D5 ドドンと始まった花火大会

<♪ ピンポンパンポン。こちら藤宮夏祭り実行委員会です。間もなく、花火大会が始まります。立ち入り禁止区域には入らないようにご協力ください。 ♪ ポンピンパンポン>


「はっ花火大会が始まるみたいだね。……心さん」


 うお!

 まっ又、「心さん」だなんて。

 今年は急接近じゃないかあ、ひなた君よ。


「最後の大輪の菊あるでしょう。私は、それが好きよ」


 ぼっ僕を好き?

 え、ああ、菊ね……。

 しっしかも、花火の事か。


「うん、いいよね。菊」


 えーと、こう言う時に、どうエスコートしたらいいんだよ。

 僕は、こっ心さんに何か言わないと。


「僕はね、かっ可憐な『雛菊』も好きだよ。毎年うちの玄関先で、かっ母さんが面倒をみるんだ」


「そうなのね。『雛菊』って可愛いわよね。あら。『ひなぎく』? 今、聞いたような……?」


 だあ!

 しまった。

 墓穴掘った。


 ◇◇◇


「おいおい。兄ちゃん達、ちゃらちゃらしてんな」


 男の財布にさげられた鎖がちゃらちゃらうるさいよ。

 せっ清潔感ないよ、お兄さん。


「さっきのおっぱいのない姉ちゃんじゃないっすか、アニキ」


 ハエの子分みたいな干川が、ハエの如く胡麻すりなんかして、一番可哀想に見えた。


「えっ、あら。さっきの喧嘩の人達かしら? 奇遇ですわ」


 こっ心さん……。

 わざわざ振り向いて、やっ止めよう。

 そこは、スルーで行こうか。


「呑気にしてんぞ、このまな板ねーちゃん」


 しっ澁谷が、どかどかと寄って来た。


「まな板。私が、まな板ねーちゃん……」


 心さんが、具合が悪そうだ。

 たっ大変だ。


 くらくらくらくら……。


「こっ心さん。しっかりして。この木にもたれ掛かっていてね」


 やっとの思いで、話しかけた。

 心さんは、随分とくらくらしている。

 だっ大丈夫かな。


「よっよし。さっきの奴らか。かかって来い。じょっ上等だぞ」


 えええええ?

 僕が、かかって来いだなんて。

 へっ平和主義はどうしちゃったの?

 心さんがいるから……。

 てへへ。 


「奴ら? よくそんな口叩けるな。こちとら喧嘩上等だぜ」


 澁谷と干川は、わっ悪い態度でこっちへぶらついて来た。

 いっ石和のアニキは、無言でポケットに手を入れて突っ立っていた。

 ただ、顎で二人にやれと言っただけだった。


「痛い、痛いと泣きな」


 吐き捨てたのは、くっ暗がりにいる石和だった。

 ボカッボカッ。

 ドカッドカッ。


「又、蹴っ飛ばしてやらあ!」


 ボッコーン!

 僕は、土手の茂みに入れられた。

 この辺、確か立ち入り禁止区域だったよな……。

 そっそれにしても、いってー。

 又、体中が、悲鳴を上げているよ。

 いっいたたた……。

 痛いよ、父さん。

 父さんも、同じ位、殴る蹴るあったんだからね。

 ――シュキュイィーン!

 又もや突然、ピンクの光にくるくると包まれた。

 綺麗だな。

 まっ繭みたいだ……。

 気持ちがころんとして来た。

 さあ、左手を挙げて叫ぶんだ……!


『羽衣天性! Dカップアップロード』


 ポニーテールでセーラー服の美少女に変身だ!

 僕のまな板が、むきむき、『Dカップ』だぞ。


『Dカップ美少女JKひなぎく! 見参!』


 登場と同時の踵落とし。


『Dカップキック!』


 ぷるん。

 回って振り向きつつ左で突き。


『Dカップパンチ!』


 ぷるんるん。


「や、止めて。そんなに、『Dカップ』ばかり言わないで」


 こっ心さん、弱々しくも声をあげて。

 大丈夫なのかな。


『いいだろう、母に似て、たわわなんだぜ』


 非情なまでに、自分の胸をたぷぷんと持ち上げた。

 なっなーんて事をやってんだよ、僕は。


「私は、父親似なの? よく、今日みたいにまな板とか言われてしまうの」


 やっぱり、心さん、気にしているじゃないか。

 僕は最低な事をしているんだな。


「一五センチも違うのよ……?」


 ヒュードン。

 ヒュードドドン。

 しまった、お楽しみの花火が始まってしまったよ。

 こっここは、立ち入り禁止区域で危ないし。


「一五センチも違ったら、天国と地獄の差よ……?」


 心さんが、よろっと立ち上がった。


『どっちが、天国か地獄か。どちらにしろ現実よ。認めなさい』


 ぼっ僕は、ポニーテールを首でふさりとした。


「酷いわ。生まれつきなのに、もう膨らまないって現実なのかしら」


 胸の前で手を組み祈る心さん。


『思い知らせてあげるわ』


 ぼっ僕は、何すんの?

 心さんと闘うの?

 止めるんだ……!

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