第21話 Take off

 期日が迫る中、ニッポニア共和国本土の某空軍基地のゲートに一台の車が輸送トラックを先導して滑り込むようにやってきた。いずれの車体も側面に小さな文字で生物・環境研究所技術局と書かれていた。載せていたのはもちろん完成したフィルター装置 ‘シシン’ だった。ゲートで急停車すると車に乗っていた職員が書類を突きだすように取り出した。ゲートの見張りは書類を一瞥するとすぐさまゲートを開けた。車列はタイヤをきしませながらそのまま駐機場に向かった。

 基地の滑走路には輸送機 ‘ヘラクレス’ がいつでも離陸可能な状態で待っていた。

「いそげ! 時間は少ないぞ」

 職員は急いでトラックから輸送機に装置を載せ換えた。


 フィルター装置は東西南北に各一つづつ設置する予定で、計四つだった。関係者の間で装置は ‘シシン’ と呼ばれていた。セルリアンの発生を鎮める神を司るような装置だとして ‘司神’ というわけだった。だが装置が四つあることから異口同音で ‘四神’ とも思っている職員がのほうが大多数だった。


 輸送機にはすでに空挺部隊の兵士たちも乗り込んでいた。国連軍(実質的には合衆国軍)が動き出すまでに残された時間は少なかった。そこでジャパリ委員会が考えだした方法はシンプルかつ大胆なものだった。ジャパリ島上空で ‘シシン’ ともに空挺部隊は火山にパラシュート降下、そしてパーク職員がつくった設置場所にGPSを頼りに設置するというものだった。

「さて、離陸しますか」

 操縦はイワモト少尉だった。

 共和国軍の輸送機はシシンの積み込みが済むと急いで基地を飛び立った。


 それでも当初予定していたよりも時間に余裕ができていた。そのため作戦は輸送機は一旦島の空港に着陸後、部隊とパーク職員が設置場所の詳細について確認をした後、再び離陸して山頂でパラシュート降下をするという手順に改められた。



 合衆国中部にある空軍基地の機庫の中には、真っ黒で尾翼が無い扁平な形の飛行機 ――いわゆる全翼機―― の姿が多数あった。戦略ステルス爆撃機の ‘スピリット’ である。ここは整備と修理も行なうことができる専用の基地だった。そのなかの一機は整備も終えて兵装も整え、いつでも出撃できる状態にあった。マーティンとミラーも既にコックピットに乗り込み、命令が下されるのを待ちかまえていた。


「命令が下りた。離陸せよ」

 基地の管制官の通信が聞こえた。

「了解」

 ゆっくりと滑走路へ出ると、エンジンがさら甲高い唸り声をあげた。そして二〇〇〇ポンド爆弾を十六発も搭載した爆撃機は速度を上げて滑走路から飛び立った。

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