第23話 トラブル
夕暮れに赤く染まるジャパリ島が見えてきた時だった。
「エンジンに異常」
イワモト少尉の相棒が言った。
「何だって?」
「エンジン異常、一基だけです」
直後、コックピットのパネルは様々なトラブル表示が現れ、警告音が響いた。
「まったく! クリスマスツリーだな」
「他のエンジンも出力低下!」
その時、ガクンと機体が下がったが、少尉は慎重に機体を安定状態に戻した。それでも普段よりも酷く揺れていた。
イワモト少尉の頭の中はフル回転を始めていた。どうすべきか? この高度なら滑空状態でも空港まで行けないことはないはずだ。だが、ジャパリ島はその異常な気候から上空の気流は見た目ほど穏やかではない。下手をすれば墜落しかねない。そうすればシシンまで失わてしまう。ただし、ここに乗っているのは空挺部隊だ。それにもうほとんどジャパリ島の上空だった。
「なにがあった!」
空挺部隊のミネキ隊長が声をあげていた。
「作戦の変更です!」
「どういうことだ?」
隊長が訊き返した。
「機体のトラブル! 今ならまだ制御が利く状態だ。パラシュート降下をすぐ開始してほしい!」
一瞬の間があったが、状況を理解したのだろう「分かった」と返事があった。それから、「予定変更だ。降下開始!」と部隊のメンバーに向かって声を上げていた。
機体後部の後部のハッチがゆっくりと開いた。後方の気流が乱れて、また機体が揺れた。
「急げ急げ! もたもたするな」
「地上で会おう!」
シシンの入った小型コンテナ共に部隊は手慣れた様子で外へ飛び出していった。
「俺たちも降りるぞ」
少尉と相棒も手早くパラシュートを身につけた。そしてオートパイロットに任せると、舞台に続いて輸送機の外へ飛び出した。
島の管制室にはミライ氏とイマニシ博士、ロペス博士の姿があった。
「どうやら輸送機はトラブルがあった模様です」
管制官は淡々とした様子で言った。
「大丈夫なのかしら?」
ミライ氏が不安げに訊いた。
「詳細を聞く前に通信が途絶しました」
そのとき、別の職員が
「機体、レーダーからロスト!」
と叫んだ。
「場所は?」
「火山の周辺です」
管制室に沈黙が漂った。
それから知らせを受けた教授達が管制塔に駆け付けた頃、管制室に置かれている電話が鳴った。
「どこからだ?」
「携帯電話からのようです」
電話は鳴り続けていた。
「とにかく出てみろ」
そう言われて職員の一人が電話を取った。
「もしもし?」
「あ、ジャパリ島管制室か?」
「はい、そうです」
「スピーカーに切り替えてくれ」
職員は不審に思いながらも電話をスピーカーに切り替えた。
「もしもし?」
「こちらはイワモト少尉だ。輸送機パイロットの」
管制室の全員が驚いた表情を浮かべた。
「なんとか無事だ。そこには今、誰がいる?」
「わたしは統括責任者のミライです。管制室にはスタッフのほか、ヒダカ教授達もいます」
「ああ、よかった」
「いったい何が起きたのです?」
教授が訊いた。
「どうも教授。エンジントラブル。原因は不明だ。ただ、シシンと部隊は墜落する前にパラシュートで降りてもらった。たぶん上手く降り立ったと思う。ただ夜なのが辛いな。俺も今地上に降りた。相棒と合流したとこだが、皆目場所が分からん」
「それなら僕にいいアイデアがある」
エーレンベルクが声を上げた。
「ドローンを飛ばして探そう」
「それと輸送機から飛び出したのは、ちょうど通信を断った場所と変わらないだろうからおおよその位置はそっちで予想ができると思う。充電の節約をしたいからそろそろ切る。この島にも基地局があって助かったよ」
そこまで言うと電話は切れた。
「シシンが無事なら、まだ間に合います。ギリギリまで手を尽くしましょう」
ミライ氏の言葉に、みなは力強く頷いた。
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