リリスブレット

砂夜

序章


 ――夜闇を貫く流星さながらにこちらへと目掛けて落下してきたのは、年端も行かない少女だった。今年で二十五歳になる男、神凪恢かみなぎかいの思考が一瞬、真っ白に染まる。だが、彼女を助けるため、反射的に両腕を伸ばす。


 膝を折り、背中を曲げ、両腕で頭を抱えた少女の身体が、恢の胸元へと吸い込まれるように、飛び込んだ。両腕に駆け抜けた衝撃に思わず歯を食い縛る。何故、降って来たのだろうか。今は夜で、ここは廃ビルの敷地内で、紛うことなき戦場なのに。


 黒に限りなく近い灰色のコートを纏う恢は、視線を腕の中へと落とし、少女と目が合った。自然と、頬や額へと尋常ではない量の脂汗が滲み出す。


 どう高めに見積もっても、十代の前半だろう。身長はようやく百四十センチに届く辺りだろうか。肌は白くも健康的な赤みが差し、なんとも瑞々しい。艶やかな黒髪は腰の半ばまで伸び、頭の左右で纏めながらも後ろ髪を残したツーサイド・アップ。瞳はやや切れ長で、深い真緑に鮮やかな蒼が混ざっている。驚いた様子ながらも、一本の芯が見える。きっと、本来は強気な性格に違いない。まるで、子猫のようだと恢は思った。


 纏うのは、赤いフレアスカート風ドレス。靴はヒールが高く、少々背伸びだ。髪を纏めるピンクのリボンが合わさると、なんともファンシーな容姿である。


 苦しいまでに愛らしい。きっと、将来は素敵な女性になるだろう。問題があるとすれば、キャッチした本人が尋常ではない程に〝困惑〟している点か。


「え、えーっと、こんばんは。君はこんなところで何をしているんだい?」


 恢の顔は引き攣った笑みを浮かべていた。誰がどう見ても不審者だった。通報されても文句は言えないレベルだった。それでも、少女は悲鳴を上げず、喘ぐように呼吸を繰り返し、ようやく〝それだけ〟を絞り出す。


「た、助けて」


 カチンと、頭の中で噛み合った。それは二枚の歯車だった。行き場を失いかけた〝困惑〟へと、これまでに積み重ねた〝覚悟〟が重なる。心の中に、線が走る。何故、自分は戦う?

 何故、此処にいる? それはきっと、誰かを護るためだ。


 誰かが不幸にならないように戦う。


 不幸になった誰かを助けるために戦う。


 ならばきっと、するべきことは変わらない。


「……なるほど。深く考える必要なんてまるでなかったじゃねえか」


 闇夜の向こう側から、肉食獣にも似た咆哮が轟いた。恢の腕に抱かれた少女が、びくりと全身を震わせるのだ。


 こちらへと近付く足音は、獲物に忍び寄る狼のように静かだ。だが、その気配だけは、まるで隠し切れていない。食欲で歪められた鉄錆の臭いは、一歩近寄る度に色を濃くするばかりだ。


 現れたのは、悪夢が具現化したような化け物だった。


 基礎ベースとなっているのは人間の男。ただし、全身は針金のような金色の剛毛に覆われ、筋肉量は四肢を丸太のように、胴体を岩石のように膨れ上がらせる。頭部は狼か、鰐か。前傾姿勢の怪物は、爪と牙を剣に変えて殺意を滾らせている。半人半獣ワーウルフの口元は、既に真っ赤に濡れていた。まるで、先程まで〝食事〟でもしていたかのように。


「あいつを、倒せば正解なんだな。そうかそうか。――そいつは簡単だ! 煙草を一本吸う方が、よっぽど時間がかかる」


 恢は少女の持ち方を〝お姫様抱っこ〟から、左腕一本の持ち方へとシフトした。物干し竿で布団でも干すように、あるいは鉄棒でも行っているかのように、男の腕に腹を当てる形で。


