第26話 撃破
巨大セルリアンはまさに崖から落ちようとしていた。ハチドリはLEDランタンを抱えて高いところを海の方に向かって飛んでいた。巨大セルリアンはランタンの輝きを見上げて、足元のことなど考えている様子も無かった。教授達は少し離れたところで、しばらく前からジープのライトも投光器も消して闇夜の中から行く末を見守っていた。
巨大セルリアンが崖の傍まで近づいたとき不意に地面が音を立て、ついに崖の先端が崩れ始めた。そしてあっという間にセルリアンは崖ごと海に落ちて行った。
「やったー!」「やったぞ」
それを見ていたフレンズ達や教授達は歓声を上げた。
「やりましたよ。今頃セルリアンは海中で岩になってる!」
エーレンベルクは勝ち誇ったように言った。
しかし、すでに空は明るくなり始めていた。そして彼らはまだ知らなかった。空港には輸送手段はおろか、シシンがまだ到着していないことを。
一方で合衆国海軍の空母ジュピターのCDCには爆撃機からの通信が入っていた。
「間もなく目標上空!」
「よろしい。これまでのところ地対空兵器が展開している様子はない。少々高度を下げるのは問題ないと思われる。確実に目標を爆撃してくれ」
ルイス中佐は淡々と指示を出した。
「了解した」
共和国に残された時間はもう無かった。
空港の周囲も明るくなり始めていた。お互いの顔を見とめたパーク職員達は憔悴しきっていることに気付いた。。
「巨大セルリアンはどうやら対処出来たようです」
教授たちから連絡を受けたミライ氏は言った。
「そうか、だがこっちは手遅れだな……」
イワモト少尉は腕を組んで明るくなった空の遠くを睨みつけていた。
空に小さな黒い点が現れたと思うと、それは次第に底辺のギザギザした三角形のような形をしているのが見て取れるようになった。爆撃機スピリットの姿だった。それは島の上空を一回りするとサンドスターの噴出している火山に向かった。
みんななすすべもなく成り行きを眺めていた。
爆撃機からパラパラと落ちる物が見えた。誰もが山頂に爆発が起きると思っていた。だが違った。火の手が上がったのは爆撃機の方だった。そして山の中腹へ墜ちていくと姿が見えなくなった。
「一体……なにが起きたんだ」
皆、何が起きているのか分からなかった。
そして、合衆国軍も何が起きたのか咄嗟には判断がつかなかった。爆弾投下直後、空母ジュピターのCDCには爆撃機のコックピットから耳を突くような警告音と、
「エンジン異常!」「攻撃された!」
と緊張したパイロットの声が通信が飛び込んできた。しかも「脱出する」という通信の直後、爆撃機との通信は途絶した。
あまりの出来事に理解の追いつかない空母ジュピターのCICでは、その瞬間誰もが手を止めた。だが、すぐさま各自は仕事を再開した。
「偵察機からの通信はどうした?」
「爆撃機、確認取れません!」
「空爆、効果は軽微の模様です」
「着弾は一発しか確認できません」
「どういうことだ?」
「山の中腹に不明機あり」
「一旦情報を整理しろ! 偵察機からは逐一現場の状況を連絡させろ。着弾については再度調査。それから、スピリットからの通信を再度確認してくれ」
ため息をついていた中佐のもとに部下の一人がやってきた。
「中佐、統合司令部から緊急連絡です。作戦を中断せよとのことです」
その部下は小さな声で言った。
「もう遅い。作戦は失敗だ」
中佐はそう言い返した。そのときCDCの大型モニターには偵察機からの映像が映し出されていた。そこにあったのは墜落したスピリットの姿があった。
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