第8話

「泥パックの前に、染みや黒子、ソバカスなどを消すオプションもございますが、いかがなさいますか?」

「是非に!!」

 これには女性陣がいっせいに食いついた。

 ……というより目が怖い。


「あとは、植物園の中でゆったりとくつろげるジャグジーや痩身エステや体力増強トレーニング、傷んだ髪のダメージを回復するヘアエステ、薄毛を治療するヘッドスパなども……」

「ぜひお願いしよう!!」

 薄毛治療のところで、多数の男性陣が食いつく。

 その中には、敬愛なるブタ伯爵の声もまじっていた。

 自分には縁の無い悩みなので理解できないのだが、その真剣な目はただ事ではない。

 そうか、そこまで深い悩みなのか……

 女性陣も、痩身の部分で美白とどちらを選ぶべきかかなり迷っているようだ。


「では、こうしましょう。

 どうせ数日はお泊りですし、今から四時間ほど自由行動にします。

 なので、みなさんそれぞれに好きな場所をお楽しみください。

 お手元のカードを提示していただけば、係りの者が目的の場所までご案内します」

 もはや施設の説明ではなく完全に慰安旅行である。


 俺の指示であらかじめ作ったパンフレットを配布すると、全員が食い入るような目でこのスパの施設を調べ始めた。

 そして優先順位を定めると、まるでゴーレムのように迷いの無い動きでそれぞれの気になる部分を対処するブースに旅立って行く。


 どうやら、一番人気は痩身エステ。

 二番人気はヘッドスパのようだ。

 ふむ、ちょっと客の数が多すぎるな。


「管理部、管理部、痩身エステとヘッドスパに客が多い。 人員を回して対処してくれ」

 待ち時間は出来るだけ少なくしたいから、これはリピート率も調べてから人員配備を考えなおしたほうが良いかもしれん。


 さて、この中で最重要人物であるアンナは何をしているかというと……迷わず体力増強トレーニングのブースに向かうという残念な行動をとったと思いきや、いきなりインストラクターとの間にトラブルを引き起こしていた。


「くっ、なぜこんな所にオークが!?」

「あ、あのぉ……お客様? 何かトラブルでもございましたでしょうか」

「くっ、来るな! くそっ、丸腰である時をねらって襲撃を仕掛けてくるとは……なんと卑怯で薄汚い生き物だ!」

 そう言いながら、ペタンと地面にしりもちをついている。


 なんというか、姫騎士とオークの山賊って組み合わせは官能小説でも定番だが、シチュエーションが大きく間違っているぞ。

 それに、ここで働いているオークさんたちはみんな紳士だから客に襲い掛かるようなことは絶対にない。

 見るがいい、彼らの白く輝く歯と爽やかな笑みを。


「えっと、とりあえずお仕事なので説明させていただきますね」

「……貴様の言いなりになどなるものか!」

 どうやら、何か変なスイッチが入ってしまっているらしい。

 なんか微妙に生き生きとしているように見えるのは気のせいだろうか?


「では、まずコレを……」

「わっ、私にそんな破廉恥なものを押し付けるなんて!?」

「裸で運動するわけにもゆきませんから、まずはこのレオタードという服に着替えてくださいね? 更衣室はあちらです」

 指示を受けると、アンナはおとなしく更衣室へと着替えに入った。

 ちょっと心配になってみていたが、ちゃんと指示に従う気はあるらしい。


「はっ、はっ……息が……苦しい。 なんて……タフな奴だ、ここまでこの私をマットレスの上で躍らせて息ひとつ乱していないだなんて」

「はい、自分のペースでいいので、できるだけこちらと同じ動きをしてください。 ワンツー、ワンツー、はいここからはストレッチにはいりまーす」

「あっ、んんっ、だ、だめっ……痛い!? あっ、だめ、これ以上は耐えられない……もぅ、だめ……お願い、もう許して……」

「はい、ストレッチをする時は息を吐いてー 体がちょっと硬いみたいですねぇ」

「……お、おのれ、このような屈辱……」

「あー まだ力入ってますね。 全身の力を出来るだけ抜いてください」

「くっ……殺せ!」

「はい、いいかんじです! では、次のエクササイズをご説明しますね!」


 なんか楽しそうだし、あれは放置しておいたほうがいいだろう。

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