 化け物が怖いのか、恢が怖いのか、あるいは両方か。少女は、口を閉じたままだった。

 唸り声が怪物の歯の隙間から漏れ出す。いつ、跳びかかってもおかしくない。だというのに、恢は逃げも怯えもしなかった。


「純粋な魔物ってわけじゃねえな。なら、雑種か? どっちにしろ、ここで始末する。元々、そういう〝仕事〟だったからな。……おい、何か返事しろ糞犬。その長い耳は飾りか?」


 怪物を真っ向から挑発する恢の身体は、百八十五センチの身長に見合う逞しい体格だった。服を脱げば、彫刻のように鍛え上げられた筋肉の鎧が堂々と姿を現すだろう。顔の彫りも深く、その顔付きは獲物を見付けた鷹のように凶悪だった。短く切り揃えられた髪の色は黒。それも、艶を忘れ、光の一切を反射させない、本当の闇を切り取ったかのような玄色だった。


 本来、どんなに身体を鍛えても〝ただの人間〟ならば化け物に適う道理などない。


 逆に言えば、恢には怪物に真っ向から対峙するだけの〝力〟があるということだ。


 恢は、右腕を眼前に伸ばす。軽く肘を曲げ、ワーウルフへと言ったのだ。


「なあ、犬っころ。長生きしたければ、せめて、手前が誰に喧嘩を売ったのかちゃんと理解するべきだったな」


 恢が大きく目を見開いた。すると、彼の眼前、右腕の手元に小さな朱が、火が生まれ落ちる。瞬く間に体積と密度を増大させ、とうとう、直径三十センチには届く球体が生じる。轟々と燃える紅蓮の火球へと、男は躊躇なく右腕を肘まで突っ込んだ。熱はなく、塵一つ燃えない。代わりに〝それ〟がずるりと引き抜かれた。役目を終えたと火球が大気に溶けるように消えてしまう。


 彼の右手が掴んでいたのは、火と鉛に愛された武器――自動式拳銃だった。それも、イタリアが誇る老舗の銃器メーカー・ベレッタ社のベレッタM92を。恢は安全装置を外し、片手で撃鉄を起こした。


 恢は〝ただの人間〟ではなかったのだ。


 彼は悪魔憑き――魔神と呼ばれる〝法外の住人〟と契約した〝魔人〟なのだ。彼に選ばれた、いや、彼を選んだのは原初の女性であり、全ての悪魔の母であるリリス。そして、悪魔憑きには〝異能〟である『刻牢装印アビリティ・ルイン』が与えられる。契約した魔神よって、多岐に渡る奇跡を魔人へと与えるのだ。


「さあ、リリス。俺に、力を貸してくれ」


 彼は、地方中枢都市・日高市を主な活動場にしている掃討屋なのだ。


 悪魔、悪霊、異能者、その他諸々。既存の物理現象に真っ向から喧嘩を売る連中に、真っ向から喧嘩を押し付けるのが彼の仕事だ。恢は街灯さえ遠い夜闇の中でも容易に敵を睨みつける。七月下旬。日本の夏特有の生温い空気が頬に当たるも、今は全ての汗が引くほど集中力を研ぎ澄ましていた。


 いつも以上の〝緊張〟が胸を圧迫していた。それは、左腕に抱いた小さな命の重さだった。


 ここで、自分がミスを犯せば少女の命までが危うい。これまでの戦闘にはなかったプレッシャーを前に、恢は大きく息を吸った。


 跳びかかるように見えた怪物は、意外にも動かなかった。


 拳銃を向けられても、怯える様子が全く見えないのだ。


 まるで、拳銃の威力を〝知っている〟かのように。


「おいおい。手前、俺をなめ過ぎだ」


 一転。先に動いたのは恢だった。銃口を定め、引き金を絞る。撃鉄は倒れ、撃針を押し、雷管を叩く。発射薬が燃焼し、ガスが急速膨張。中型口径である九ミリ・パラベラム弾が螺旋の軌道を描きながら押し出される。音速超過の軌跡を飾るのは甲高い銃声とマズルフラッシュ。緋色と濃い橙色の閃光が彼岸花の如く咲き誇る。


