第15話 国連の声明

 国連 ――国際協調のための連盟―― は世界に向けてサンドスターに関する懸念を表明した。

「現在までサンドスターの影響はニッポニア共和国のジャパリ島周辺だけであると考えられていました。しかしながら合衆国研究機関の報告によると、火山から噴出するサンドスターは気流により広範囲に拡散してることが確認されました。また、島内での濃度上昇も見られるとのことでした。そして少ないながらもジャパリ島以外でのフレンズ化現象およびセルリアンの目撃事例も報告されています。特にセルリアンの発生は生態系及びヒトへの悪影響が懸念されています。国連としてはニッポニア共和国政府がこの件に対し早急な対応策の協議およびその実行が行なわれることを強く希望します」


 この突然の声明は、ニッポニア政府にとっても研究所にとっても衝撃的だった。もっともジャパリ委員会のメンバーや一部関係者にとっては予想できていたことだった。ただ、これほど早い段階で声明が発表されたことや、合衆国がサンドスターに関する多くの情報を持ていると予想さることには少々の驚きを感じていた。


 そして国連議会の場で、合衆国の呼びかけで関係各国が集まり、緊急会合が開かれた。

「サンドスターの拡散を止めるには、パークの山を巨大なドームで覆うしかないでしょう」

「そんなのは非現実的だ。建設にどれだけ時間がかかると思っているんだ!」

「山頂を崩壊させて埋めるというのはどうだろうか」

 各国代表からは好き勝手な発言は上がったが、遅々として話し合は進まなかった。

「みなさん、少し落ち着きましょう。ニッポニア共和国は何かアイデアをお持ちですか?」

 議会の進行役でもある合衆国代表のグッドウィン氏が場をたしなめた。それから、皆の視線が共和国代表に向けられた。

「えー、現在、我が国では、サンドスターの性質を利用することによる……」

「失礼だが、要点を簡潔に言ってもらえるかね?」

 オセアニア諸島代表の苛立ちのこもった声が割って入った。

「山頂にフィルターを設けて、拡散を止めるという研究を進めております」

「なんだ、それではドームを作るのと変わらんじゃないか」

「ええ、ですが、」

 共和国代表が続けようとしたが、そこで欧州の代表の一人が、「フィルターだの、巨大なドームなど、この緊急を要する現在においては非現実的じゃないのか?」とはっきり述べた。

 またしても場が荒れそうだと思ったグッドウィン氏は大きな咳払いをした。

「よろしいですか、皆さん? 確かに自体は緊急を要していることは事実です。ですが少し落ち着いて考えましょう。少なくとも我が合衆国政府の見解としては、爆撃により山頂を崩し、さらに上空から航空機でコンクリートや樹脂を撒いて火口を埋める。これが最善かつ現実的だという結論に至っております。いかがですか?」

「まあ、確かに……」

 他に有効と思われる手段が無かったため各国代表は仕方なく頷くしかなかった。

「しかし、問題が起きているのはニッポニア共和国領内です。最終的には共和国に決定してもらわなければならない。あくまで我々は民主的に物事を決める必要もあるのです」

 それからグッドウィン氏はニッポニア代表の方を向いた。

「そうですね?」

「でしたら、もう少しお時間を」

「猶予は無いんだぞ!」

 またヤジが飛んできた。

「まあ、皆さん落ち着きましょう。この会議後からきっかり一週間! これでどうです? それまでに対策を講じるか、この議会の決定を受け入れるか、そのどちらかです」

「わ、分かりました」

 ニッポニア代表は渋々受け入れるしかなかった。グッドウィン氏が発言した一週間という期間は合衆国政府から指示されていたものだった。合衆国の計画する軍事行動のため、準備を見越したギリギリの長さだった。

 とはいえ、グッドウィン氏としてはニッポニア政府がそのフィルターとやらを完成させてくれることを祈っていた。ヒトはその叡智で持って事態を解決できるはずだ。軍を出動させたり、爆弾を使うなどという方法が賢いとは言えないと、彼自身は考えていた。



 国連での会合の報告を聞いた合衆国政府内では、「あのような決定でよかったのか?」との声が聞かれた。

「どのみち共和国は手を打てない。それに部隊派遣の用意は既に始まっている」

 大統領はそう言いった。

「それにここ最近ユーラシア連邦の活動も活発になっている。彼らにサンドスターを渡してやる義理も無い」

 軍参謀の一人は答えた。

「それから国連有志軍を名乗った方がいいかと思われます」

 ある高官はそのような一言を放った。


 つまりは、国連での会合は茶番に過ぎなかったのだ。合衆国による軍事作戦は着々と準備が進められた。もっとも合衆国としてはこれ以上共和国や他国がサンドスターを手にするような事態は防ぎたいという本音があるのも事実であったのだ。

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