嫌いな奴がいる

さゆ

第1話

7月21日

朝起きて歯を磨き顔を洗う。


朝ごはんは食べない。というより食べたくないのだ。理由は特に無いけど、まぁ朝は食欲が湧かないと言っておこうかな。


歯を磨いた後すぐに制服に着替えてテレビで流れているニュースを10分程見てから家を出る。


早起きは得意じゃないので、朝起きるのは毎日決まって家を出る30

分ぐらい前だ。


俺の朝には余裕がない・・


学校までは自転車で20分。


この時期だと登校するだけで汗をかく。だから夏は好きじゃない。


むしろ春夏秋冬で一番嫌いな季節だな。


家を出た時間は7:40分くらいだから学校に着くのは8:00頃。


8:15分にSHRが始まるのでそれまでに教室に入れば遅刻にはならない。


高校生活2年、俺は遅刻したことがない。


まぁ学校に着くのは大抵遅刻ギリギリってところだけど・・


閑静な住宅街を抜けると、商店街の入り口が横目に映る。


平日は静かな商店街だが土日になるとなかなか賑わう場所だ。


俺はそんな商店街が好きだった。


ちゃんと街が”生きている”っていう感じがする。


商店街を抜けると小川をまたぐ橋が見える。


そこまで大きい橋ではないが3年ほど前に新しく造り変えられたためとても新しく綺麗だ。

橋を渡って小川に沿って自転車を運ばせると俺が通う木山高校が見える。


学校に着いたらまず自転車置き場に向かう。


俺が自転車置き場に着く頃にはいつも”あいつ”がいる。


須川与一。こいつが学校に着く時間は俺とほぼ変わらないっていうのが意外だ。真面目だし。


これは俺の勝手な思い込みだけど、ああいう真面目で根暗な奴って朝早くに登校していつものように教室の隅で読書をしているイメージだった。


授業態度は真面目で教師達から気に入られている。


成績も良いのかな?知らないけど。


(そういえば、一ヶ月だったかな?)


初めて須川と会話してからちょうど一ヶ月経った。


(もう一ヶ月か・・・)


そんなことを思っていると後ろから声が聞こえた。


「真也ーーーっ!!」


「んっ!?」


自転車に乗って猛スピードでこちらに向かってきたのは2年3組の香山浩太郎だ。


タイヤがキィーと高い音を出すとともに自転車が停止した。俺から約5cm程前で。


「お前っ・・危うく轢くところだったろ!!」


「ん?危うくっていうか轢くつもりだったけどな!!ははっ」


「ははっじゃねぇよ・・・朝から何だよでかい声出して」


「何だよって何だよ、さっきからお前の後ろついて行ってたんだぞ」


「声かけろよ、気づかないだろ・・」


「いやいや。声をかけようと思ったんだけどさ」


「なんだよ・・」


「お前、夏の暑さのせいか随分と怖い顔になってたぜ」


香山は冗談交じりにそう言った。だが俺が怖い顔になっていたのは夏の暑さだけのせいじゃないだろう。


俺の前を歩いていたのは須川だった。香山はそれに察したようだ。


「お前、なんでそんなに須川のこと嫌ってるんだ?何かされたのか?」


「お前には関係ないよ」


「えぇ〜なにそれ、そんな冷たいこと言わなくていいじゃ〜ん。俺たち親友じゃ〜ん」


香山はまたも冗談交じりに、そしてわざとらしく落ち込んだ。


まったく朝から香山と関わると疲れる・・。


と言っても学校では俺と香山はほとんど一緒にいる。


香山と出会ったのは高校からだ。


俺が入学した木山高校は中学時代住んでいた場所から少し離れている。


だから中学の時仲が良かった友達は皆別の高校に進学した。


この木山高校では中学時代の俺を知ってる人はいない。


とは言ってもなんの変哲も無い学生だったが。


なぜ皆と同じ高校に進学しなかったかは親の仕事の関係で引っ越したからだ、こういうのは世間でもよくあることだろう。


引っ越したと言っても前に住んでいた場所から距離だけで見るとそこまで変わらないが、今住んでいる家からこの木山高校が一番近かった為この学校に進学した。


別に中学時代の友達とは会おうと思えば会いに行ける距離だったしそこまで悩みはしなかった。


香山は1年3組、俺も同じ3組になった。


香山は中学時代バスケ部に所属していた。


俺も中学の時はバスケ部だったのでそこから話が合って次第に一緒にいる事が多くなった。


まぁ席が隣だったのが一番の理由だな。


入学して1週間が経った時、担任から”入部届け”と書かれたプリントが配られた。


「バスケ部??いやぁ〜運動部はやめとくよ」


「そうか、じゃあ文化系の部活に入るのか?」


「いやぁ〜文化系の部活は俺には向かないわ、こう見えて不器用なんだよな・・へへ」


香山の容姿は誰が見ても不器用な見た目だ。


髪の毛は短くツンツンと先立っていて茶色がかっている。


顔は悪く無い、むしろ整っている。まぁ世間一般的に言う”チャラい”って感じかな。


運動はできそうな見た目だが、手先は・・確かに不器用そうだな。


まぁ俺も人のことは言えないけど。


「バイトでもするのか?」


「バイトも考えてるけど、今は帰宅部志願ってとこかな」


「帰宅部か・・それはこの学校の正式な部活動じゃないぞ。せっかくバスケやってたんなら続ければ良いじゃないか、どこか怪我でもしてるのか?」


「いやどこも怪我はしてない、至って健康体だ!」


「あっそう・・」


「そういう九重っちは何部に入るんだ?」


(九重っちってなんだよ・・・)


「俺は・・まだ決まってないな」


「な〜んだ、じゃあ一緒に帰宅部に入部しようぜ!!」


「んー・・・」


なんだかんだ言いながら俺も帰宅部志願者だったりするんだよな。


最初は香山を誘ってバスケ部にでも入部しようと思ったが。


この調子では俺も帰宅部だな・・笑。


午前の授業が終わり4限目終了のチャイムとともに昼休みになった。


「なぁ、放課後ちょっと部活見ていかないか?」


香山と同じ机で売店で買ったコロッケパンを食べているとそう言って誘ってきた。


「なんだ?お前は帰宅部だろ?帰宅部の活動だったら帰り道いくらでも見れるだろ」


「ちげーよ、せっかくだしさどんな部活あるのか見たいじゃん」


「まぁ暇だし別に良いけどさ」


「よし決まりだな!まず何部から見学しようかな〜。あっそうだ、まずは外の部活から制覇していこうぜ!」


なんとなく分かった気がする。こいつは気分屋だ。本当になんとなくだが。


色々とめんどくさいやつだが憎めない。どうやら俺はこいつと気が合うらしい。


まぁそんなこんなで高校生活初めての友達ができたっていうわけだが。


言っておくけど香山以外に友達がいないわけじゃない。それは香山も同じだ。


香山も俺も他の友人が次第に増えていった。


その中でも一番気が合うのはやっぱり香山だった。

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