 音速と同等の九ミリ・パラベラム弾は数十メートルの距離をほぼ一瞬で食い尽くし、化け物へと直撃する。


 怪物は避けようとしない。


 恢は、薄暗く笑ったのだ。


 もしも、これがただの鉛玉ならば、怪物の剛毛と筋肉が容易く受け止めていただろう。

 戦場に響き渡ったのは、苦痛に身悶える怪物の叫び声だった。


 まるで、見えない軍用火薬が爆発したかのようにワーウルフの右腕が肩口から吹っ飛んだのだ。クルクルと赤い尾を散らしながら、右腕が後方へと落下し、肉片以外の意味を全て失う。


 ――〝それ〟らと契約して得られる異能『刻牢装印アビリティ・ルイン』。彼に齎された系統は『女帝の闇宮リリス・ハート』。恢は一度でも見て触れた銃器を〝呪的たる退魔の武器〟として召喚するのだ。


 痛みを感じているのだろう。怪物が上半身をねじりながら、荒々しい叫びを上げる。


 どうやら、腕を一本奪っただけでは死んでくれないらしい。糞面倒な耐久性に、恢は片目を閉じた。


「こいつが、ただの弾丸に見えたか? だったら、残念。俺を、ただの人間エサだとは思わないことだ」


 恢はつまらなそうに顔を顰める。腕の中の少女が唖然と顔を蒼白に変えているなど、全く気付いていない。さっきの発砲で悲鳴を上げたことにも、気付いていない。


(一先ず、とっとと終わらせる!)


 二度、三度、発砲する。しかし、今度は反応した。ワーウルフは、その巨体に似合わず俊敏に駆け、次々と弾丸を避ける。九パラは虚しくも、地面を構成するアスファルトを砕くだけで役目を終えてしまう。


 銃器召喚の異能『女帝の闇宮リリス・ハート』は、確かに強力だ。ただし、それは弾丸が持つ物理的エネルギーを退魔の力に変換しているに過ぎない。それ以外は、銃器本来の性能と自然法則の枠に縛られてしまう。拳銃弾の有効射程圏内は五十メートル以下。系統にもよるものの、九パラは、厚さ二・二センチの松板を十五枚も貫けば推進力をほぼ失う。つまりだ。結局のところ、最後に物を言うのは銃使いとしての彼の実力だった。


(以外に素早いな。……つーか、猛烈にやりにくい! 子供一人抱えて戦うって、こんなに難しいものなのか?)


 左腕一本で少女を支えたままの戦闘など、生まれて初めての経験だった。軽そうに見えて、それなりに重いのだ。いつもの精細さが欠け、とうとうベレッタM92のスライドが後退したまま戻らなくなった。弾切れの合図である。恢は舌打ちし、自動式拳銃を後方に投げ捨てた。すると、銃は硝子のように色を失い、そのまま粒子となって消滅する。まるで、乾いた砂の城が崩れるように。


 結局、最初の一発以外、有効的なダメージを与えられなかった。


 恢は忌々しそうに自動式拳銃を睨み付ける。


「……本当に、これは使い勝手が悪いな」


女帝の闇宮リリス・ハート』によって召喚された銃器は物質としての存在が揺らぎ、短時間しか効果を発揮出来ず、弾丸を吐き出せばすぐに消滅する。かつて、リリスが神からの罰で無数に赤子を産むかわりに、等しく赤子を殺された神話にあるように。あるいは、火が灯された薪が光を生む代わりに灰になってしまうように。恢は少女を抱く左腕に少しだけ力を入れる。


「ひゃっ!」


 少女の悲鳴に、恢は胃がキュッと縮まるような想いだった。


「あ、駄目、喋っちゃ駄目だ。舌を噛んでも知らないぞ。後、絶対に暴れるな。その、あの、あれだ。……大丈夫だよ。ちゃんと、助けるよ」


 気の利いた言葉が見付からない。せめて、護りたい気持ちだけは伝わってくれと恢は後方へと跳んだ。半人半獣の怪物が左腕一本で攻めに転じた。辛くも避けながら、敵との距離を測る。腕の中の少女が恐怖で震えている。華奢な肢体から伝わる怯えた様子が、男の心臓に熱を注いだ。護らなければいけない。彼女を、護らなければいけない。


