第11話 9月1日 体育祭
まだまだ夏の暑さが残る9月頭。まばらな雲に真っ青空の下、競技に出る以外の時間は本部テントにいる柊也と一緒にカメラ片手に取材に出た。あまり走れない柊也の代わりにあちらこちらに駆け回り、気がつくと競技よりも走り回っているんじゃないかと思うくらいだった。
昼食、新聞部がみんな集まる。
疲れてぐったりするみんなを他所に、秋月の招集がかかる。運動神経の良い秋月は最終競技のリレーの選手を任されているのだ。今年で2年目。
3年生に連れられて教室を出た秋月を横目にヒナちゃんが冷たいアイスを嬉しそうに頬張る。
最終競技とあって、ギャラリーは大盛り上がりだった。
各組のそれぞれクラスから男女2人出してするそのリレーは走順も恒例で一年生から二年、三年のアンカーへとバトンが渡る。
秋月の出場は、二年男子になるので最後から3番目。その頃、本部テントの中には新聞部は全員揃っていた。
夏樹と僕で各コーナーでカメラを構えて待つ。本部前のゴールでは柊也とヒナちゃん、森岡さん達が。
ピストルの合図で一斉に走り始める。
観衆の声が一層大きくなり、1人200mをあっという間にバトンが渡る。無我夢中でシャッターを切る。
二年女子に渡り、次は我らが秋月。
カメラのレンズの中から秋月を覗く。走り出し、バトンが渡る。バトンを持ち替えスピードが上がる。1人、また1人と抜き上げる。かなり早い。贔屓ながら、二年男子は目立つ秋月の写真が多くなりそうだ。その走り、涼しい横顔、あのサックスの一年生は見ているだろうか。普段の秋月以上に魅入ってしまう。
再びバトンが渡り、秋月がコースアウトしてゆく。そのままカメラのレンズで次走者を追う。秋月が4人追い上げたおかけでトップになっていた。リレーはそのままトップを維持し1位でゴールテープを切る。それと同時に盛大な歓声。やっとカメラから目を離す。
体育祭が終わり、一旦PC室に寄りカメラの写真をフォルダに保存する。手元には3台分のカメラのSDカード。
まずは夏樹のデータを。続いて柊也のを。最後に僕のデータを移している時にある事に気付く。
僕らはカメラを使っていない間、本部にいる柊也に預けていた。柊也は基本、テントからあまり出ない。取材に出るときは柊也に声をかけてカメラを渡してもらってから取材に出ていた。夏樹か?ヒナちゃんか森岡さんか、競技に忙しいで秋月ではないだろうが、その僕の使ったカメラには膨大な量の、ほぼ全生徒分あるであろう写真が入っていたのである。
5人から10人ずつ、競技中のものまで。僕の知らないような名前の人たちの写真が広がる。そして、その写真達はみんな笑顔で写っているである。これだけ笑顔の写真が撮れるなんて。それにこの量。
その写真も含め、一旦新聞部の写真フォルダに保存する。日を改めて各自編集となる。
パラパラと写真をスクロールしてゆく。リレー中の写真の中から秋月を見つける。その写真は走り終わってコースアウトしてすぐのものだった。
こちらに向かって笑顔で手を上げている。
この写真はきっと柊也が撮ったもの。この秋月の笑顔は、応援する同じ組のみんなではなく、テントにいるたった3人のクラスメイトに向けられているのである。
秋月を変えたヒナちゃん。
理由を聞いてもきっと、秋月なら困った顔をして笑うんだろうな。
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