第13話 共和国の対応

 合衆国政府はサンドスター及びセルリアンの問題に関してニッポニア政府はまったく対策を執れていないと感じていたが、実際には違った。共和国政府はサンドスター騒ぎが始まってから専門組織を極秘裏にかつ非公式に設立していたの。ジャパリパーク関係者はもちろんのこと、生物・環境研究所、経済界、外交、はては国防関係といったところからも人員が招集され、各方面から情報を収集して共有・統合を行なう組織であった。非公式にジャパリ委員会とだけ呼ばれていたが、そのまま定着してしまった。


 その中で、サンドスター対策室長を任されたイシイは生物・環境研究所の技術局に向かっていた。彼は学生のころはエンジニアを目指していたが、大学卒業後は生物・環境研究所の研究員となり、後に環境問題対策に関する政府機関の職員に転向、そしてこのサンドスター騒ぎが起きる中、ジャパリ委員会のメンバーの一人に選任されたのだった。


 技術局のエントランスには、青と白を基調とした色彩をあしらったヒトの膝くらいの高さで、大きな耳と尻尾が特徴的なロボットが受け付けをしていた。

 近づいてくるイシイの姿を認識すると、「ようこそ。ここは技術局の受付だよ。僕はラッキービースト。御用件をどうぞ」と愛らしい口調で喋った。


 受付をヒトがする時代は終わりが近いかな。それにしてもなかなか面白いものをつくったものだ。そんなことを思いながらイシイは要件を伝えた。

 しばらくすると足音が聞こえてきた。

「イシイ君! よく来たね」

 元気のよい声が聞こえたと思うと、そこに現れたのは技術局局長のウダ氏であった。ウダ氏はイシイ氏が自然・環境研究所にいた頃の上司であった。ウダ氏はユーモアに富みいつも溌剌としてしてが、歳をとった今でもそこは変わらないようだった。

「いえ、こちらこそ時間をつくっていただき面目ない」

「いや、構わん構わん。それより受け付けはどうだった?」

「さっきの受け付けのロボットですか?」

「そうだ。あれは今は試験運用中なんだが、ジャパリパークにガイドとして導入するつもりのものだ。なんせパークにしてみれば人件費も馬鹿にならんそうだからね。それに島に常駐させることのできる人数だって限度がある」

「なるほど……」

「それにしても、わざわざ研究所に出向いてくるなんてどんな情報だね?」

「サンドスター拡散に関することで、合衆国は国連にある書簡を提出したそうです」

「内容は?」

「サンドスター及びセルリアンの拡散が与える影響についてです。まあ、少なくとも快く思ってることはないということです。サンドスターですら脅威だと」

「なるほど、そうか。といってもそういう考えが出て来ること自体はおかしくはないことだ」

「ただ、懸念すべきは状況が我が共和国に限らないということがことさら強調されている点かと」

「たしかに、フレンズ化現象がテーマパークの中だけならまだしも、世界に広まると考えれば、そりゃ騒ぎも起きますわ」

「大々的に国際問題になる前に対策を打つ必要があるのです」

「サンドスターの拡散を防ぐということか」

「そうです」

 ウダ局長は少し考え込んだ様子をみせた。

「少なくともサンドスターρに関して言えばある程度目処が付く」

 すでに本土の研究所でも、ヒダカ教授からもたらされた情報からセルリアンの構成要素と考えるサンドスターρの名称が使われるようになっていた。

「それは本当ですか?」

「ああ実は今、新たなサンドスター濃度計の開発をしている。これは大気を電気的フィルターにかけて空気中に含まれるサンドスターの量を測定しようというものなのだが、問題が無いわけじゃない」

「どんな問題なのです?」

「フィルター部がすぐに目詰まりを起こしてしまう」

「それがどう関係するのです?」

「目詰まりを起こしたところ調べると、サンドスターρのサンプルと一致する物質が出てきたそうだ」

「なるほど、つまりはそれを応用すればサンドスターρの回収が可能となるわけですか」

「もちろん言うは易しだね」

 ウダ局長はたしなめるような口調だった。

「ですが時間は少ないのです。できれば全ての研究を後回しにしてフィルターを最優先していただきたいのです」

「うむ、出来る限りの手は尽くせるよう、部下を急っつかさんとな」

 ウダ局長はニヤリと笑ってみせた。

「問題は我が国だけに留まりません」

「それは分かっている。必要なことは任せてくれたまえ」

 最後にウダ局長は真剣な表情を見せて応えた。

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