第12話 ひと休み

 ジープは山の麓を過ぎ、開けた平地にでても走り続けていた。だが、しばらく進んだ頃だった。

「少しエンジンを休めましょう」

 ミヤタケ研究員はそう言うとジープのアクセルを緩めたようだった。良く見ると水温計の針はレッドゾーンに入る手前のところで踊っていた。

「あそこの大きな木の下なら多少は涼めそうだ」

 エーレンベルクが指を指しながら言った。荒涼とした開けた中に幾つか大きな木が立っているのが見えた。

「セルリアンは流石に追いつけなかったようだな」

 教授は汗をぬぐいながら周囲を見渡した。教授達三人と二人のフレンズはやっと一息つくことができた。


 セルリアンから逃げる教授達の前に現れたのはブチハイエナとコヨーテのフレンズだった。ぐったりと疲れ果てた様子で背負われていたのはコヨーテだった。

 彼女らもセルリアンから逃げていたのだ。そこにたまたま教授達の乗ったジープが現れたということだった。

「あやうく、やられるかと思ったよ」

 意識を取り戻したコヨーテが言った。

「あの黒いセルリアンは厄介だ。何処までもつけまわしてくる。それにブチハイエナがいなかったらあぶなかったかもな」

 コヨーテの話によると、黒い色をしたセルリアンはそれまでのセルリアンの中で最も活発に動き、高い再生能力、認識力、大きさ、どれもこれまでのものより勝っているようであった。さらに、フレンズからの又聞きではあるがセルリアンの性質について一つ分かったことはフレンズをオリジナルの動物の姿へ戻す能力があるということであった。

「それにしてもヒトはすごいな。こんなものを持っているなんて」

「そう言えば、あの ‘ゆそうき’ っていう空を飛ぶのはヒトがつくったハヤブサから聞いたよ」

 ブチハイエナも言った。

「こんなのがあればセルリアンから逃げるのに苦労しないな」

 それを聞いていたエーレンベルクは、「闘わないんですか?」と軽い気持ちで訊いた。

「たたかう? まさか、さっきみたいなセルリアンならまだしも、普通は逃げるのが一番さ」

 コヨーテは不思議そうな顔をして言い返した。

「そう言えば、ヒトはセルリアンをわざわざ捕まえたって聞いたことがあるんだけどほんとう?」

 ブチハイエナの質問に、教授は表情に出さなかったものの軽いショックを受けた。ナタリー・ロペス博士の文章の事が頭をよぎる。

「まあ、いろいろ調べることがあるからね」

 ミヤタケ研究員が呑気に答えた。

「ブチ、ヒトはかりごっこが好きなんだよ、きっと」

 コヨーテはどこかピントのずれた納得をしていた。だが、教授からするとそれは、なんだか皮肉を言われているようなそんな気がしていた。

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