第2話

放課後、香山と一緒に部活見学をした。


まずは外で行われている部活動。


・サッカー

・野球

・ラグビー

・テニス

の順で見て回った。


運動はバスケしかしてこなかった為4つのうちどれも興味をそそられる部はなかった。


ただ香山は最初から最後まで楽しそうに見学していた。


やっぱり運動は全般好きらしい。


「あの岡山先輩すごかったな!めちゃくちゃ足速かったし!」


香山が話している岡山先輩とはサッカー部に所属しているエースだった。


たしかにすごかった。サッカーは詳しくないのでなにがすごかったかは上手く言えないけど、でも誰が見ても”すごい”と思えるような選手だった。


だからすごいと思えたのか。技術的にも。そう足の速さでも。


どうやら木山高校で一番足が速いと聞いた。


というより今香山が話している。


「木山高校で一番足が速いんだってよ!」


「お前そういう情報どこで入手するんだ?」


「ん?どこって玄関に張り紙があっただろ?全学年50m走ランキングのやつさ」


気づかなかった、ていうかよく覚えてたな。


「以外と見てるんだなそういうの」


「勘違いしないでほしいな、俺は学校行事の日程とか生徒会が制作している壁新聞は毎日ちゃんと確認しているんだぜ」


「なら毎日教科書も欠かさず確認しろよ」


「それは無理だ。教科書は確認すればするほど頭がおかしくなるからな」


「それはお前の頭の悪さが原因だろ」


外の運動部を一通り見て回った後、体育館につながる渡り廊下の隅で休憩しながらそんなことを喋っていると体育事務室から担任の野田先生が出てきた。


「おっ、九重と香山じゃないか、何してるんだ?」


「部活見学で〜す」


香山が答えた。


「おおっそうか!なら是非ともバスケ部にどうだ?お前たち中学の頃はバスケをやっていたんだろう?」


野田先生はバスケ部の顧問だったのか。知らなかった。


香山は知っていたようだな。


「先生、前も言ったけど”俺達”は帰宅部に入部予定ですよ」


俺達って・・俺まで巻き添いか、まぁいいかどうせ帰宅部になる気満々だったしな。



「それは聞き捨てならんな、この学校は部数が多いわけじゃ無いがどの部活もそれなりの成績を残してるんだ」


たしかに運動系なら野球部、ラグビー部はこの木山高校がここら辺の高校で一番強いらしいな。


文化系ならたしか、漫画研究部や茶道が有名だな。金賞を何度も取っていると香山が言っていた。


「部活をしているだけでこの先、就職活動なんかに役立つぞ?」


「先生その話はまだ早いですよ、俺達まだ入学して1週間ですよ」


「はははっ、そうだったな、まぁなんにせよ部活には入った方が良い、特にバスケ部とかな」


「先生、もうバスケ部に入れたいだけじゃん」


二人は笑っている。野田先生は明るくてとても元気だ。年の割には若く見えるし生徒から人気な先生だ。実際俺も野田先生は面白いし良い先生だと思ってる。


野田先生は国語の先生だ。ちなみに古典担当。


見た目は完全に体育の先生なんだけどな、いつもジャージだし筋肉質だし。


「なぁ真也、そろそろ中に入ろうぜ」


気がつくと野田先生はいなくなっていた。


「あぁ、そうだな」


「早くしないと部活終わっちまうぜ〜」


「まだ1時間はあるだろ」


午後5時頃、俺と香山は体育館に入った。


外からはボールを叩く音や女子達の気合の入った掛け声が聞こえていた。


バレー部だろうか。


靴を脱いで体育館用の上履きに履き替える。


体育館の重い扉を開けるとさっきまで聞こえていた掛け声が倍近く大きくなって鼓膜に飛び込んできた。


飛び込んできたのは掛け声だけじゃなく。あれは・・・ボールか!?


