第19話 守勢
ニッポニア共和国は国連議会に対して再度審議の要請をしていたが、まったく返事が帰って来ない状況だった。
それから、ニッポニア共和国海軍の空母 ‘ヤマシオ’ と護衛の駆逐艦二隻はジャパリ島近海に到着していた。空母のCDCは静まり返っているようすだった。
「艦長。どうやら呼びかけには応じていない模様です」
副官が報告した。合衆国の艦隊について、しばらく前からその所在を発見していたのだった。
「うむ、向こうさんが近づけば詳しいことは分かるだろう」
艦長はいたって冷静だった。
「どういたします?」
「どうもこうもなかろう。我々の任務はフィルターが間に合わなかったときにジャパリ島にいる研究者やフレンズを迅速に避難させることだ。近づいてくる艦隊と戦うことではない」
「ですが……」
「期日を過ぎれば国連軍、と言うより実質は合衆国軍なのだろうが、彼らに我々が手を出すことはできない」
艦長は静かに言った。
「ですが今のところどう甘く見積もっても、艦隊は期日よりも前にジャパリ島に到着することになります」
「なるほど、彼らは何か企んでいるとでも?」
「それは、推測でしかありません」
「まあ、目の前のことに専念するしかない。こちらが手を出さなければミサイルを撃たれることも無かろう。それにしばらくすれば‘お客さん’が来る時間だ。それまで少し休もうじゃないか」
艦長は軽く笑いなが言うと、いったんCDCを後にした。
一方のジャパリパークでは、セルリアンの対応にも追われていた。これまでのセルリアンに比べて、その大きさに圧倒されていた。建物ほどの大きさがあるものが見つかったのだ。ただ、その大きさゆえか動きが比較的ゆっくりだということが多少の救いだと思っていた。依然として脅威であるには違いなかったとしても。
パーク施設の会議室にはミライ氏をはじめヒダカ教授達三人とロペス博士、イマニシ博士と数名のパーク職員、それとブチハイエナやコヨーテ、ハヤブサ、他にもサーバルやカラカル、ハチドリといった多くのフレンズの姿も多数あった。
セルリアンの対応はミライ氏が中心となって進めることになった。
「とにかくセルリアンの小個体はサーバルやカラカル達といったフレンズ達に協力してもらい、イシを狙ってその数を減らしましょう」
「質問」
コヨーテが手をあげた。
「小さいのはパッカーンでいいかもしれないが、大きいやつはどうする? それと、黒い奴もやっかいだ」
「それは海に誘導します」
それを聞いてロペス博士は静かに頷いた。
「一言で誘導すると言ってもどうします?」
イマニシ博士が質問した。
「セルリアンに走光性があるなら、少なくとも夜間なら思い通りに誘導できるね。ジープに投光器を載せて走らせるか」
エーレンベルクが口をはさんだ。
「それより、何処へ誘導すつもりでいますか」
ヒダカ教授も訊いた。
するとミライ氏は会議室のボードにジャパリパークの地図を映し出した。
「ここがちょっとした崖になっています」
そう言いながらミライ氏はレーザーポインターで指し示した。
「そこまで巨大セルリアンを誘導して海に落とすというわけだな」
「そうです」
「まあ、夜間に誘導すると仮定して、ジープが走れなかったり、崖の向こう側へはどうやって誘導する?」
「鳥のフレンズに手伝ってもらうのはどうかしら」
ロペス博士が言った。
「それならハチドリが適任だ。こいつは後ろ向きにも飛べるし、小回りも利く。まあ一番早く飛べるのは私だがな」
ハヤブサが得意げに言った。
「とすると投光器以外にも明かりが必要だな。といっても懐中電灯じゃ、なんかしっくりこないな」
エーレンベルクがぼやくように言った。
「これが使えるかもしれないです」
そのとき、ミヤタケ研究員がどこからかランタンを取出した。
「なんだぁ、ランタン?」
「ただのランタンじゃないですよ。LEDランタンです。お洒落でしょ。結構明るいんですよ、これ」
「まあまあ、とにかく昼間はその巨大セルリアンの場所を常に監視して、夜になったら使える明かりを使ってジープとフレンズ達で誘導するということでいいですか」
ヒダカ教授が上手く概要をまとめる発言をした。
「そうですね。あとは必要な道具の準備と各自の役割を決めましょう」
ミライ氏は張り切った様子だった。
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