第4話

「さて、お前たちに出す課題だが……まずは料理を作ってもらおうか?」

「料理?」

 俺の言葉に、妖精たちは何かキツネにつままれたような顔をした。

 だが、俺はその反応を無視して、少し離れた場所でことの成り行きを見守っていたエディスを手招きする。


「こちらの指定した素材で、この子供の舌を満足させてもらおう」

「やっほぉー エディスだよぉ。

 おいしいご飯、期待しているねぇ」

 満面の笑みを浮かべるエディスを前にして、妖精たちはさらに困惑を深めたようだが、そんな事は知ったことじゃない。


 唯一顔をこわばらせているのは、おそらく料理が得意なのであろうシルキー一人だけだった。

 そう、子供の舌を満足させるのはことのほか難しいのだ。


 だが、それだけではない。

 実に珍しいことに、この試験の審判としてエディスはあらゆる意味で最適な人材であった。


 まず、人形の体でも味覚は感じることが出来るので審査が可能なのはもとより、精霊なので物理的な毒は意味が無い。

 そして好き嫌いが多く、野菜が苦手。

 なによりも、失っても惜しくないのというのが最高にすばらしい。


「課題のというのはこれだけですか?」

「そうだ。 この課題のほかにも全部で四つの課題があるが、ひとつでもクリアできたらお前たちをこの街で受け入れてやろう」

 そう告げた瞬間、妖精たちの表情が緩む。

 ……こいつら、今、安堵したな?


 馬鹿め、ここまで条件を緩めたのは貴様らの心をへし折って自暴自棄にさせるために決まっているだろうが。

 それだけ難易度の高い課題だということに、どうやら気付いていないらしい。

 ――ちょろいな。


「では、厨房に移動してもらおう。 ついてくるがいい」

 オーガやゴブリンの兵士が見守る中、牢が開いて妖精たちがゾロゾロと外に出てくる。

 やがて案内されたのは、詰め所の厨房に隣接した裏庭であった。

 そしてその裏庭には、水の入った瓶とテーブル、そしてかまどがあるだけという実にシンプルな設備が容易されている。

 

「では、これが課題の食材だ。 料理人だけでなく、全員の力を合わせて挑むがいい」

「……全員?」

「そう、全員だ」

 おそらく、全員で取り組んだところで成し遂げる可能性はまずない。


「じゃーん、今日の課題はエクス・キャロバーンだよぉ!」

 エディスが脱力するような掛け声とともに取り出したのは、この地に生える魔人参であった。

 それは特に目立った特長の無いただの人参に見える。

 ……ただし、これでもれっきとした第一種魔法植物なのだ。


「人参……ですか?」

「そうだ。 こいつをお子様でもおいしく食べることが出来るように調理してくれ」

 だが、俺はこれが第一種魔法植物であることはわざと伏せておく。

 さぁ、驚くがいい。

 俺はつかんでいた葉っぱから手を放すと、そのニンジンを地面に落とした。


 その瞬間、ザクっと音をたててニンジンの先端が目の前にいた妖精の靴の爪先に突き刺さる。


「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃ! なんだこれは!?」

 幸い、靴だけで足を貫くことはなかったらしい。 被害にあった妖精は怪我も無くただ地面にへたり込むだけであった。


「あぁ、言い忘れたが……この人参は魔法植物で、身にまとった魔力を使って触れたものを何でも切り裂く性質がある。

 強力な魔刃の魔術を帯びていると考えろ」

「そっ、そんなものをどうやって料理するんだ!」

 奇遇だな、まったく持って同感だよ。


「……いつ、誰が、俺の出す課題が簡単なものだと言った?

 ちなみに我が領地でもこれを食料として扱うことには成功していない。

 もし、うちの領地で働きたいなら、このニンジンを食料にするぐらいの能力は見せてもおうか」

 その場にいる全員の顔に絶望が張り付く。


「期限は三日だ。 さぁ、やれ。

 ……火あぶりになりたくなかったらな」

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