第二章 魔境は宝の山だった
第1話
カ・カーオの件で王都から戻った翌日。
俺は再び何か売り物になるものはないかと探すことにした。
アンナから報奨金を大量に貰ったので当分は金に困らないだろうが、あぶく銭は泡のように消えるというのが世の慣わしである。
ゆえに、もっと安定した収入が欲しいのだ。
もっとも、収穫したカ・カーオで稼げば相当な収益になるのだが、地の精霊の曰く無理をすれば土が痩せてしまうとの事なので過信はしないほうがいいだろう。
それに、カ・カーオを育てるだけの生活など面白くないし、領地も発展しない。
何よりも、探求の無い生活は小説家らしくないのだ。
だが、何から作るべきか。
いや、その前に俺はこの土地と、この土地にあるものを熟知していない。
「よし、図鑑を作ろう」
「……どおしたのぉ、クラエス。 何か悪い物でもたべ……いたたたた、顔をつぶすのはやめてよぉ」
失礼なことを言いそうになったエディスの顔面をがっちりとつかみ、俺はかつてこのダメ精霊が口にした言葉を確認することにした。
「エディス。 たしかお前は、この領地の植物のほとんどが魔法植物化していると言っていたな?」
「うん、それで間違いないよぉ? ほら、このオオイヌノフグリも、ちゃんと魔力を帯びている立派な魔法植物なんだからぁ」
エディスが地面を指差してそう答えるが、俺にはまったくわからない。
「……見た目ではまったく区別がつかないな。
たしか、こういうのは第二種魔法植物と呼ぶのか」
第二種魔法植物とは、単に土地の魔力を吸って変質したほぼ一代限りの魔法植物である。
その魔力に遺伝性は無く、収穫した種の段階までは魔力を持つものの、発芽した時点で普通の植物と変わらなくなるのだ。
しかも、見た目に関しては元となった普通の植物とまったく変わらないものが多いため、誰もその存在にすら気づかないことが多いと聞く。
ちなみにマンドラゴラやブラックロータスなどの最初から魔力を帯びている植物は第一種魔法植物と呼ばれ、こちらは非常に奇抜な見た目をしているものが多い。
なお、キラークリーパーなどといった植物型モンスターは第三種魔法植物に分類される。
「そういえば、今までこの領地で農民の作った作物も第二種魔法植物になるのではないか?」
「あぁ、それねぇ。 あたしみたいに死に掛けた精霊がぁ、自分の寿命を延ばすためにこっそり魔力を吸い取って普通の作物に変えていたのぉ。
あんまりぃ効率よくないから、気休めにしかならないんだけどねぇ」
なんというか、それでよかったのか悪かったのか判断しかねる返答である。
「とりあえず、今現在……春先に生えている植物について調査とデータの編集を行おう」
俺は執務室のテーブルにおいてあった卓上ベルを鳴らすと、秘書役の風の精霊を呼び出した。
「魔法植物の図鑑を作りたい。 風の精霊たちに調査を依頼する」
その瞬間、窓の外でゴォッと強い風が吹き荒れた。
どうやら、精霊たちが調査に出発したようである。
俺は彼らのための机の上に紙束を積んで、部屋の窓をすべて開いた。
すると、早速ペンが一人でカリカリと文字を記し始める。
どうやら近場の植物のデータをさっそく持ち帰ったらしい。
「さて、俺たちも出かけるか」
俺はスケッチとメモ用の紙、そして筆記用具をかばんに入れてエディスに声をかけた。
「わーい! お散歩だぁ!!」
「やはり、自分の足であるいて調べた情報というのは何物にも代えがたいからな」
窓の外は青く晴れ渡り、歩くには気持ちのいい天気である。
――なにか面白いネタがあればいいのだが。
そんなことを考えながら、俺は期待に胸を膨らませつつ靴紐を結びなおし、外に出た。
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