第27話 さよなら


 騒動が落ち着いてから幾日が経過した。


 穏やかな日だったがパーク内は閑散とし、火山の崩れた山頂にはこれまで見たこともない巨大なサンドスターの結晶が太陽の日を浴びて輝いていた。麓からは見えなかったが爆撃機の残骸や不発弾は撤去もできず、そのままになっていた。


 シシンは爆撃が行われからしばらくしないうちに、鳥系フレンズ達の協力により問題も無く設置が行われた。さらには爆撃機スピリットから脱出した合衆国軍のパイロットまでもが鳥系のフレンズ達に助けられたのだった。けが人はいても死者はいなかった。



 国連と共和国の間で対応の協議が一段落する頃には各国メディアは様々なニュースやスクープを報じていた。

“共和国はフレンズ達を救った!”

“国連の暴挙!さらなるサンドスター拡散を招く”

“あわや、大規模紛争の危機”

“合衆国、セルリアン軍事転用疑惑”

“ユーラシア連邦、フレンズ部隊を極秘裏に設立か?”



 結果としては共和国の選択が正しかったようだ。だが、それでパークの平穏が戻ったわけではなかった。サンドスターρの拡散を食い止めることはできたが、サンドスター自体を封じ込めることはできていないのだから。さらには爆撃の影響で火山の噴火レベルも高まっていた。


 何より衝撃的だったのは、共和国政府がヒトの立ち入りを禁止してジャパリパーク運営再開を無期延期にしたことだった。なによりサンドスターの拡散を止めることが優先と判断されたのだった。そして各国と協力の上で平和的に対処にあたるということで国連とも折り合いをつけたのだった。


 ただ、フレンズ達は島内にとどまることとなり、パーク施設の維持とフレンズ達の管理は自律型管理システム ‘ラッキービースト’ により続けられることが決まった。



 ジャパリパークから全員が撤退することになる最後の日、空港には幾人かの職員のほか、ヒダカ教授らとパークガイドのミライ氏、イマニシ博士、それから合衆国のロペス博士の姿があった。

「みなさんお集まりですね」

 そこへパイロットのイワモト少尉がやってきて、皆に声を掛けた。

「全員、ジャパリパーク発の最後のフライトへご搭乗ですか?」

「いえ、私たちパーク職員はこれから港へ向かいます」

 ミライ氏は言った。

「私は直に調査船からヘリの迎えが来ますわ」

 ロペス博士も続けて言った。

「私たち三人だけだな」

 そこで教授が口を開いた。

「なんだ。各々の道を進むというわけですかね。それじゃ、こっちはコックピットに戻りますかね」

 なにやら残念そうに言うと少尉はそそくさとその場を後にした。

 それをきっかけに皆、幾つか別れの言葉をそれぞれ交わすと、ミライ氏やイマニシ博士ほかの職員は港へ向けて出発し、教授達も輸送機に乗り込もうということになった。


 教授達は輸送機に乗り込むと各自は座席に着いた。

「それにしても、なんでフレンズってヒトに似ているのかしら」

 教授の隣りに着席したミヤタケ研究員がぼそりと呟くように言った。何気ない呟きでしかなかったのだが、それを聞いた教授は、その瞬間何か衝撃を受けたかのような気分になった。

 そうじゃない。フレンズがヒトに似ているのではない、まったく逆だ。そもそも……この問いかけの可能性がまったくないなんて何故言える。我々人類、ヒトの存在が太古の昔にフレンズから分化したものだったのならば、ヒトのフレンズが発見されない理由もこれで……。

 そこまで考えたところで、教授は軽く首を振ってため息をついた。いやはや、我ながら酷い思い付きだ。疲れているな。そのようなこと思いながらも、

「これからどうなることか、我々自身ではなくフレンズ達が知ることになるなんてことにならないといいが……」

と教授は聞こえないほどの声でつぶやいた。


 教授はまだ何か考えをめぐらそうとしたが、その思いは断ち切られた。騒がしいエンジン音が機内にも周囲にも響きわたり、四つのプロペラが回転を始めたのだった。

 輸送機はゆっくりと滑走路に入り、加速すると空に舞いあがってジャパリパークを後にした。

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