第13話

「クラエス様、耳長共が全員意識を失ったそうです」

「ご苦労。 予想以上にあっけなく始末がついたな」

 報告にきたオークの声に、俺は書きかけの書類から目を話して顔をあげた。


「ビヤーキたちにテレプシコラを除去させろ。

 あと、途中で意識を取り戻すかもしれんから、対応は慎重にな。

 基本はマニュアルどおりの対応でいい」

 未経験のトラブルには弱いが、それでも場数だけは多く踏んでいる連中である。

 気絶したフリをして奇襲を仕掛けることぐらいはやりかねない。


 やがて捕縛されたエルフたちは、男女問わず全員が丸裸の状態だった。


「なにもここまでしなくてもいいんじゃないか?」

 鍛え上げられた男エルフたちの裸体から顔を背けつつ、アンナが顔を真っ赤にして俺を非難する。

 おまえ、見ていない振りしながら横目でチラチラと見ているのに俺が気付かないとでもおもったか?

 意外といやらしい奴め。


「愚問だな、アンナ。

 精神的に追い詰める上でも、仕込み武器を取り上げる意味でも裸にするのは有効だ。

 事実、ダークエルフの暗殺者はケツの割れ目に毒針の入った鞘を隠し持っていたらしいぞ」

 俺がそう告げると、その当人であるダークエルフは床に胡坐をかいたままニヤリと笑った。

 ……たいしたブツを持っているわけでもないのに、やけに堂々としてやがる。

 まぁ、それは隣にいるエルフの剣士も同じだがな。


「うひょひょひょ、なかなかいい趣向ではないかクラエス・レフティネン。

 人のなりそこないとはいえ、エルフやダークエルフの女たちも見た目だけは美しいでしゅねぇ」

 少し離れたところでは、ブタ伯爵がエルフの女たちに向かって食い入るような視線を向けている。

 万が一が怖いから奥に引っ込んでいろといっているのに、てんで聞きやしない。


「……俺たちは別にいいが、せめて女たちには体を隠す布を恵んでやってくれないか。

 いくらなんでもアレはあんまりだ」

「お前らが俺の質問に素直に答えるならな。

 おい、こいつらの体を隠す布を全員分持ってきてやれ」

 代表であるエルフの剣士がうなずいたのを確認し、俺は配下のゴブリンに指示を出す。


「おい、女の裸に見とれてないでさっさとしろ」

「え……あー、はい、旦那」

 ゴブリンは未練たっぷりにエルフの女たちに目をやると、俺の視線に追いやられるようにしてしぶしぶ布を取りに行った。


「さて、色々と質問に答えてもらおうか」

「その前に……クラエス、個人的にお前に言いたいことがある」

「一応、聞こうか」

 困ったことに、奴のいいそうなことには思いっきり心当たりがあった。

 そしてエルフの剣士、パシ・カレヴィ・アハマヴァーラは憎しみよりも強い悲しみを目を浮かべながら俺に告げたのである。


「クラエス・レフティネン。

 いいかげんに、エルフの森にきて父親としての義務を果たせ。

 妹を……ミルカと子供たちをいつまで待たせる気だ」


「子供!?」

 アンナとエルフたちを除いた全員が、驚きとともに聞いてはいけないものを聞いた顔をする。


 そう、たった一度の交わりであるにもかかわらず、ミルカは一度に二人の子供を身ごもっていたのだ。

 しかも俺の先祖にエルフがいたらしく、二人とも純粋な森エルフである。

 もっとも、一度も顔を見たことは無いがな。

 驚かないところを見ると、どうやらアンナは最初から俺に子供がいることを知っていたらしい。


「俺に父親なんか務まると思うか? 悪い冗談だ。

 こんな男が隣にいるなど、どれほど教育に悪いと思っている!?

 何度も言わせないでくれ」

 だが、パシの奴はまるで出来の悪い弟を見るような目で俺を見つめる。


「それでもお前は父親だ。 愛し方がわからないというなら、最初から学べばいい」

 ……これだからこいつらは嫌いなんだ。

 俺のことを憎みながらも、なぜか家族として迎え入れようとする。

 お前ら、エルフといえば排他主義の代名詞だろ!

 なんで俺だけ特別扱いなんだよ! おかしいだろ!!


「個人的な話は終わりだ。

 あのランプには何のバケモノが封印されている?」

「封印!?」

 俺の言葉に驚いたのか、ハンヌ伯爵がずっと手に持っていたランプを取り落としそうになった。

 ……おいおい、しっかり持っていてくれよな。

 たぶん、かなり物騒なものが眠っているのだから。


「お前が俺を義兄と呼ぶなら考えてやってもいいぞ?」

「ふざけるな。 自分の立場がわからないほど馬鹿でもないだろ」

 忌々しいことに、こいつは俺が一番嫌がることをしっかりとわかっていやがる。

 だが、交渉はさせないつもりだ。


「自白剤を使うのと、水の精霊に頼んで記憶を弄り回されるのと、どちらがいい。 選べ」

「やれやれ、薄情な奴だ。

 そもそも我々がこんなことをしなければならないのは、お前のせいなんだぞ?」

 パシの責めるような視線に、俺は返す言葉も無い。


 なぜなら、奴の言葉がおそらく真実であるからだ。

 

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