epiosode03 :回りだす/歯車

死屍累々、とはこのことだろうか。

 たくさんの死体に、一人たたずむ銀髪の怪物。

 こんな目をそらしたくなるような光景に正義なんて語れるのか? 言いようのない矛盾に駆られてしまう。


「ボス!」


 ティナが歓喜の表情で叫ぶ。

 ボス!? ってことはこいつが...ブラックナイトの親玉ってわけか。

 血染めの鉄をはじくような透き通る声を響かせ、彼女は答える。


  「ティナ、無事か? デイビスたちは?」


 ティナの表情が一変する。

 確かにあったはずの歓喜の色はかき消え、悔しさに顔を歪める。


「……デイビス・ロマーリオ、シルヴェス・ロードアイン、エリザベス・フォルトーナは……偵察任務中に敵に発見され、戦闘区域離脱中に……戦死されましたッ!」


  報告を受けた女はゆっくりとティナに近づき、憂い気な表情を浮かべ、ねぎらうように彼女の右肩に手を置き、報告に返答した。


「そうか……お前だけでも帰還できて良かった。……また惜しい人間たちをなくしてしまったな」


 そこで限界だったのか、ティナはわあっと泣き崩れてしまった。

 偽りようのない彼女の本音。

 自らの意志でせき止めていた涙のダムを女の一言で一気に解放させたように咆哮を上げながら、溢れ出す涙を左手で拭いながら。

 少女は泣く。

 せき止めていた悲しみを吐き出すかのように。

 それを見る女の目はどこか母性的な魅力を放っていた。


「さて……」


 俺は一瞬で鋼鉄の右手に首根っこをつかまれ、締め付けられたまま流れるようにぬかるんだ地面に叩きつけられた。

 肺の空気を全て吐き出され、声にならない叫びを上げる。

 とてつもない力で締め付けられており、外そうと抵抗を試みるも、指一本動きはしない。

 あくまで無表情、しかしさきほどのどこかぬくもりのこもった声ではなく、絶対零度の息吹のごとき凍てつく音色で宣告する。


「お前には二つ選択肢がある……一つは、不幸にもこの場に居合わせた運命を呪いながら口封じのためにこのまま首をへし折られて命を散らすか……」


  命を散らす。

 事実上の死の宣告。

 俺の心臓がドクン! と一際大きく跳ねる。

 さっきのティナを守るという使命感でマヒしていた生存本能が目を覚ました。

 まるで頭からドライアイスをぶちまけられたかのように全身から熱が引いていく。


「クソ……こんなところで……まだ……まだ……」


 この世界のこともまだわかってないのにまだ死ねるか!

  ティナも涙で目を腫らしながら必死で訴えかける。


「ボス! そいつは私を命張ってまで助けてくれたんだ! 頼む! この通り! そいつの命だけは見逃してやってくれ!」


 ティナは座ったまま頭を下げる。

 悪魔は変わらず無表情で告げた。


「二つ目は、私たちの仲間になれ、連邦軍に囲まれてもなお抵抗する意思を持つ強い心、その度胸、なかなかそう簡単に手に入るものじゃない。私はお前が気に入った。お前がどういう目的を持ってこの危険な土地をうろついていたかは知らん。だが、ソレ・・を持っている以上、お前も戦う宿命に選ばれた側の人間ってことさ。さあ、どうする?私はどちらの道を選んでも構わんぞ。なあに、たかが首を折られたところで人より死ぬのがいささか早くなるってだけだ。何も特別なことじゃない」


「ヘッ……最初から選択肢なんて用意する気はないくせに……」


「おっと、これは意外だな。てっきり、無防備の状態で連邦軍に飛び出すなんてマネ、自殺願望者でなくてはそんな気は起らないものかと思ったもんでな」


「あいにく、もう予約は取ってあるもんでね、死ぬならベッドの上で安らかに、愛しい彼女に看取られる最後を添えて。きっと最高級の味わいに違いない。それまではどんな大見得切ったって必ず生き残れるようになってんのさ」


「ハッハッハッハ!こいつは傑作だ!お前、ますます気に入った。いいいだろう、歓迎するぞ。新たなる弟よ」


かくして俺の運命のアクセルは回りだす。周りのすべてを巻き込みながら。

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