第一章 ◇
レミリアに訪れた運命は〝悪いこと〟〝良いこと〟〝今一わからないこと〟が一つずつ。少女は、無駄に大きな男の背中を眺めつつ必死に冷静さを取り戻そうとしていた。
裏世界で活動する人身売買組織の目を盗み、何とか逃亡した矢先に化け物に追われたことが悪いこと。
一か八かの窓からの跳躍。知らない男にキャッチされ、割と一方的に助けてくれると言ってくれたのが良いこと。
もっとも、明らかに〝普通の人間〟ではない。そもそも、こんな男がどうして都合よく助けてくれるのか? これが、今一わからないこと。
(この男を信用していいの? けれど、周りにはどんな危険があるかわかったものじゃない。悪そうな奴だけど悪くないっぽいし、なんか視線がいやらしいけど、この際、贅沢なんて言えないわ! なんかやばそうだったら、逃げればいいのよ。私、逃げるのは得意だし)
暫定的に恢の傍にいようと決断する。その間に、どんどんと魔物の気配が高まっていく。ここで、レミリアは人身売買組織の手から別の組織に売られるはずだった。しかし、たまたま他の商品が〝暴走〟してしまったらしい。現世へと生まれ落ちた魔物が黒服連中を襲い、文字通り〝食らった〟光景は、はっきりと脳裏に焼け付いている。吐き気が込み上げてくるから、永遠に思い出したくない。苦しんで死んでくれたことへの感謝よりも先に、憐憫を覚えてしまうほどに無惨だった。人間、こんなにも醜く死ぬものなのかと。
(私、そこそこ〝こっち側〟のことを知っているつもりだったけど、ショックだわ。掃討屋のカイ……。まさか、自分以外の魔人に会うなんて思いもしなかったわ。まあ、私は半分だけど)
非常事態でこそ、レミリアは思考の歯車を回す。緊張下でこそ、思考を止めてはいけないからだ。常に周囲の状況を窺い、最良の選択を取らなければいけない。
(絶対に、逃げ切ってみせる。もう二度と、私は誰かに囚われたりなんてしない!)
覚悟を固める少女の瞳は、どこか冷酷な色を映していた。
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