第7話 少尉とフレンズ
少尉は駐機スペースでエンジンを止めて給油作業が行なわれている輸送機 ‘ヘラクレス’ を同僚と眺めていた。そのとき少尉は主翼の上で動く人影を見つけた。最初は点検作業員かと思ったが、それは見ることができるのは本土の基地だけだった。つまり、輸送機の主翼の上で今、エンジンをまじまじと見ている人影は部外者と思われた。
「おいっ、誰だ! そこ!」
イワモト少尉は人影に向かって叫んだ。
すると人影は一瞬、動きを止めたかと思うと突然に空に飛び上がった。そして少尉の近くにゆっくりと舞い降りてきた。驚いていた少尉は、そこで初めて、人影がヒトではなく、鳥のフレンズだったということに気が付いたのだった。
「すまないな。いちど近くで、ゆっくり見てみたかったんだ」
そのフレンズは、まったく動じた様子も無く言い放った。
「き、君は……」
突然のことに少尉と同僚の二人は驚いた。
「私はハヤブサだ。空を飛ぶスピードでは誰にも負けない」
それからハヤブサは少尉たちの態度にはお構いなしといった様子で続けた。
「それにしてもヒトはこんなもの、どこで手に入れたのだ? 遠くからいつも見ているが、すごいたかさをすごいはやさで飛んでいるが……」
「これは合衆国の航空機メーカーが半世紀も昔に開発し、現在まで改良され使われ続けている輸送機でありますよ」
同僚がどこか冷静な解説をした
「うう、むずかしいことはよく分からん」
「まあ、ヒトが作ったてことだ。一言で言えばな」
同僚の平静にも少々驚きながら少尉が加えて言った。
「つくった?! ヒトがこれをつくったのか?!」
ハヤブサは今にも飛び上がらんばかりに驚いた様子だった。
「なんと……じゃあ、これはどれほどのはやさで飛ぶのだ?」
「最高速度だったら時速六〇〇キロ程度だな」
どうやらフレンズは専門的なことは分からないようだった。ハヤブサはその言葉にきょとんとした顔をしていた。
「そ、それはどのくらいはやいのだ?」
ハヤブサはさらに訊いてきた。少尉はどう答えたらいいかな? と言った顔で同僚の方を向いた。
「えー、ハヤブサは確か、水平飛行でも時速百キロで飛べるとか聞いたことがあります。とすれば、この輸送機はハヤブサの六倍速い速度で飛ぶことができるということになりますね」
同僚は律儀に答えた。だが、それを聞いたハヤブサはさらにショックを受けている様子だった。
「わ、私の六倍もはやいだと・・……ま、負けた」
「まあまあ、気落ちすることはないんじゃないかな」
少尉は内心、何を競っているんだよと思いながらも、そう声を掛けた。
「そうです。ヒトは生身じゃ飛べないでありますし」
同僚も言った。
「そ、それもそうだな。私はこんなものに頼らなくても飛べるのだからな。だが、この ‘ゆそうき’ とやらには負けんからな。それから、こんなものをヒトがつくったなんて……さっそく他のフレンズたちにも教えなくては」
何やらぶつぶつと呟きながらハヤブサはまたどこかへ飛び去っていった。
「あの子、また来ますかね?」
空の遠くに小さくなっていくハヤブサの姿を見ながら同僚は言った。
「さあな」
少尉は輸送機の方を見ながらつまらなさそうに応えた。
「自分はまた来る方に賭けるであります」
「それより、仕事に戻ろう」
輸送機の給油作業は、どうやら終了していたようすだった。
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