ。どうせ、逃げる方法なんてない。恢は自分のせいで殺された。ならば、相応の罰を受けるのが筋だろう。

 涙は枯れ、心は空虚なままだ。

 夜はこれから濃さを増していく。




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