第14話
本格的な冬が始まり、俺はまたひとつ年をとった。
この魔境の管理を始めてから初めての冬だ。
ケーユカイネンはあいかわらず鎖国中なのだが、実情としてはかなり忙しくしている。
……というのも、俺が病魔兵器に仕立て上げた亜人や妖精共が元の主から拒否されてしまい、全員行き場をなくしてこの領地にやってきたからだ。
何をしたかまでは知らないはずだが、何かを仕掛けたことだけは感づいたらしい。
まぁ、最初から計算済みの話であるが。
そんなわけで、人口が一気に三万人も増えてしまったことで、現在は戸籍の管理が非常に大変なことになっている。
……とは言っても、この国の官僚共ほどではないだろうがな。
年末から俺の仲介により始まった帝国との交渉は、なかなか難航しているらしい。
なにせこの国の貴族や官僚の連中は欲の皮が突っ張っているからな。
帝国に飲み込まれることは仕方が無いと認識しているだろうが、その中でなんとかしていい条件を引き出そうと躍起になっているに違いない。
すでに帝国の傘下においても、この国の自治を認める旨の言質は取っているらしいが、それが彼らの外交の成果ではなく、単に俺がそうシナリオを書いたからだということをどれだけの人間が知っているだろうか?
なお、同じようなやり取りは西の国とも行っており、その敗戦国に優しい配慮ゆえに抵抗や混乱が少なかったのは幸いである。
「ねークラエスぅ。 アンナとテレサの事は書かなくて言いのぉ?」
「人の日記を後ろから覗くな。 趣味が悪いぞエディス」
……あまり記憶に残したくはなかったのだが、連邦制を受け入れるかどうかでゆれている中、アンナとテレサが帝国に嫁いでいった。
花嫁衣裳に身を包んだ二人はこの季節に舞う風花のように清楚で美しく、何も知らない奴に天から舞い降りた女神であると言ったらうっかり信じてしまいかねなかっただろう。
あとは我が親友の手腕に期待するのみだ。
まぁ、俺がこんなことを言うのもどうかと思うが、出来ればあの二人には幸せになってほしい。
そして幸せというならば、もうひとつ書き記すべき話がある。
実は、ケーユカイネンの人口が三万を超えたことにより、連邦に所属する属国のひとつとして独立することになったのだ。
人間が俺一人しかいないという、世界初の亜人と妖精のための国家である。
なお、あまり乗り気ではないのだが、俺が公王ということらしい。
今、悪魔は一匹いるが人間は一人もいないと考えた奴。
……おぼえとけよ。
「父上! お暇でしたら、新しい計画についてご意見を伺いたいのですが!」
そんなことを考えていると、ドアが開いて息子が飛び込んできた。
手にはなにやら紙の束が握られている。
「ご意見って……例の奴か?」
「はいっ!」
最近のラウリは、世界征服のためにいずれ生まれるであろう(……と本人はなぜか確信している)帝国の姫を狙っているらしい。
そのために、最近は女性を口説く方法をというものを研究し、俺の書いた恋愛小説をつぶさにチェックしているのだとか。
我が息子ながらブレない奴だが、それで口説かれる女はたまったものではないだろうな。
今のところ、双子の妹であるヘリナからは大いに不評なようである。
だが、性格はともかく頭と顔だけはいいので、計画しだいで本当に帝国をのっとって世界を支配してしまうかもしれない。
とまぁ、そんな日々を送りつつ、気が付けば建国の式典が開かれるまであと少しという時期になってきた。
だが、好事魔多しと言う奴はまさにそのとおりで……。
事件が起きたのは、降り積もった雪も溶け、そろそろ春だなと肌で感じられるようになったころのことである。
その日、国家樹立の式典を祝うため、このケーユカイネンに帝国からの使者がやってくるとの連絡があった。
本当は皇帝自らがここに来たかったようなのだが、本人からの手紙によれば一国を特別扱いすれば他の国も同じことを求めるだろうという臣下の説得を受けたために泣く泣くあきらめたらしい。
なお、同じ手紙に書いてあったのだが、テレサとは現在かなりいい仲になっているらしく、最近は他の側室や寵姫からのやっかみが激しいのだとか。
だが、なぜか一緒にとついでいったはずのアンナについては一言も記されていなかった。
……どういうことだ?
恐ろしく嫌な予感に、背中をつめたい汗が伝う。
そして、その答えは帝国の使者が訪れると共にもたらされた。
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