 恢は『女帝の闇宮リリス・ハート』によって紅蓮の火球を召喚し、また右腕を突っ込み新しい拳銃を抜き出す。今度は、回転式拳銃のコルトM1917だった。ハーフムーンクリップを使い、自動式用の四五ACP弾を放つ古い時代の名器だ。


 ギリギリまで引きつけ、最適なタイミングで腕を伸ばす。怪物の剛腕、その爪先が銃口に触れかけ、プラスチックのように砕け散る。それだけに留まらず、四五ACP・ブラックタロンが左胸へと、心臓へと突き刺さった。硬い撃鉄を起こし、残り全てを発砲する。


 頭部を、胴体を、足を、腕を、心臓を。特殊合金で被甲された弾丸が容赦なく怪物の皮膚を貫き、肉を抉り、骨を砕く。脳髄が弾け、内臓は零れ出し、どんどん体積を減らしていくのだ。


 恢は、色を失ったコルトM1917を後方へと投げ捨てる。


 敵からの反撃はない。怪物は力尽きて、地面へと倒れたのだった。


 いつもならば、怪物の一匹な二匹。雑魚に過ぎない。しかし、今日は違った。胸の奥から沸き上がったのは、安堵だった。少女は、傷一つ付いていない。彼は、彼女を護り通したのだ。


 少女の無事が、何よりも嬉しかった。同時、ここまで心を乱していた自分が恥ずかしくて、無性に煙草が吸いたくて堪らなかった。


 僅かに息を乱した恢は周囲の気配を探りつつ、少女を地面と優しく下ろした。


 少女は真っ先に恢から数歩分離れる。そんな動作がちょっとショックで、けれど子供らしいからと安心した。


 廃ビルの裏手側。恢は膝を折って少女と視線を合わせる。


「怪我はない?」


 数秒遅れ、少女はぶんぶんと首を縦に振った。先ず、不安の一つが消えた。恢自身、誰かの傷を魔法のように癒す術は持ち合わせていない。


「名前を聞いても良いかな? 俺は、恢だ。神凪恢。君の名前を教えてくれるかい?」


 少女は胸の前で両手を組み、こちらをきつい表情で睨みつける。こちらの命令には屈しないと、言外に語るのだ。ただ、すぐに表情が曇る。ややあって、掠れるような声で言った。


「レミリアよ。助けてくれて、ありがとう……」


「ああ。それで、君はどうしてこんなところに――」


 ――恢の背筋が伸びる。レミリアが顔を強張らせる。ゆっくりと語る暇はなかった。だから、これだけは聞いておかなければいけなかった。


「君を助けたい。俺を信じてくれないか?」


 途端に、周囲から獣の咆哮が連鎖した。恢達は今、化け物に囲まれつつあった。レミリアは顔を蒼白に変え、カチカチと歯を鳴らす。やはり、即答できないらしい。


 当然だろうと恢は納得した。急に、こんな〝怖い男〟が出て来て冷静でいられるはずがない。


「まあ、怖くて当たり前だな」


 だから、悲しむのは逆に卑怯だろう。


 それが、彼が選んだ運命なのだから。


 けれど、簡単に割り切れるはずない。


 上手く笑えないのは、元からか。それとも、他の何かが邪魔しているのか。


 戦う時は、ずっと一人だった。戦場で、誰かを護るなんて初めてだった。だからだろうか、戦場では孤独しか知らない恢は〝動揺〟しているのだ。


 だが、今だけは全てを飲み込み、戦わなければいけない。


「それでもいいよ。じゃあ、せめて、俺の傍を離れないでくれ。その方が護りやすい」


 反応はなかった。恢はレミリアへと背を向ける。


「生憎と、俺は〝良い人間〟じゃない」


 嘘はつけなかった。その程度には良心が痛んだからだ。


「けれど、これだけは信じてくれ」


 精一杯、優しい声を作った。


「君を護りたいのは、本当なんだ」


 紅蓮の火球に腕を突っ込みながら、恢はレミリアへと伝えた。今日出会ったばかりの少女を護ると一方的に誓った男が引き抜いたのは、短機関銃にカテゴライズされるMAC10。一度でも見て触れた銃器を召喚する異能『女帝の闇宮リリス・ハート』。ならば、わざわざ拳銃というカテゴリーに縛られる道理などない。


