第6話 おんなのこ
夜遅く、人気のない道。自宅はすぐそこなのに、白い外灯にすがるような思いで歩いていたのは、悪い予感しかしないからでした。
まっすぐ歩いて突き当たりを右に行けば、視界も広がり、もう少し明るくなるし、自宅も見えるのです。そこまでは決して気をそらさず、うつ向いて歩こうと自分に言い聞かせたはずなのに、つい横を見てしまったからこのお話が書けてしまうようなことになったわけなのです。
気配に対しての反射として、右上を見てしまった私は、塀の上に女の子がいるのを見ました。見たか見てないかわからないほど素早く視線をそらしたはずなのに、見てしまいました。ふだん、物覚えなんて相当に悪いはずなのに、こういうときに限って、瞬時記憶というものが働いてしまい、女の子の様子をしっかりと記憶に焼き付けてしまいました。
その子は赤くぼんやり光る提灯みたいなものを持っていて、体は私と同じように前に向けて歩いているのに、顔だけをこっちに向けている姿がとにかく怖いのです。平行に、すーっと動く様もとにかく怖い。
まず、暗い夜に女の子が一人でいること。次に、そのぼんやりと光る提灯のようなものは、どこに行けば買えるのかということ。更に、女の子が塀の上にいること。そして、私の動きに合わせるようにして、動いていること。悲しいかな、関西生まれ関西育ちのわたしは、このような事態においても、ツッコむ余地のある箇所を数えることを欠かしません。
とにかく、理由はないけれど、走って逃げると何かがゲームオーバーになりそうで、「歩き」と呼べる動作の中で最も速いと思える速さにまでに加速し、神経をできる限り自宅に向けて逃げました。
恐らく、塀の端までしかついて来ていなかったのだと思いますが、部屋に入ってもまだ自分の視界が信用できず、布団をかぶって目をつむり、さっさとその日を終わらせました。
その後、再び女の子に出会うこともなく、数年後の現在は塀のあったところを含めて周囲に何軒か庭付きの新築が建ち、新しく、幸せそうなご家族が越してこられました。夜道は相変わらず暗い場所ではありますが、夕方はランドセルを背負った子供が楽しげな声を上げながら行き交い、日が暮れても楽しいバラエティ番組を見ながらご家族で談笑する声などが漏れ聴こえてきて、雰囲気はずいぶん明るくなりました。もう、おばけなんか出そうにありません。
ただ、ちょうどあの塀があった位置のお家だけ、また引っ越しがあって、売りに出されている様子もなく、ずっと空き家のままなのです。
よろしければ、庭付きのお家なんて、いかがですか。
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