第16話 ジャパリパークにて

 国連議会での決議を受けた共和国政府は、ひとまずジャパリ島に滞在している民間人に対して避難命令を発令した。



 国連での決議があってからというもの、パーク中が慌ただしい様子だった。ただ、今のところヒダカ教授達のいる場所はいつものような穏やかな時間が流れていた。

「これからどうしますかねぇ」

 エーレンベルクは騒ぎも気にかけない落ち着いた様子でいた。一方でミヤタケ研究員は、

「教授、私たちはどうするんですか?」

とやや不安げに質問を投げかけた。

「それだが、少し話があるんだ」

 教授はまだミヤタケ研究員やエーレンベルクには話していなかったが、ヒダカ教授はジャパリ委員会のことやサンドスターρの回収フィルターについての計画などをウダ局長から聞いていた。それにウダ局長と教授は古くからの友人で、このサンドスター騒ぎが起きてからは頻繁にメールで連絡を取り合っていた。


「なるほど、そのフィルターを山頂に設置すればすくなくともセルリアンの原因であるρの方は拡散を止めることができると」

 教授がこれまでの経緯をかいつまんで話すと、エーレンベルクは納得したようなようすだった。

「そうだ。それでジャパリ委員会からここに残って協力をするように頼まれている。ただ、状況が状況だ、危険が伴う。ミヤタケ君、エーレンベルク君、島に残るかどうかは君達自身の判断に任せる。いや、むしろ島を離れるべきだと思っている」

 教授はそう言ったが二人ともあっさりと返事をした。

「僕は残りますよ」「そんなこと、私だって残りますよ」

 それから二人は付け加えて言った。

「こんな、おもしろそうな状況で逃げるなんてもったいない」

「それに教授、ジープの運転手は必要ですよね」

 二人はこの状況を楽しんでいるようにも思えた。この返事に教授は小さくため息をついて苦笑した。

「何となく、予想はしていたよ。だが気をつけるんだぞ」

 その時、教授の携帯電話が鳴った。電話してきたのはイマニシ博士だった。至急パーク施設に来てい欲しいとのことだった。そしてヒダカ教授達は急いでジープに乗り込むとイマニシ博士のもとへ向かった。


 パーク施設に到着すると、そこには見覚えのある女性が居た。

「ロペス博士ではありませんか!」

 教授はジープから降りると同時に声を上げた。

「ついさっき海洋調査船からヘリコプターに乗って来たところなんです。それから、少なくとも一時的にセルリアンの封じ込めを可能とする方法を見つけました」

 その時、イマニシ博士が出迎えにやって来た。もう一人パーク職員の姿もあった。

「教授!よく来てくれました」

「ああ、ジャパリ委員会から頼まれて断われるわけないね。それから、そちらの方……」

「どうも初めまして、私はパークガイドの統括責任者をしているミライです。ヒダカ教授、お名前はイマニシ博士から伺ってます」

 ミライ氏は手早く自己紹介をした。


 パーク施設の中の狭い会議室はさしずめ混雑した電車のようだった。パークガイドのミライ氏やイマニシ博士にヒダカ教授達、ほかパーク職員、まだ島に残るっている研究者、好奇心旺盛なフレンズまでも集まっていた。そんな中でロペス博士は話し始めた。

「重要な点だけ簡潔に話します。イシと呼ばれる部分がセルリアンの弱点であることは皆さんご承知のことと思います。

 きっかけはセルリアンの分布でした。山のサンドスター濃度の高いところを中心に数が多かったのですが、間欠泉が見られるところや海岸付近にはほとんど見れらません。それから、海洋生物のフレンズ化現象が見られるのに対して海洋上及び海中ではセルリアンの発見に至っていません。これが何を意味するのか?少なくともセルリアンが水または海水を苦手としているのではということでした。我々はすぐさま実験を行ないました。ジャパリ島近海の海水にセルリアンを浸したとき、セルリアンは岩石状に変化して活動が見られなくなりました。ただ、これが永続的なものであるかは不明です。何らかのきっかけで再び元に戻る可能性もあります」

「一時的だとしても無力化ができるというわけか」イマニシ教授が言った。

「そうです。ただここで重要なのは、ある一定濃度のサンドスターが含まれる海水でなければならないということです。残念ながら、通常の海水や水ではまったく変化は見受けられなかったのです。それから付け加える程度のことですが、走光性を持っていることも分かっています。もっともこれは生物としてみたらごく普通の事と思われます。ただ、お力になれないのはサンドスターの拡散を止めることです。まだ、詳細の解明にも至ってません……」

 ロペス博士は少し申し訳なさそうに言ったが、「セルリアンに対する対策が見つかっただけでも、パークにとっては大きな前進です」とミライ氏は付け加えた。

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