第4話 到着

 窓の外に見える景色は朝からどんよりとしていた。ジャパリ島には小雨が降り始め、少し風も吹きはじめていた。

「陰鬱な天気ですね」

 ミヤタケ研究員が窓の外をみながら言った。それから向き直ると、「教授、今日はサンプル採取には行かないんですか?」とパソコンに向かっているヒダカ教授に訊いた。

「ああ、天気が不安定のようだし、今日は別の予定もある」

「そうですか。それにしても教授、何を見ているんですか?」

「先日のセルリアンだ。ジープの車載カメラにばっちり映っていたよ」

 ミヤタケ研究員も教授の横に並んでパソコンの画面を覗きこんだ。拡大された映像には、あのとき見た黒い物体が映っていた。

「いいか、ここだよ」

 教授がそう言って映像をスロー再生した。

「ここだ」

 教授は映像を止めると指をさした。

 そこにはセルリアンのあの特徴的な眼がはっきりと映っていた。

「なんだかこちらを一瞥したような感じですね……」

「そうだな」

 教授は口には出さなかったが、何か気味の悪さを感じていた。


 教授達がそんな会話をしているとき、ジャパリ島から離れた沖合の上空では輸送機がジャパリ島へ向かっていた。パイロットは、もはや専属となっているイワモト少尉であった。コックピットと管制室の間でやりとりが交わされていた。

「こちら、輸送機 ‘ヘラクレス’ ジャパリ島定期便。管制室どうぞ」

「こちらはジャパリ島管制室」

「そちらの天候は?」

「雲が低く垂れこめている。加えてやや南風強し」

「了解」

「今後、天候悪化が見込まれる。飛行に気を付けたし」

「気づかいに感謝する」

 輸送機の機内には今回も輸送物資が沢山積みこまれていた。だが、またしても一人の乗客の姿があった。研究所・技術局からの派遣人員であるエーレンベルクだった。

「なんだって、もう……僕がニッポニア語が堪能だからって現地のジャパリ島に行かないといけなんだ。まったく、確かにサンドスターの研究に携われると聞いて、わざわざ欧州から来て参加を決めたのは自分自身だし、濃度計の製作に関わって、機械の使い方も分かっているけど、普通なら当事国のエンジニアが現場に立ち会うべきじゃないのか」

 彼はため息をついた。

「はるばる欧州から来たというのに、ニッポニア文化を堪能する時間もないなんてがっかりだなぁ」

 エンジンの騒音が満ちた機内で、エンジニアのエーレンベルクは小声でぶつぶつと愚痴をこぼしていた。

 それから、再びため息をつくと、深く深呼吸をした。

「まあ、なったことは仕方ない。少なくともサンドスター濃度計がその能力を発揮する瞬間に立ち会うわけだし、それで良しとするか……」

 嘆いていてもしょうがなかった。エーレンベルクは気持ちを切り替えるほかなかったのだ。

 しばらくの後、輸送機は着陸態勢に入った。

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