 手が大きい彼がグリップを握ると、ちょっと大きな自動式拳銃にしか見えない。すでに、安全装置は外されている。恢は凶器を手にし、それでも楽観視など出来はしなかった。獣の咆哮は煮詰まり、気配は増える一方だ。


 鋭い爪が見えた。涎で濡れた牙が見えた。血と肉を好む本能に忠実な双眸と目が合った。先程と同じ化け物、半人半獣の魔物・ワーウルフがぞろぞろと集まり出したのだ。その数、視界に入るだけでも三十を超える。虎も狼も獅子も本来、狩りは群れでやるものだ。孤よりも集団の方が強い。それは、遥か昔から全ての生物が知っている摂理だ。半乾きの雑巾に牛乳を混ぜたような、獣独特の嫌な臭いが鼻について仕方ない。


 廃ビルの壁を背にし、円弧に囲まれつつある恢は、呆れたように嘆め息を吐き出した。


「こんな子供相手によってたかって恥ずかしくないのかよ。……そろそろ、この街を誰が護っているのか思い出してほしいものだな」


 ぶつぶつと呟きながら恢がコートのポケットから取り出したのは、煙草の箱。白のストライプに船の錨が描かれたパッケージ。一本引き抜かれた煙草は白ではなく、茶色。金押しで刻まれた名前は〝ARK ROYAL〟。イギリス海軍の航空母艦と同じ名前、アークロイヤルである。元々は売れ残ったパイプ用煙草を再利用した品であり、そんな背景が気に入っている。男は慣れた手つきでライターを取り出し、火を着けた。


 捨てられる筈だった紫煙の草は新しい場所を得た。


 捨てられる筈だった男は別の居場所を手に入れた。


 それが、どんな因果、偶然だろうとも恢は今、此処で戦っている。その果てに、レミリアと出会ったのなら、きっと助けるのが〝道理〟だろう。


「その身体に、恐怖を刻みこんでやろう。安心しろ、直ぐに終わる。何せ、一瞬だからな」

 甘くも芳ばしく、濃密なバニラフレーバーを鼻と舌で味わい、恢の思考が歯車を組み替えた。ようやく、元の自分を取り戻せそうだった。


 さらに、火球は追加される。左手にも同じ短機関銃を召喚、掴み取った。牙はなくとも敵を食らう二つの口を魔物の群れへと向ける。


 心臓の鼓動が近い。戦いの中でこそ、真に身体が動き出す。アークロイヤルの紫煙を味わいつつ、掃討屋は化け物全員へと宣言したのだ。


「この子を食べたいのなら、俺を倒してからにしろ。レミリアメイン・ディッシュの前に、熱々で舌も吹き飛ぶような鉛玉の前菜をくれてやる。出血無料の大サービスをしよう。美味過ぎて腹一杯になってもお代わりは俺のサービスだ。今夜限定の特別メニュー。たっぷりと味わってくれ」


 ワーウルフの群れが重々しいうなり声を重ねる。まるで、雨雲が雷を転がして大きくするかのように。恢は両の手に一丁ずつMAC10構え、両脚を肩幅まで開いた。


 有象無象の化け物を前にして、恢は小揺るぎもしない。むしろ、その戦意は研ぎ澄まされていく。殺意が洗練されていく。己が内に宿した魔神が戦う力を生み出す。


「さあ、食べたい奴から前に出ろ。並ぶのが面倒なら纏めて来い。手前ら化け物が、俺の前で好き勝手出来ると思わないことだ」


 そして、獣の咆哮と銃声が重なったのだ。


 欠けた月光が降り注ぐ夜。悪魔憑きの男は、半分壊れた少女レミリアと出会う。


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