隣人は二度ベルを鳴らす

「みどりぃー。今日帰りにどこか寄らなぁーい…?」

どこか気だるそうに私にそう言ったのは同じ大学のサークルの友達だった。

「そうしたいのはやまやまなんだけど、このあと観たいテレビがあるのよね!ごめんっ!」

実を言うと観たいテレビなんてないんだけど、隣の家の幼なじみの面倒を見る口実だった。

「むぅ…いつもそう言って帰るよね、そんなに面白いの?」

「えっ、あ、あー…うん!すっごーく面白いの!」

私はどうにも嘘が苦手だからバレてないかヒヤヒヤしている。

「ふぅーん…まあそれならいいけど!あっ、じゃああたしファミレス寄ってくからここで。またね!」

「うん、ごめんね。また明日!」

私は友達と別れて、急ぎ足でアイツの家に向かった。

家に帰ると────

「あっ、未鳥ちゃん、おかえり。」

とはきはきした声が聞こえてきた。

宗介こと、隣の家の幼なじみのおばさんだった。

「あっ、ただいまです、おばさん!…ってあれ、今日は早いですね。これから宗介のことを見に行こうかと思ってたんですけど」

「うっふっふ…ごめんねぇ、今日は早番だったのよ。だから未鳥ちゃんがいつもソウちゃんを独占してるけど今日はおばさんが独占するの。」

とからかうようにおばさんはそう言った。

「ち、ちがいますから!うちの母親が宗介のことを見てあげなさいってうるさいからで、私は別に宗介のことなんて…」

「はいはい、わかってるわかってる。未鳥ちゃんがソウちゃんのことすごーーく大好きだってことが!」

おばさんのいつもの態度に呆れ半分恥ずかしさ半分な私におばさんはこう続けて

「あっ、これね会社で今日もらったのよ。未鳥ちゃん、これでうちのソウちゃんをメロメロにしちゃいなさい!私はいつでも未鳥ちゃんがうちの花嫁に来てもいいように準備してるんだから!」

「は、はなよ…!?ほ、ほんと、そんな気はないですから!そ、それに…宗介、顔はいいし、性格はちょっとアレですけど仲良くなると優しかったりしますから女の子が放ってませんよ…」

よほど私の態度がおかしかったのかおばさんはふふふと笑っていた。

「大丈夫、大丈夫。ソウちゃん、いつも未鳥ちゃんの作ってくる料理うまいうまいって言って食べてるし、よく未鳥ちゃんのこと話すんだもの。脈アリだとおもうんだけどなあ…ま、そういうことだから、一応これソウちゃんにも渡しておくから行ってあげてね」

そう言っておばさんは自分の家へと帰っていった。

その日の夜。

「うー…何着ていこう。いきなりなんだもん。決まらないよ。……でも、宗介とおでかけかぁ。何年ぶりかな。宗介が高校に入ったと同時に話すことがなくなったもんなあ。」

ピロリン、と私のケータイから通知の音声が鳴る。

宗介からメールだった。今時LINEとか使わないところ変わってないなあ、と懐かしみつつメールを開くと

「今度の日曜日、暇なら…来い」

と書いてあった。相変わらず上から目線なんだから…まあでもこれが信頼の表れなんだもんね。

「宗介が行くなら私行くよ!…っと、送信。」

よし!今度の日曜日は勝負も兼ねて気合の入った格好にしよう!

服を決め、私は布団に入った。

このときの私はまだ日曜日が残酷で非現実な日になるとは思いもよらずに────

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