バーン!!と大きい音を鳴らしながらそのボールは見事香山の顔面にクリーンヒットした。

「ってぇーーかなり痛てぇ・・・」


「ごめんなさい!!大丈夫ですか!!?」


スポーツウェアを着た身長の高い女子が駆け寄ってきた。


「あぁ・・大丈夫ですよ・・これくらいよくある痛みです」


(よくある痛みってなんだよ・・。めっちゃ痛そうじゃん)


俺は横目でそんなことを思いながらとりあえず心配そうに香山を見ていた。


「すぐに保健室に連れて行きますね!」


「いいや、大丈夫ですよ本当に・・ははは・・いてっ」


「でも鼻血がでてます・・」


「んっ?ほんとだ・・真也ティッシュもってないか?」


「残念だが俺はそんなに女子力が高く無い、持ち歩いているのはスマホか財布ぐらいだ」

自分でも冷たいと思うくらいそう言った。


「私のハンカチ貸しますね。ちょっと待っててください」


「ああ・・まって・・」


香山の声も聞かずに背の高い女子は”女子更衣室”とプレートがかかっている部屋に入って行った。


ピィーーー!!と甲高い笛の音が鳴った後に「休憩ーー!!」という掛け声が聞こえてきた。


「大丈夫?麻耶のアタックが当たった?」


と半分笑いながらこちらに話しかけてきたのは先ほどの女子よりもずいぶん背が低い女子だった。


「ああ!!葉山先輩!!」


と香山が驚きながらそう叫んだ。


「相変わらずうるさいなーーもう!」


「なんで葉山先輩がバレーやってるんですか?バスケは?」


「バスケは辞めたよ。入部して半年でね」


「そうなんですか。なんで辞めたんですか?」


「まぁ色々あってね、今ではバレーの方が楽しいしね!」


「へぇ〜あんなに上手だったのにもったいないなぁ」


「そんな話はおいといて何しにきたの?まさか見学?」


おそらく葉山先輩とは香山の中学の時の先輩だろう。それも同じバスケ部だったんだろうな。


その葉山先輩とやらは不思議そうに訪ねてきた。


それもそうだ、周りを見渡してみればこの体育館には女子しかいない。


女子バレー部と緑色のネットの向こうには女子バドミントン部。


それ以外の部活は見当たらない、そして男子生徒も。


「そうですよ〜部活見学に来たんですけど・・・まさか女子しかいないとは」


「体育館を使用する男子の部活はバスケか卓球だけなの、今日はバスケ部休みよ」


「えぇ・・そうなんですか残念だな〜」


「お前は帰宅部に入るんだろうが」


すかさず俺はつっこんだ。


「なに浩太郎、部活入らないの?」


「まぁね、高校生活は遊ばないともったいないじゃないですか!」


意気揚々と香山はそう答えた。こいつときたら全く・・・


「あんたこそバスケ部入ればよかったのにもったいない」


そんな会話をしているうちに先ほどの背の高い女子が帰ってきていた。


「鼻血止まってますね」


「うおあ!びっくりした・・いつのまに」


全く気づかなかったがずっと会話を聞いていたらしい。


「みずちゃんと、えっと・・"香山君"?知り合いだったんですね」


みずちゃんとは、たぶん葉山先輩だな。


「先ほどはごめんなさいね、あっ私は細恵川麻耶と言います」


なんだか運動部には似合わない風情だ。とても落ち着いている。


「これ渡しておきますね、はい」


そう言って細恵川先輩はピンクのいかにも女子というハンカチを香山に渡した。


なんだか随分と長い時間を過ごした気がする。


体育館を出ると中から笛の音に続いて「休憩終了ーー!」と聞こえてきた。


またボールを叩く音と気合の入った掛け声が聞こえる。

「やっぱ夏だな〜この時間でも明るいや」


香山はピンクのハンカチを大事そうに持ったままそう言った。


「細恵川先輩か・・美しかったな・・・」


「お前はそんなことばっかり考えてたのか」


「はっ!?お前もそう思うだろ!!これは恋ってやつなのか!!?」


全く能天気なやつだな。俺は”葉山”と”香山”呼び方が似てるなと、そんなどうでもいいことを考えていた。


もしかしたら俺の方が能天気なのかも・・。


「どうする?明日また来るか?」


「行くに決まってるだろ!細恵川先輩に会えるのなら!!」


「お前・・ちげーよ見学だよ、明日はバスケ部いるだろ」


俺は半ば呆れながらそう言った。


「あ、あぁそうだったな見学だ見学!明日はちゃんと見学するんだからな!」


「はいはい・・」


とりあえず今は暗くなる前に帰りたい。ただただそう思った。

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