第17話 皆は動き始める

 パーク職員を中心にヒダカ教授達にロペス博士のメンバーも加わって、フィルター設置をめぐる動きは加速していた。それだけにとどまらず、避難が完了していない民間人の誘導、フレンズ達の安全確保、なすべきことは多かった。特に固定型サンドスター濃度計の設置は数が多く、人手が必要だった。これが無ければシシンを設置しても結果がどうなったか分からないからだ。ちなみにこれらにはラッキービーストとのデータリンクシステムも組み込まれており、万が一の場合に島全体に警報も出すことが可能だった。

 もっとも、フィルター設置場所の準備はさほど時間はかからなかった。山の中腹へ正確に東西南北に、同じ高さにしっかりとした基礎をつくるだけのことだった。それからそれぞれの座標を記録し、後は設置部隊がGPSを頼りに設置するだけだった。

 慌ただしくもあるそんな中、パークの各所で巨大セルリアンの目撃が相次いだ。しかし今度は、パーク職員たちはセルリアンの弱点がイシだけではないことを知っているのだ。

「ロペス博士のおかげです。今度は巨大セルリアンにも十分な対策がとれます」

 ミライ氏は自信たっぷりに言った。

「パッカーンだけじゃなくて、海にドッボーン! だね」

 フレンズ達もミライ氏につづいた。



 一方の生物・自然環境研究所 ――特にその中の技術局―― では、職員達がサンドスターρの拡散を止めるフィルターの開発を急いでいた。

「設計は出来上がってます。システムとしてもほぼ完成。ですが、外装を含めて実用レベルに組み立てて試験をして……えーと、一か月は掛かりますよ」

 エンジニアの一人はぼやくように言ったが、成すしかなかった。それにウダ局長も

「何としてでも一週間以内に完成さないといかんのだ!」

と各部署に言って回っていた。



 合衆国海軍の空母ジュピターではルイス中佐が合流した。

「オペレーション・シャイニング・スピリットを開始する」

 これから司令基地となるジュピターのCDC ――戦闘指揮所―― で宣言した。

 そして決議の期日が来るのを待たずして合衆国軍の空母部隊はジャパリ島に向かって動き出したのだった。



 ニッポニア共和国政府にも動きが見られた。

「現段階でサンドスターρに関してはフィルターが完成しつつある。再度国連議会での会合を要請する。それからジャパリ島に海軍部隊の派遣を用意をしている」

 首相は会議の場で述べた。

「国連への会合要請は分かりますが、軍の出動はどういうことでしょうか」

「国防大臣、説明を頼む」

「はい! 現在、状況は逼迫しております。我が共和国近海の北部にはユーラシア連邦の艦隊、東からは合衆国と思われる艦隊が現在こちらに向けて航行中です。これがなにを意味するか、国防諜報部の見解では国連は我が共和国が対策を打ち出せないであろうと踏んだ上で、軍事行動を既に開始している。とのことであります」

「そんなばかばかしい……」

 誰かが呟くように言ったが国防大臣は構わず続けた。

「もちろん、これは現状を述べたにすぎません。部隊を派遣する一番の理由は研究者及びフレンズ、我が共和国の財産の安全確保のためであります」

「だとしても軍を動かすのは大げさだ」

 いつも慎重派に徹する議員の一人が言った。

「しかしながら、もしジャパリ島に空爆が行なわれることになった場合、研究者及びフレンズを速やかに保護収容退避を行なうことが可能なのは現在ジャパリ島近海に展開している空母ヤマシオの部隊のみなのです」

 会議では有無を言わせず軍の出動を認めるさせることとなった。

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